前から眺めると、ごく普通の大衆セダン。しかし、ボディ後半に目を移すと、独特な形状のリアクォーターウィンドウが強烈な個性を放っている。今見ると少々唐突にも感じられるデザインだが、そこが何とも味わい深い。1977年に登場した4代目サニーのクーペモデルは、実用性とスポーティさを兼ね備えた一台だった。最後のFRサニーとしても知られるB310型の魅力を振り返る。

▶▶▶写真8枚|「前から見ると普通だが⋯」ボディ後半のデザインが個性的すぎ! 日産「ダットサン・サニークーペ」(画像8枚)

シンプルなフロントとは対照的! リアに強烈な個性を持たせた独特のデザイン

1977年10月、日産は主力大衆車「ダットサン・サニー」の全面刷新を発表した。4代目にあたるB310型である。

サニーといえば、1970年に登場した2代目のB110型が、軽量かつ機能的な設計によって高く評価されたモデルとして知られている。ところが、1973年に発売された3代目のB210型では、その方向性が大きく変化。ボディは大型化し、曲線を多用した装飾的なスタイリングへと進化した。

しかし、この大胆な路線変更は、必ずしも好意的に受け止められたわけではなかった。従来のサニーが持っていた飾り気のない魅力が薄れたという見方もあり、B310型では一転して直線を主体とする端正なデザインへと回帰したのである。

そのなかで、若々しさと実用性を両立させたモデルとして設定されたのが、今回紹介する「ダットサン・サニークーペ1400SGX」だ。

画像: フロントまわりは、いかにも当時の大衆セダンらしい端正なデザイン。ボディ後半の個性的な造形とは対照的で、そのギャップが興味深い。

フロントまわりは、いかにも当時の大衆セダンらしい端正なデザイン。ボディ後半の個性的な造形とは対照的で、そのギャップが興味深い。

正面から見ると、セダンと共通するオーソドックスなフロントフェイスが印象的である。奇をてらった造形は見られず、いかにも1970年代の日本の大衆車らしい、実直な雰囲気を漂わせている。

ところが、ボディの後半へ目を向けると、その印象がガラリと変わる。

最大の特徴は、ドアの後方からリアピラーにかけて設けられた、細長い三角形の「オペラウィンドウ」である。装飾性の強いこのサイドウィンドウと、後方に向かって傾斜するルーフラインが組み合わされることで、フロントとは対照的な個性を生み出しているのだ。

画像: 直線を基調としたボディへと生まれ変わったB310型。リアまわりには独特のオペラウィンドウが設けられ、セダンとは異なる個性を演出している。

直線を基調としたボディへと生まれ変わったB310型。リアまわりには独特のオペラウィンドウが設けられ、セダンとは異なる個性を演出している。

現代の感覚で眺めれば、前半の控えめな造形に対し、リアまわりだけが唐突に自己主張を始めたようにも見える。

しかし、そのアンバランスさこそ、この時代の大衆車派生クーペならではの面白さだろう。実用車としての親しみやすさを残しながら、後半のデザインで特別感を演出する。そんな1970年代特有のスタイリングが、B310型サニークーペには色濃く表れている。

見た目だけではない! 日常での使いやすさにも配慮された車内空間

個性的な外観を持つ一方で、サニークーペは日常生活での使い勝手を犠牲にしていなかった。

先代から受け継いだ3ドアのハッチバック構造は、荷物の積み下ろしがしやすく、セダンとは異なる利便性を備えている。クーペならではの軽快な雰囲気を楽しみながら、普段の買い物やレジャーにも対応できる設計だった。

画像: サイドビューでは、ドア後方からリアピラーに延びるオペラウィンドウが目を引く。実用車らしい前半と、装飾的な後半の対比が面白い。

サイドビューでは、ドア後方からリアピラーに延びるオペラウィンドウが目を引く。実用車らしい前半と、装飾的な後半の対比が面白い。

室内についても、乗員が窮屈さを感じないよう居住空間の確保に配慮。内装色を統一することで、落ち着きのある空間に仕上げられていた。

運転席まわりは機能性を重視したレイアウトながら、上級グレードのSGXおよびGXには、丸形の計器を並べた6連メーターを採用。透過照明によって視認性を確保するとともに、スポーツモデルらしい雰囲気を演出している。

ステアリングも3本スポーク式で、SGXとGXには革巻き風の仕上げが与えられた。

さらに、5速MT車では1速を左下に配置する、いわゆるレーシングパターンを採用していたことも見逃せない。外観は穏やかな印象でも、運転席には走りを楽しむための演出が盛り込まれていたのである。

画像: 丸形6連メーターや3本スポークステアリングがスポーティな印象を与える。5速MTには、1速が左下となるレーシングパターンが採用されていた。

丸形6連メーターや3本スポークステアリングがスポーティな印象を与える。5速MTには、1速が左下となるレーシングパターンが採用されていた。

シートは、前席に独立式ヘッドレストを備えたローバックタイプを採用。クーペのGL以上には分割式の後席が用意され、後席側面には飲料瓶などを収納できる小物入れも設けられていた。

