標準車両の次は個性派通勤形電車
知っているようで知らない、ふだん見慣れた通勤形電車のメカニズム。ここでは、2018年2月に登場した相模鉄道(以下、相鉄)の20000系を例に紹介していこう。
予備知識になるが、電車は21世紀早々、JR東日本が開発したE231系を「標準車両」として、首都圏の主要路線に次々投入した。これに大手私鉄各社と車両製造各社も同調し、路線に応じ多少カスタマイズしただけの新型車を投入してきた。開発コストを大幅に下げ、大半の部品が共有できるというメリットから、現在もJRや大手私鉄の主力電車は、多くがE231か233系の異母兄弟になっている。相鉄も2002年から運用した10000系以降、この流れを受け入れた。
しかし、20000系は久々の独自開発車両だ。相鉄はJR新線区間を経て東急に相互直通(相直)運転を、2022年度下期に予定しているからだ。標準車両ばかりで没個性の今、独自色を持たせる狙いがあった。アルミ合金3D切削加工の前頭部は、冷却グリル風の「飾り板」を付け、4灯LEDで構成した「眼」と相まって強い個性を放っている。
独自と言っても、ベースは日立製作所が開発した「エートレイン」という車両製造技術で、ステンレス製の標準車両に対し、アルミ車体という大きな違いがある。同社は1960年代から、相鉄をはじめ数多くのアルミ車両開発実績がある。特に新幹線300系以降、アルミ製新幹線は代表だ。エートレインはその最新車両で、アルミ合金押出形材のダブルスキン方式=ダンボール状のアルミ板で組んだモノコック構造で、製造に手間のかかる柱や梁を持たない特徴を持つ。ダンボール断面状の隙間には制振・断熱材を充填できるのも優れた特長で、新幹線700系から採用されている。
走行系は日立の走行装置・電装を、新日鐵住金製の最新台車に搭載している。1980年代後半から電車はそれまでの抵抗やサイリスタで直流モーターを制御する方式から、可変周波数可変電圧制御のVVVFインバーターに進化した。インバーターとは直流を交流に変える装置で、電子制御で交流の周波数と電圧を適宜制御させ、電動機の回転数を制御する。
VVVF化による最大の特長は、ハイブリッド車の基礎技術にもなっている「回生」制動だ。減速時は電動機が発電機となり、電気を架線に戻す回生が可能になった。それ以前の電気ブレーキは、発電した電気を熱エネルギーに置換して放出していた。VVVF制御により、電車の省エネ化は飛躍的に向上した。
相鉄でVVVFを本格導入した8000系以降(1990年・日立)が主力だった2000年の年間走行距離あたりの消費電力量と、第2世代の10000系以降が主力となった2017年では、約20%の節電を達成している。20000系の制御器は最新のもので、大きさは先代の約半分となった。磁励音(電磁波のうなり)も大幅に消音されている。
電動系の進化とほぼ並行して、従来の台車より格段に簡略化し部品点数の少ない、ボルスタレス台車の普及がある。簡単に言えば、台車と車体の間を空気バネだけで支える構造で、台車の振動だけでなくヒネリも、空気バネ自体の変形で支える仕組みだ。これも8000系動力台車と比較すると、約4.6トンから2.9トンに大幅に軽量化&簡略化している。
現代の通勤型電車は、省エネだけでなく、相直運転や製造・整備の省力化に対応することも重要なテーマとなっているのだ。(文 & Photo CG:MazKen、協力:相模鉄道株式会社)
■相模鉄道20000系 主要諸元
20mアルミ合金・ダブルスキン車体
車体幅:2770mm(東急規格)
構成:10両(5M5T)
加速度:3.0、3.3km/h/s 切替式
減速度:3.5km/h/s(非常4.5km/h/s)
最高速度:120km/h(運用100km/h)
車体製造:日立製作所笠戸
台車製造:新日鐵住金