藩主が利用した本陣を使えるだけでも格別な体験
近頃は旅のスタイルが変わってきた。3密を避けるためにマイカーでのドライブや自然の中で過ごすこと、そしてプライバシー性の高いヴィラや一棟貸しに関心が集まっている。そんなスタイルにマッチする宿が2020年秋にオープンした。松本と上田を結ぶ保福寺街道沿いに建つ一棟貸しの「Satoyama villa 本陣」だ。
本陣の名のとおり、元は江戸時代の松本藩主が参勤交代の折に休泊利用した施設。集落の中でもひと際大きい瓦屋根が目を引く建物は、木造階建てで藩主用の風格ある玄関(一番左)を備える。母屋は大正2年に再建されているが、ケヤキの太い梁や書院造の座敷など、格式高い空間と趣が残されている。ほかにも大きな蔵や昭和初期の洋館があり、歴史的建造物としての魅力もたっぷりだ。
現代の宿泊施設として改装を手掛けたのは、国際的なホテルレストラン組織ルレ・エ・シャトーのメンバーホテル「扉温泉明神館」。ゲストルームは、もっとも格式の高い座敷を使った名利用可能な121平方メートルの「殿様ガーデンビュー」を筆頭に90平方メートルの「殿様ガーデンビュージュニアスイート」や洋館を使った離れなど4つ。
いずれも往時の趣を生かしつつ、気品あるモダンな内装で寛げる空間となっている。キッチンが備わるほか、扉温泉のシェフやスタッフが出向くサービスも導入予定という。一棟貸しゆえ、複数の家族や友人たちと過ごす、あるいは仲間とのツーリング時にも最適だろう。
まわりにはなにもない。実にのどか。だが、クルマ旅なら話は別。美ヶ原スカイラインをはじめ極上のワインディングルートがそこかしこにある上、松本市内も近く、近隣には温泉や史跡も点在する。信州のドライブ散策には最適なベースとなるに違いない。なにより藩主が利用した本陣を使えるだけでも格別な体験だ。本当の殿様気分?が味わえる宿である。(文:小倉 修/写真:永元秀和)