日本の軽自動車市場が、いよいよ本格的な「全面電動化時代」へと足を踏み入れようとしている。その最大の決定打となりそうなのが、スズキから満を持して登場した同社初の軽乗用EV「e SKY(イースカイ)」の存在だ。

文: 小林 淳
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純ガソリン車よりもお買い得感が高い「e SKY」の登場でどうなる?

これまで「軽EV」といえば、「近所の買い物くらいにしか使えない」「バッテリーがすぐ切れて遠出は不安」といったネガティブなイメージを抱くユーザーも少なくなかったはずだろう。だが今回デビューした「e SKY」は、1充電あたりの航続距離を310km(WLTCモード)まで一気に伸ばしながら、車両本体価格を212万円からというプライスゾーンに設定してきた。国が設定するCEV補助金(56万8000円)を考えると、純ガソリン車よりも買い得感は明らかに高い。

画像: 全高1625mmの標準的な2BOXフォルムを採用したスズキ「e SKY」。デジタル数字風のLEDグラフィックやスズライトをオマージュしたショルダーラインなど、先進感と親しみやすさが巧みに融合している。

全高1625mmの標準的な2BOXフォルムを採用したスズキ「e SKY」。デジタル数字風のLEDグラフィックやスズライトをオマージュしたショルダーラインなど、先進感と親しみやすさが巧みに融合している。

今回は、この超注目モデル「e SKY」のメカニズムや実力、さらにはライバルとなる最新の軽EV勢との比較を通じて、その「損得勘定」を解き明かしてみたい。

徹底した効率化が生んだ圧巻の電費性能

e SKYを見ると、いかにも「スズキ」らしい真面目なクルマに仕上げてきたなぁと実感できる。スーパーハイト系のような全高の高さやスライドドアの利便性はあえて追わず、全高1625mmという標準的な2BOXスタイルを採用。日常のパーソナルな移動に必要な機能だけを絞り込むことで、軽自動車に求められる経済性と扱いやすさを追求したパッケージングとなっている。

特筆すべきは、スズキのクルマ造りの根幹思想である「小・少・軽・短・美(しょう・しょう・けい・たん・び)」を電動パワートレーンにも適用している点だろう。

画像: 先進感あふれるコックピットながら、シフト周りは機械的な手応えを残した安心設計。ガソリン車から乗り換えても違和感のない操作性を実現しており、普段使いの扱いやすさに抜かりはない。

先進感あふれるコックピットながら、シフト周りは機械的な手応えを残した安心設計。ガソリン車から乗り換えても違和感のない操作性を実現しており、普段使いの扱いやすさに抜かりはない。

モーター、インバーター、減速機をコンパクトに一体化した軽量・油冷方式の「eAxle」と、薄型で安全性の高い26kWhリン酸鉄リチウムイオン(LFP)バッテリーを組み合わせることで、車重を1030kg(Xグレード)に抑え込んでいる。さらに航続距離の長さも見どころだ。開発当初の一充電走行距離は230km程度にとどまっていたそうだが、、「1アイテムで1km延ばす×100個」を目標に掲げ、タイヤの転がり抵抗低減やLEDの配光、補機類の細かな電力制御といった見直しを泥臭く積み重ねた結果、最終的に310km(WLTCモード)まで数値を引き上げてきた。交流電力量消費率97Wh/km(WLTCモード)という軽EVトップクラスの電費性能を成立させた点は、e SKYの明確な強みと言えるだろう。

充電性能に関しても、3kWの普通充電で約8時間、50kWの急速充電なら約25分で80%まで回復可能となっており、日常的なシチュエーションならば十分な性能を持つ。軽自動車の検討するユーザーが求める実用上のハードルは十分にクリアしている。

小型ボディ☓電動パワートレーンは、小気味よい走りを生み出す

走りの面でも優位性は明らか。電動パワートレーン(EV)ならではの動力性能の高さは純ガソリン車を上回る。最高出力こそ軽自動車の自主規制枠内に沿った数値(47kW※64ps相当)だが、アクセルを踏み込んだ瞬間から立ち上がる最大トルク(133Nm)の力強さは、軽クラスのガソリンターボ車を凌駕する。

画像: 開発陣が「1アイテムで1km延ばす×100個」の泥臭い改善を積み重ねた結果、97Wh/kmというトップクラスの電費を達成。薄型LFPバッテリー(26kWh)との相乗効果で310kmの長航続を実現した。

