0→100km/h加速を4.8秒でこなし巡航距離は470kmに達する
ジャガーにとって初のEVとなるI-ペイスの国際試乗会がポルトガルで開催された。
そう聞いて、やや唐突な印象を抱く読者も少なくないだろう。EVで競われる国際レースのフォーミュラEに2016年から参戦しているほか、I-ペイスを用いたEVのワンメイクレースを開催するなど、近年は自動車の電動化に取り組む姿勢を明確にしている。また、2020年以降に発売するすべての新型車に電動化自動車を用意するとも明言している。
I-ペイスは90kWhという大容量のリチウムイオンバッテリーをフロア下に搭載。その電力で前後のアクスル上に置いた2基のモーターで4輪を駆動する。また、システム出力は200psに達し、0→100km/h加速を4.8秒でこなす一方、巡航距離は470kmに達する。
しかも、これは現実の走行モードに近いWLTPによる計測結果なので、従来の方式に従えば600km前後をマークしても不思議ではない。ちなみに日産リーフはI-ペイスの半分にも満たない40kWhで400kmの航続距離(JC08モード)を標榜している。
実際、2日間にわたる試乗では、初日に132kmを走って残り充電量は48%。2日目は残量34%だった。ここから逆算すると航続距離は300km前後と推測されるが、今回はEVだからといって遠慮することなく、状況が許す範囲でできるだけ高いスピードを維持し、力強い加速を何度も試しながらこの結果を得た。言い換えればカタログ上の航続距離に迫ることも難しくないはずで、一般的なユーザーが1日に走る距離であれば十分カバーできるだろう。
車重を感じさせない軽快さとしなやかで快適な乗り心地
その動力性能にもまったく不満を抱かなかった。コーナーが連続するワインディングロードで優れたレスポンスを発揮したのはEVとして当然のことながら、アルガルヴェで行われたサーキット走行ではカタログ値を越える204km/hをマーク。フルスロットルを試したときに背中を突き飛ばされたかと思うような加速感の演出こそないものの、DセグメントのプレミアムSUVと同等か、それを上回る動力性能を備えているように思えた。
もっとも、本当に驚くべきはその優れたシャシ性能で、前述したサーキット走行では2.1トンの車重が信じられないくらい軽快なハンドリングを示したほか、乗り心地は兄貴分のF-ペイスをしのぐほどしなやかで快適。おそらく、重いバッテリーをフロア下の低い位置に搭載したため、スプリングを無理に固めなくとも十分なロール剛性を確保できたものと推察される。なお、試乗車にはオプションのエアサスペンションが装備されていたことを付け加えておく。
また、このバッテリー搭載方法は、コンパクトなモーターを前後に配置したレイアウトと相まって広々としたキャビンスペースを生み出した。全長は4.7mに満たないにもかかわらず、室内長はジャガーXJサルーンのロングホイールベース版に匹敵するとの説明があった。実際、身長172cmの私がドライビングポジションをあわせたその後方では、膝まわりに50 cmを越す空間が残った。なるほど、Sクラス並みの居住スペースといえる。
興味深いのはアクセルペダルの特性を2種類から選べることで、このうちの1種類はリーフに似たワンペダル走行を可能にする。慣れればこのほうがブレーキを使わなくて楽だが、雑に扱うとクルマがガクガクする傾向が現れる点は、リーフのほうがより洗練されていると感じた。(文:大谷達也)