また、後席のシートバックを倒せば、荷室をフラットに近い状態まで拡張することが可能。大きな荷物を載せたい場面にも対応できた。

スタイリングで若者の興味を引きながら、ファミリーカーとしても十分に使えること。サニークーペには、そんな欲張りな商品性が与えられていたのだ。

1.4LのA14型エンジンを搭載! 足まわりも大きく進化した最後のFRサニー

1400SGXの心臓部に収まるのは、排気量1397ccの直列4気筒OHVエンジン「A14型」である。

長年にわたって日産の小型車を支えてきたA型エンジンの一員で、B110型などに搭載されたA12型の設計思想を受け継ぐユニットだ。

シングルキャブレターを使用するこのエンジンは、最高出力80ps/6000rpm、最大トルク11.5kgm/3600rpmを発生。現在の基準で見れば控えめな数値だが、日常的な扱いやすさと経済性を重視した、大衆車らしい設定となっていた。

画像: 1400SGXに搭載されたA14型は、1397ccの直列4気筒OHVエンジン。シングルキャブレター仕様で、最高出力80psを発生する。

1400SGXに搭載されたA14型は、1397ccの直列4気筒OHVエンジン。シングルキャブレター仕様で、最高出力80psを発生する。

当時は自動車の排出ガス対策が急速に進められていた時代でもある。

B310型では、昭和53年排出ガス規制への対応として、日産の排出ガス浄化技術「NAPS」を導入。排出ガスの一部を吸気側へ戻すEGR(排出ガス再循環)や酸化触媒などを用い、有害成分の低減を図っている。

EGRの導入量を増やすと燃焼が不安定になりやすいため、燃焼室の形状を見直すなど、安定した燃焼を確保するための改良も施された。

排出ガスの低減と走行性能を両立させることは容易ではなかったが、1400SGXは当時の10モード燃費で14.0km/Lという経済性も実現していた。

さらに1978年2月には、EGI(電子制御燃料噴射装置)を採用した「1400SGX-E」が追加される。

こちらにはA14E型エンジンが搭載され、最高出力は92ps/6400rpmまで向上。従来のキャブレター仕様よりも高い出力を実現し、走りを重視するユーザーにも応えるモデルとなった。

画像: 1978年に追加された1400SGX-EのA14E型エンジン。電子制御燃料噴射装置の採用により、最高出力は92psまで高められていた。

1978年に追加された1400SGX-EのA14E型エンジン。電子制御燃料噴射装置の採用により、最高出力は92psまで高められていた。

エンジン以外で注目したいのが、足まわりの進化である。

フロントには従来と同じストラット式サスペンションを採用する一方、リアは旧来のリーフスプリング式から4リンク・コイルスプリング式へと変更された。

駆動方式は引き続きFR(フロントエンジン・リアドライブ)で、後輪にはリジッドアクスルを使用していたものの、新しいサスペンション構造によって乗り心地と操縦安定性の改善が図られている。

ブレーキはフロントにディスク式を採用し、ブレーキブースターや制動力の配分を適切に制御する機構も備える。SGXおよびGXには165/70HR13サイズのラジアルタイヤが組み合わされた。

その後、サニーは1981年に登場する5代目のB11型でFF方式へ移行することになる。

つまりB310型は、長く続いたサニーのFR時代を締めくくるモデルでもあった。扱いやすいボディと親しみやすい機構を持つことから、今なお旧車ファンやモータースポーツ愛好家に親しまれている。

レースでも存在感を発揮したB310型サニー

サニーのモータースポーツにおける実績を語るうえで、外せないのがB110型の存在だ。1970年代のツーリングカーレースでは、軽量な車体とチューニングに適したA12型エンジンを武器に、数々の好成績を残した。

一方、後継のB210型は、車体の大型化や重量増加などもあり、B110型ほど競技車両としての存在感を示すことはできなかった。

その流れを再び変えたのがB310型である。

市販の1400SGXとは異なり、競技用車両ではA12型をベースとしたチューニングエンジンなどが活用された。B110型の時代から蓄積されてきたエンジン開発やセッティングのノウハウを生かせることも、大きな強みだった。

画像: 昭和40年代中盤からツーリングカーレースではB110サニーが隆盛を極めた。ライバルはカローラやシビック、チェリーなどだ。210サニーは110に比べてレースでの活躍が見られず、後継として活躍したのが310サニーだ。エンジンはA14ではなくA12だったが、110のチューニングがそのまま使えることがメリットだった。

昭和40年代中盤からツーリングカーレースではB110サニーが隆盛を極めた。ライバルはカローラやシビック、チェリーなどだ。210サニーは110に比べてレースでの活躍が見られず、後継として活躍したのが310サニーだ。エンジンはA14ではなくA12だったが、110のチューニングがそのまま使えることがメリットだった。

B310型は富士グランチャンピオンレースの併催イベントなどで行われたTS(特殊ツーリングカー)レースにも参戦。サニーのモータースポーツの歴史を受け継ぐ存在となった。

さらに、1981年に乗用車が次世代モデルへ切り替わった後も、ジムカーナやダートトライアルなど、さまざまな競技で活用された。

日常の足として親しまれた一方で、サーキットでは本格的な競技車両として活躍する。そんな二面性も、最後のFRサニーが愛され続ける理由のひとつといえるだろう。

日産ダットサン・サニークーペ1400SGX(B310型)主要諸元

●全長×全幅×全高:3995×1595×1340mm
●ホイールベース:2340mm
●車両重量:865kg
●エンジン型式・種類:A14・直4OHV
●排気量:1397cc
●最高出力:80ps/6000rpm
●最大トルク:11.5kgm/3600rpm
●トランスミッション:5速MT
●タイヤサイズ:165/70HR13
●新車価格:106万4000円

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