緻密な新開発直列6気筒エンジン
昨年のフェイスリフトの際に、日本仕様からディーゼルもハイブリッドもなくなっていたメルセデスベンツSクラスに、こんな隠し玉が用意されていた。本国では同時に発表されていた直列6気筒エンジン搭載モデル、S450(ISG搭載モデル)である。
このエンジンの構成はきわめて複雑。電装系の48V化による補機類の電動化で実現したベルトレス設計によって全長を短縮した3Lユニットには、ツインスクロールターボチャージャーが1基、組み合わされる。そして9速AT一体のISG(インテグレーテッドスターター ジェネレーター)は、減速エネルギーの回生と充電、そして電気モーターアシスト機能を持つ。
さらにISGは電動スーパーチャージャーの駆動も行う。ターボチャージャーが十分に働けない低回転域での過給ラグを打ち消すのがその役割。つまりツインチャージャー化されたエンジンは最高出力367ps、最大トルク500Nmを発生し、これにISGの同15kw、250Nmが加わる。
走らせる前にまず驚くのが、520rpmというアイドリング回転数の低さだ。これはISGの緻密な制御で振動を抑えることで実現したという。それでも当然、発進は滑らか。アクセル操作に応じてリニアに、まるで遅れなくクルマが動き出す。この低速域のレスポンスは鮮烈で、エンジン回転数1000rpm前後の巡航状態からもシフトダウンを待つまでもなく即座に、力強い加速が得られる。
しかも、さらに高回転域まで回していけば、直列6気筒らしい滑らかさ、そして粒の揃ったサウンドを存分に楽しめる。一方、巡航時にはエンジンの存在はほとんど意識させない。粛々と黒子に徹してくれるのである。
ECOモードで走らせている時には減速時のエンジン停止も行う。感心したのは、そこからアクセルペダルを踏み込んで再加速する際の滑らかさ。ISGが再始動したエンジンの回転を瞬時に、必要なところまで高めてクラッチを繋いでくれるから、ショック皆無のままスムーズに加速に移れるのだ。
静かで滑らか、そして全域でトルキーという内燃エンジンの理想を、電気の力で実現したパワーユニットに、つい目が行くS450。しかし、そんな理屈は実際は知らなくてもいい。その上質な走りだけでも、目の肥えたユーザーは大いに魅了されるはずである。(文:島下泰久)
主要諸元 <メルセデスベンツS450>
全長×全幅×全高=5125×1899×1493mm ホイールベース=3035mm 車両重量=2000kg エンジン= 直6DOHCターボ 2999cc 最高出力=270kW(367ps)/5500-6100rpm 最大トルク=500Nm(51.0kgm)/1600-4000rpm トランスミッション=9 速AT 駆動方式=FR JC08モード燃費=12.5km/L タイヤサイズ=245/50R18 車両価格=11,470,000円