開発陣が「1アイテムで1km延ばす×100個」の泥臭い改善を積み重ねた結果、97Wh/kmというトップクラスの電費を達成。薄型LFPバッテリー(26kWh)との相乗効果で310kmの長航続を実現した。

変速ショックやエンジンの回転待ちがないスムーズな力強さは実に爽快で、低重心設計の軽EV専用プラットフォーム「HEARTECT-e」も相まって、高速道路から山道まで実に落ち着いた走破性を見せてくれる。

グレードは受注生産の「A(212万円)」、主力の「G(239万円)」、上級の「X(279万円)」という3つの仕様で構成されている。最もバランスが取れているのは中間グレードのGだ。この仕様にメーカーオプションの「全方位モニター付ディスプレイオーディオ・スズキコネクト対応通信機(20万円)」を追加すれば車両本体価格は259万円となるが、国のCEV補助金(56万8000円)を活用することで、実質200万円強という手頃な予算で購入可能になる。最上級のXと同等レベルの大画面10.1インチナビや安全カメラ機能を備えた、非常に使い勝手の良い1台が完成する。

強烈な個性を放つライバルたちも、魅力十分の選択肢

このe SKYの登場によって軽EVの選択肢が一気に広がったが、ライバルとなる他のモデルたちも独自の強みを持っている。

まず、このカテゴリーの絶対王者である日産「サクラ」だ。最新のマイナーチェンジにより、カラードグリルなどの上質デザインを採用するとともに、最大1500Wの100V AC電源を車内に2箇所設定。非常時の移動式給電車(V2H/V2L)としての利便性をさらに高めてきた。航続距離は最大180kmと街乗り中心の割り切り設計だが、上質な走行感覚は依然として大きな魅力と言える。

画像: マイナーチェンジでカラードグリルや新意匠アルミホイールを採用した日産「サクラ」。軽EV市場の絶対王者として質感をさらに高め、新色の水面乃桜など全10色のカラー展開を誇る。

マイナーチェンジでカラードグリルや新意匠アルミホイールを採用した日産「サクラ」。軽EV市場の絶対王者として質感をさらに高め、新色の水面乃桜など全10色のカラー展開を誇る。

さらにサクラならではの武器といえるのが、軽自動車の概念を覆すほどのキャビン内装のクオリティの高さだ。ダッシュボードにクッション材入りのファブリックを配するほか、先進感漂う2つのツインディスプレイと相まって、1クラス上の上級コンパクトカーに身を置いているかのような贅沢な空間に仕上がっている。

なお、サクラのオススメグレードも中間グレードの「X(259万9300円)」。最新改良でアラウンドビューモニターやシートヒーターといった需要の高い快適装備が標準化されており、機能と価格のバランスが良くなっている。

エントリーの「S(244万8600円)」であれば補助金を活用した際の実質購入価格は約187万円から狙えるが、内装の質感や日常での利便性、リセールを考慮すればXを選ぶのが最も満足度の高い選択肢だ。

中国EV大手のBYDが日本専用車として送り込んだ「ラッコ(RACCO)」も、いまが「旬」の一台だ。こちらは人気のスーパーハイト系ボディを採用しており、広大な室内空間と両側スライドドアを備えていることが強み。テレスコピック機構付きステアリングや合成皮革シートなど普通車並みの装備が奢られているのも見逃せない。

画像: BYDが日本専用に開発したスーパーハイト軽EV「ラッコ」。全高を活かした広大な室内空間と両側スライドドアを備え、ファミリー用途のファーストカーとしても使える1台。

BYDが日本専用に開発したスーパーハイト軽EV「ラッコ」。全高を活かした広大な室内空間と両側スライドドアを備え、ファミリー用途のファーストカーとしても使える1台。

大容量35.84kWhバッテリーを積む「300プラス(239万8000円)」は航続距離320kmを誇り、ファミリー用途で室内の広さと航続距離の長さを重視するユーザーにとっては強力な対抗馬となるはずだ。

またBYD自身もこのラッコの出来栄えと超コンパクトEVパッケージとしての完成度に強い手応えを感じているようで、日本の軽規格に合わせた設計でありながら、東南アジアを中心とした地域への展開も視野に入れているという。日本専用にとどまらないグローバルな評価を得られるポテンシャルを秘めた1台だ。

