当初は社内プロジェクトとしてスタート、だが・・・
チーム名は「本田技術研究所オートモーティブセンター自己啓発レース活動チーム"Honda R&D Challenge"」、この名前を聞いてオヤッ?と思った方もいるだろう。そう、あくまで「自己啓発」つまりプライベート参戦なのだ。しかしながらこのCIVIC TypeRは本田技術研究所所有の車両という。これはいったいどういうことなのだろうか。
実はこのチーム、2016年に本田技術研究所の社内業務として発足したプロジェクトが前身で、当時は富士スピードウェイで開催される予定の24時間レースなど、国内外の耐久レースへ出場することが目標だったのだ。様々な準備期間を経ていよいよ今年、スーパー耐久シリーズ第3戦富士24時間レースに出走すべく、同シリーズのST-2クラスへ年間エントリーを済ませていた。
しかしながら、2019年2月19日にホンダが発表した組織再編成により、本田技術研究所 四輪R&Dセンターは同オートモービルセンターに改められ、その業務内容の大幅な見直しにより本プロジェクトは凍結となってしまう。これにより富士24時間レースはおろか、エントリー済みのスーパー耐久シリーズへの参戦も叶わぬものと思われた。
チャレンジ魂の灯を絶やさぬために
しかし参戦へ向け準備を整えてきた研究所社員達は決して諦めなかった。HONDAのDNAであるチャレンジスピリットはそれを許さない。業務として参戦できないのであれば、プライベート参戦の手がある。だが自費で参戦となればそれ相応の経済的負担が発生するし、それにマシンは会社の所有物。幸運なことに第5戦は地元もてぎでの開催、車両は会社からのサポートが必要だが、それをクリアすれば最小限の負担で済むのでは……研究所社員達のその決断に迷いはなかった。
幸いにもこの活動に理解を示し支援を申し出てくれるスポンサーが数社現れる。これにより車体は「真っ白」ではなくなり、あくまで「ノーマル」にレース出走に必要な最低限の装備追加、仕様変更を施すことが可能となった。そしてドライバー陣は本田技術研究所の開発責任者を含む研究員3名に、スーパー耐久の2つのクラスで優勝経験のあるモータージャーナリスト瀬在仁志が加わった4名。
尚、自動車メーカーの開発責任者がスーパー耐久に参戦するのは初めてのケースとなる。どこぞの社長さんはもう出てたりもする。
予選クラス4番手からスタート
決勝前日に行われた予選では、Aドライバー木立氏とBドライバー望月氏が2分10~11秒台を記録。合算タイムでクラス5台中4位、総合で30番手を獲得した。Cドライバー柿沼氏とDドライバー瀬在氏も基準タイムを難なくクリア。
迎えた5時間の決勝レース、スタートドライバーの望月氏は、ブレーキを労わりながらも順位をキープしてチーム最多の35周を走行、2番手の柿沼氏へバトンを渡す。9月中旬ながら気温は30度に達し、ラジエターの水温も110度から115度へ上昇。開発チームの技術で2分16秒台に設定した一定のペースでマシンに負荷をかけないよう走行するが、完走目標といえどもこれはレース。実はこの時点で17号車アクセラと僅差で3位争いを展開していた。
ST-2クラス3位と同一周回の4位で完走
第3ドライバー瀬在氏はマシンの状態を逐一報告、あくまで完走が目標であることをチームスタッフに伝え冷静にレースを運び、アンカーの木立氏につなぐ。ピットクルーももちろん社員で構成、最後まで確実な作業でマシンを送り出した。マシンが完調だったこともあり木立氏は1分14秒台にペースを上げて周回、給油時間の短さで先行するアクセラを追いかける。
そして5時間が経過し122周でチェッカー、ST-2クラス4位で無事完走した。惜しくも表彰台とはならなかったものの、同3位のアクセラとは同一周回という、ほぼノーマル状態のマシンとしては思いもよらぬ好成績だといえよう。
スーパー耐久シリーズ第5戦 ST-2クラス決勝結果(完走4台)
1位 6 新菱オート☆DIXCELエボX 富樫朋広/菊池靖/大橋正澄
2位 59 DAMD MOTUL ED ERX STI 大澤学/後藤比東至/井口卓人/石坂瑞基
3位 17 DXLアラゴスタNOPROアクセラSKY-D 野上達也/谷川達也/大谷飛雄/野上敏彦
4位 743 Honda R&D Challenge FK8 木立純一/望月哲明/柿沼秀樹/瀬在仁志
このチャレンジが続くことを・・・
最後にモータージャ…いや、レーシングドライバー瀬在仁志氏からの言葉をもって、この活動にエールを贈りたい。
「以前ホンダの開発者とレースについて話す機会があり、このプロジェクトの存在を知りました。より良いクルマ創りにかける情熱、レースの実戦から得られるモノがあればという探究心、研究所スタッフに本田宗一郎さんの志を見ることができ心を打たれました。ですので今回お話をいただき喜んで参加させていただきました。こういった方々が開発に携わったシビック Type Rは本当に良くできており、5時間の耐久レースでもトラブル無く走りきることができました、それもかなりの成績で。もちろん真夏の陽気の中で油温、水温などに気をつけながらの走行となりましたが、駆動系は至って順調だしブレーキも最後まで問題ありませんでした。ホンダさんも自社の製品に自信を持ってもらい、ぜひこのプロジェクトをバックアップ、サポートしていただけたらと思います。差し出がましいようですが(笑)」(PHOTO:井上雅行)