楽しさを全身で感じられる
マツダとFCA(フィアット クライスラー オートモビルズ)のコラボレーションから生まれたアバルト124スパイダーに、富士スピードウェイで試乗することができた。
ロードスターのアーキテクチャーに、アルファロメオのジュリエッタなどにも搭載される1.4マルチエアターボエンジンを積んだこのクルマ、パワーユニットを海外から持って来てマツダの本社工場で組み立てられる初の国産インポートブランドスポーツカーでもある。
そんなわけでFCAジャパンからの国内デリバリーは10月8日とまだ少し先なのだが、広島ではすでに生産が始まっており、今回のサーキット試乗が実現したわけだ。
個人的にもこの日が初対面となるアバルト124スパイダー。すでにマツダ ロードスターをたっぷりと試乗しているので、2車のどこが異なり、それぞれのブランドのDNAを感じさせるような、走り味の違いがあるのかが興味の焦点となった。
結論から先に言ってしまうと、アバルト124スパイダーはマツダロードスターとはまったく別物と言えるクルマだった。
最大のポイントはエンジンにある。日本で売られるアバルト124スパイダーの他に、海外ではフィアットブランドでも124スパイダーは展開され、それぞれパワースペックが微妙に異なる。アバルトブランドで売られる日本向けの170ps、250Nm仕様はもっともパワフルなチューン。元々の車重が軽い上に、これだけ余裕があると、どこからアクセルペダルを踏んでもリアタイヤを蹴り出せ、旋回中の姿勢を作る自由度が非常に高い。
ロードスターが搭載する1.5Lエンジンも素直に回る楽しいパワーユニットだが、自然吸気のためどうしてもトルクの線が細く、パワーに任せて後輪を蹴り出すのが自由自在とは行かない。しかも足まわりもかなりソフトで大きめのピッチングやロールを許容するため、時として限界が掴みにくい場面がある。アクセルオフで急にリアが巻き込むなどというのがその典型例だ。
124スパイダーも決して足まわりが硬いわけではなく、適度な姿勢変化の中で軽快な動きを表現している点は共通。だが、ハンドルを切り込んだときに“ググッ”とノーズが動くのではなく、ある程度の溜めを持たせてから入るし、リアサスペンションもロードスターのように路面を舐める感じではなく、少し張りがあり接地感がより明瞭なのだ。
したがって、ノーズが向きを変えて、この辺からこのくらいアクセルペダルを踏み込めば、ここでリアタイヤが蹴りだして、こんなコーナリング姿勢に持って行けるということが一層明確にイメージできる。これには効きの良いトルセン式LSDも大きく貢献していると感じた。
ターボらしく力強いエンジンは6500rpmあたりで頭打ち感が出てくるが、そこまでで存分に回したという気になるし、今回の試乗車は回転域よって排気経路が変化して抜けの良いサウンドを聴かせる、アクセリー設定の「レコードモンツァエキゾーストシステム(16万2000円)」を装備していたので快音を堪能できた。ただ、2000rpm以下では意外にトルクが痩せていて、上り坂スタートのクラッチミートなどは、丁寧に行わないとストールする場面もあった。
ロードスターの1.5L自然吸気エンジンは、もっとマメにシフトを繰り返して高回転を維持する必要がある。それに比べれば124スパイダーは、ラクでよりダイナミックと言って良いと思う。
未来的なスポーツカーフォルムを追求したという感じのロードスターに対し、124スパイダーは過去のモデルをモチーフとした部分もあり、ややクラシカルな雰囲気。この辺の作り分けも各々のブランドの持ち味がよく表れている。ただ、インテリアは意外なほど共通部分が多く、アバルトファンからはもう少し変化をという声も聞こえそうだ。(文:石川芳雄/写真:村西一海)
●主要諸元〈アバルト124スパイダー〉
全長×全幅×全高=4060×1740×1240mm
ホイールベース=2310mm
車両重量=1130kg
エンジン=直4SOHCマルチエアターボ 1368cc
最高出力=125kW(170ps)/5500rpm
最大トルク=250Nm(25.5kgm)/2500rpm
トランスミッション=6速MT
駆動方式=FR
JC08モード燃費=13.8km/L
タイヤサイズ=205/45R17
車両価格=3,888,000円