2020年8月23日(日本時間8月24日)に行われた第104回インディアナポリス500マイルレースで佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン/ホンダ)が優勝した。2017年に初めてインディ500を制覇した琢磨は、昨年2019年には惜しい3位、そして今年再び優勝を飾ったことで、実にこの4年で3度のトップ3フィニッシュしていることになる。この速さの背景には上位4台を独占したホンダのパワーユニットの存在感もあるが、琢磨のコメントとともに、同じホンダのパワーユニットを使うスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ/ホンダ)との攻防を振り返ってみよう。
ホンダパワーによる速さとチームの完璧な戦略
佐藤琢磨は優勝者しか上がれないインディ500の表彰台で「これこそレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングです。本当に素晴らしいチームです。彼らは本当にがんばってくれ、今日も素晴らしい戦略とピットストップを行ってくれました。そしてHPDとホンダは私たちに多くの力を与えてくれました。すべての人々にとても十分に感謝することはできないほどです」とチ−ムやホンダへの感謝をまず口にした。チームとともに練り上げた戦略をしっかりと遂行して成し遂げた勝利だった。
予選3番手フロントロウからスタートした佐藤琢磨は、序盤、トップから離されない上位で走行。序盤からレースをリードし続けるディクソンをマークし、158周めに満を持してトップに立つと、終盤の攻防に賭ける戦略を進める。
ほぼすべての先行車が200周レースの167周から170周の間に最後のピットストップを行う。これはガソリンを補給してグリーンフラッグの条件下で走行可能な最大ラップのギリギリで、琢磨は168周め、ディクソンは169周めにピットインしている。
このピットインのタイミングでディクソンが一時トップに立つが、1周早くピットインを済ませた琢磨は残り27周で再びディクソンをパスすると、そこからレース終盤の最も重要な時間帯ではライバル勢を寄せつけないスピードを見せた。
ディクソンはピットストップが琢磨のより1周遅く、しかも琢磨のスリップストリームで燃料も節約することができるため燃費に余裕があることから、最後のバトルではディクソン有利とも予想されたが、残り5周となり、いよいよ最後の攻防となるところで、スペンサー・ピゴットがピットレーン入り口に単独クラッシュ。これでフルコースコーションとなり、戦いは一時中断。燃費の心配がなくなった琢磨の優勝がほぼ決まった。
勝負はフルコースコーション明けのリスタートに持ち越されたが、結局、レースは再開されずイエローフラッグのままゴールとなった。周回遅れを交わしながら逃げる琢磨とじわりと追いつめるディクソンのバトルは見応えがあったが、最後までその差は縮まらなかった。
現在、インディカーシリーズはホンダエンジンとシボレーエンジンの戦いとなっているが、今回のインディ500ではホンダエンジンが圧倒。上位4台を独占すると同時に、トップ10に8台を送り込んでいる。
優勝した佐藤琢磨は「最高のマシンだったと思います。終盤の燃料戦略でディクソンに1周の遅れをとっていました。ゴールまでの燃費は少し厳しかったですね。しかし、できる限り燃料をセーブする走りを続け、最終的には最後のバトルが激しくなったとしてもフルパワーで戦える燃料を確保できていました。最終グリーンフラッグラップの第4コーナーではディクソンがずっと来ていましたが、信じられないことに僕はそれを抑えることができたんです。だれもがすばらしい仕事をしてくれました。自分たちのマシンが今日は最強だったと感じています。今回の勝利はホンダパワーのおかげです。強力なエンジンをホンダとHPDが作ってくれ、そのエンジンは燃費もとてもよかった。そしてチームが最高のマシンを作り上げてくれました。日本のファンの皆さんは夜中からのテレビ観戦だったと思います。応援ありがとうございました。インディでの2勝目をこうして挙げることができました。皆さんの応援があることで、インディで走り、優勝することができていると思います。次のレースからもがんばります」とコメント。
本田技研工業の八郷隆弘社長は、見事な優勝を飾った佐藤琢磨に「世界3大レースのひとつであるインディ500で2度目の勝利を挙げ、世界のモータースポーツの歴史に新たな足跡を残すことになった琢磨選手と、チームおよび関係者の方々、そして、琢磨選手を応援してくださっているファンの皆さまに心からの感謝申し上げるとともに、この快挙達成の喜びを分かち合いたいと思います。またこのニュースが、新型コロナウイルス感染拡大の影響が続く世の中にとって明るい話題となることを願います。琢磨選手、本当におめでとう!」と賛辞を送っている。
次戦のインディカーシリーズは、8月29日から30日、イリノイ州マディソンのワールドワイドテクノロジーレースウェイで開催される。
佐藤琢磨選手の主な戦績
1997年 鈴鹿レーシングスクール フォーミュラ(SRS-F)を卒業
2001年 英国F3選手権チャンピオン マスターズF3優勝 マカオGP優勝
2002年 ジョーダン・ホンダよりF1デビュー
2003年 B・A・R・ホンダに移籍2004年 F1 第9戦アメリカGPで3位表彰台
2006年スーパーアグリ・ホンダに移籍
2010年 KVレーシングよりインディカー・シリーズに参戦 インディ500に初挑戦、20位完走
2011年 インディカー・シリーズ第8戦で日本人初のポールポジション獲得
2012年 インディカー・シリーズ自身初の3位、インディ500優勝争いを演じるも最終ラップでスピン
2013年 インディカー・シリーズ第3戦ロングビーチでインディカー・シリーズ日本人初優勝
2017年 第101回インディ500で日本人初優勝
2019年 第103回インディ500でトップに約0.3秒及ばず3位
2020年 第104回インディ500自身2度目となる優勝(予選3位)
第104回インディアナポリス500マイルレース
優勝 30 佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン/ホンダ)
2位 9 S.ディクソン(チップ・ガナッシ/ホンダ)
3位 15 G.レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン/ホンダ)
4位 18 S.フェルッチ(デイル・コイン・レーシング/ホンダ)
5位 1 J.ニューガーデン(チーム・ペンスキー/シボレー)
6位 5 P.オワード(アロウ・マクラーレンSP/シボレー)
7位 29 J.ヒンチクリフ(アンドレッティ・オートスポート/ホンダ)
8位 88 C.ハータ(アンドレッティ・ハーディング・スタインブレナー/ホンダ)
9位 60 J.ハーベイ(メイヤー・シャンク・レーシング/ホンダ)
10位 28 R.ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート/ホンダ)