さらに、パーソナル派に向けた選択肢としてホンダ「N-ONE e:」も挙げられる。

N-ONE譲りの親しみやすいデザインに29.6kWhのバッテリーを積み、WLTCモードで約295kmの航続距離を確保した実力モデル。

価格はベーシックな「e:G」が269万9400円、上級グレードの「e:L」が319万8800円と、サクラやe SKYと比べるとやや強気な設定となっている。パーソナルユースに振りすぎたキャラクターに加え、普通車規格の派生モデルとして擬似7速シフト演出を備えた「スーパーワン」が爆発的に売れていることもあり、N-ONE e:自体の存在感が少々かすれ気味なのは少し同情したくなるところだが、完成度の高さ自体は確かだ。

画像: N-ONE e:をベースにトレッドを広げ、疑似7速マニュアルシフトやサウンド演出を盛り込んだホンダ「スーパーワン」。爆発的ヒットを記録するなど、EVに「操る歓び」を提案する話題の一台だ。

N-ONE e:をベースにトレッドを広げ、疑似7速マニュアルシフトやサウンド演出を盛り込んだホンダ「スーパーワン」。爆発的ヒットを記録するなど、EVに「操る歓び」を提案する話題の一台だ。

選択肢の開花と「軽EV時代」のリアルな損得勘定

それぞれのモデルを比較すると、ほんの1〜2年前とは比べ物にならないくらい魅力的で本気なモデルが勢揃いしており、一概に「どれか1台だけが絶対的な正解」とは言い切れない。贅沢な時代になったなあと実感させられる。

圧倒的な室内空間とスライドドアの実用性を第一とするならBYDラッコが魅力的な答えになるし、クラスを超えた内装の高級感や非常時の給電機能、実績に裏打ちされた完成度を求めるなら、日産サクラが頼もしい相棒となる。そして、コンパクトな標準ボディで普段使いの扱いやすさと310kmの航続距離、支払額のバランスをとるならスズキのe SKYという選択が浮かび上がる。軽規格にこだわらなければ、ホンダのスーパーワンは唯一無二の存在だ。

これほどまでに個性的で実用的な選択肢が揃ったこと自体が、購入するユーザー側にとって「軽EV」が本格検討できる時代が到来した何よりの証拠だ。

画像: 選択肢の開花と「軽EV時代」のリアルな損得勘定

実際、すでに購入したオーナーからの評判もすこぶる悪くない。「軽自動車とは思えないほどパワフルでキビキビ走る」「自宅に充電器を設置できればスタンドに寄る手間すらなく、想像以上に充電の手間がかからない」「先進的なメーターやディスプレイを含め装備関係が充実していて所有欲を満たしてくれる」といった肯定的な声も多く、EVならではの利便性と走りの楽しさに満足しているユーザーは着実に増えている。

ただし、購入にあたって頭に入れておきたいのがリセールバリューの課題だ。

国からの補助金によって新車時の実質購入価格が安く抑えられる点は買う立場として大いに歓迎すべきだが、手放す際の中古車市場では純ガソリン車ほどリセールが残りにくい傾向にある。

どうしても中古車市場ではバッテリーの経年劣化や航続距離の低下に対する潜在的な不安感が付きまとうため、内燃機車よりも安価な値付けをしなければ売れにくいのが現実で、買取店や中古車店もリスクを懸念して積極的な高価仕入れがしづらいという構造的なネックが存在する。

軽EVを検討する際は、短期での乗り換えを前提とするのではなく、国の補助金(地域によっては地方自治体の補助金も)をしっかり受給したうえで、長く乗り潰すスタンスで選ぶか、残価設定ローンやリースの活用まで含めて損得を計算するのが賢明だろう。

いずれにせよ、多様な選択肢の中から自分のライフスタイルに最適化された1台を選べるようになった今は、本当の意味での軽EV時代の幕開けと言えるだろう。

スズキ e SKY 主要諸元(Gグレード)

●全長×全幅×全高:3395×1475×1625mm
●ホイールベース:2460mm
●車両重量:1020kg
●モーター最高出力:47kW(64ps)
●モーター最大トルク:133Nm(13.57kgm)
●トランスミッション:なし
●駆動方式:2WD
●動力用電池・容量:リチウムイオン電池・80.3Ah
●WLTCモード 一充電走行距離:310km
●タイヤサイズ:165/65R14
●車両価格(税込):239万円~

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