ベースとなったジャガーXJ6クーペに対し、生産台数はわずか4分の1にすぎなかったダイムラー・ソブリン・クーペ。どなたかの遺産整理でオークションに放出された個体には、2500~5000ユーロの指し値が設定されていました。

文: 石橋 寛/写真: RM Sotherbys
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ロールスロイスに英国王室御用達の座を奪われ──

海外のオークションには目を瞠るようなクルマが出品されていますが、中には「これに値段がつくのか⁉」と呆れるようなサンプルもあります。例えば、スクラップヤードに転がっているサビサビの鉄くず、これがランボルギーニ・ミウラの残骸だったりして、業者なのかもの好きなのか知りませんが結構な値段で落札されています。また、遺産整理とやらで納屋から見つかったまま、埃をかぶったポンコツなども少なくありません。が、こちらのダイムラー・ソブリン・クーペはレストア次第では大いに「化ける」可能性もあり、仕上がりがとても楽しみな1台ではないでしょうか。

画像: ダイムラー・ソブリン・シリーズ2・クーペは1975年に販売開始。こちらのサンプルは77年モデルながら、走行距離は5万キロ程度。

ダイムラー・ソブリン・シリーズ2・クーペは1975年に販売開始。こちらのサンプルは77年モデルながら、走行距離は5万キロ程度。

1977年モデルといいますから、1975~1978の生産期間に対してほぼ最終年度となりそうです。この年、リリースされたのは613台(78年は6台のみ)とされ、総生産台数にしても1677台に過ぎません。一方で、ベースとなったジャガーXJ6クーペ(XJC)は6505台と、ダイムラーの4倍も作られているとのこと。日本でもダイムラーを選ぶ顧客はさほど多くなかったそうですから、世界的にレアな傾向にあるのでしょう。

画像: フルーテッドグリルと呼ばれる波打つグリルがダイムラーのアイデンティティ。古くなっても、どことなく品格を漂わせるデザインです。

フルーテッドグリルと呼ばれる波打つグリルがダイムラーのアイデンティティ。古くなっても、どことなく品格を漂わせるデザインです。

そもそも、ダイムラーは英国王室御用達のメーカー(1960年にジャガーが買収)でした。が、1950年代にエリザベス女王がロールス・ロイス(ファントムIV)を非常に気に入り、公式車両に採用したことで主役の座を奪われています。また、2000年以降はジャガーもダイムラー車を作っておらず、王室に納めようもない状態。ところが、自らドライブするほどクルマ好きなエリザベス女王は、ダイムラー・マジェスティックという特別仕様車を所有し、ウィンザー城のまわりでブイブイいわせていたのだとか。ちなみに、アームレストにハンドバッグ専用のトレイが装備されたり、後席は大好きなコーギー犬たちがくつろげるよう特製シートが備わっていたりしたそうです。

クーペならではの流麗なスタイリングを作るために

さて、ソブリン・クーペ・シリーズ2は、その名の通りジャガーXJシリーズ2をベースに製作された2ドアクーペです。ジャガーXJクーペ・シリーズ2のバッジエンジニアリングと言ってしまえばそれまでですが、センターピラーレスの2ドアに改造するのはそれなりの苦労もあった模様。例えば、セダンのドア4枚に対して、2枚のドアながら、シャシーとルーフの補強材をふんだんに使ったために重量は10kg増加しています(1690kg)もっとも、これはセダンのショートホイールベースモデルに対するもので、主流だったロングホイールベースモデルに比べれば35kg軽いということに。

画像: レザートップはルーフのペイントが傷んだ場合の目隠しとされていましたが、実際にひび割れる例はほとんどないそうです。

レザートップはルーフのペイントが傷んだ場合の目隠しとされていましたが、実際にひび割れる例はほとんどないそうです。

また、ダイムラーとジャガーともにバイナルルーフ(レザートップと呼ばれることもありますが、素材はビニール=バイナル)が標準となっており、これはピラーレス構造によって車体がねじれた際にルーフのペイントにひびが入らないようにした工夫とされています。ただし、英国のXJCオーナーズクラブによると、レストアの際にルーフが傷んでいた個体は皆無だったという報告もありました。

さらに、ホイールベースはクーペとセダン(SWB)は共通して2762mmながら、全長はクーペが30mmほど長く作られています。これは、クーペ特有の流れるようなテールラインを美しく見せるために、リアのオーバーハングを伸ばすという手法がとられたため。こうし

メカニック泣かせなシステムを踏まえつつ、レストア後に思いを馳せる

ソブリン・クーペに搭載されたエンジンは4.2リッターの直6で、ご存じV12エンジン搭載車はダブルシックス・クーペと呼ばれました。いささかキザな呼称ではありますが、これもまた英国趣味のひとつでしょう。ジャガー製ストレートシックスの本国仕様は245hp/5500rpmを発揮したものの、日本に輸入されたモデルは圧縮比が下げられるなどした結果、175PS/4750rpmまで低下。オイルショックの頃はほとんどの輸入車がこんな調子でしたから、ダイムラーばかりを責めるわけにもいかないでしょう。

画像: ジャガー製4.2リッター直6エンジンは60年代の代物ですが、そのスムーズネスは見事なもの。決してV12に引けを取りません。

ジャガー製4.2リッター直6エンジンは60年代の代物ですが、そのスムーズネスは見事なもの。決してV12に引けを取りません。

重たい車体のわりに、この頃のジャガーはよく走ると高い評価を受けていました。フロントはダブルウィッシュボーン、リアにはダブルコイル/ダンパーのトレーリングアームをサブフレームで連結という凝りまくった設計。路面追従性や乗り心地だけでなく、音振制御まで目論んだシステムであるのと同時に、メカニック泣かせとも称されます。

画像: レザーシートはさすがにひどくやれているものの、張り替えればいいだけ。エボナイトのステアリングやウッドパネルはさほど傷みは見られません。

レザーシートはさすがにひどくやれているものの、張り替えればいいだけ。エボナイトのステアリングやウッドパネルはさほど傷みは見られません。

さて、どなたかの遺産整理で出品されたサンプルに目を移すと、お世辞にもコンディション良好とは言い難いもの。その分、指し値も格安で2500~5000ユーロ(約43万~90万円)とのこと。ベース車両としては適正な範囲でしょう。

現状ではクロームのホイールキャップが見当たりませんが、トランク内に4つ揃っていました。が、マフラーパイプも数本放り込まれていたのも見逃せません。どうやら、エンジンを同じ直6に載せ換えているとのことで、その際に外されたのかもしれませんがいささか心配です。ペイントやクロームの状態はそこそこなので、ボディ下部の錆だけ落とせば味わいある佇まいが再現できるはず。

英国趣味の中でも、とりわけスマートで上品なダイムラー・クーペですから、きっとどこかの紳士がパリッと仕上げてくれること請け合いですね。

画像: 標準仕様のホイールキャップ、エンジン交換の際に外されたであろうマフラーがトランク内に残されていました。

標準仕様のホイールキャップ、エンジン交換の際に外されたであろうマフラーがトランク内に残されていました。

画像: セダンよりも延長されたリヤエンド。この頃のジャガー/ダイムラーはエレガントの追求に余念がなかったのです。

セダンよりも延長されたリヤエンド。この頃のジャガー/ダイムラーはエレガントの追求に余念がなかったのです。

画像: 欧州仕様のオプションとして装備されていたリヤフォグランプ。無骨なランプがいかにも70年代らしいパーツです。

欧州仕様のオプションとして装備されていたリヤフォグランプ。無骨なランプがいかにも70年代らしいパーツです。

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