まずはすでに実用化されている日産のVCターボエンジンを解説
2018年、日産がインフィニティQX50に搭載して注目を浴びた可変圧縮比(VCR)エンジン。このときはVCターボと称して、ターボとの組み合わせが前提の技術だった。
ターボエンジンはそもそも、過給器の性能をフルに活かすために圧縮比を適切なところまで下げる必要がある。そうしないと、エンジンがノッキングなどによるダメージを受けてしまう可能性があるのだ。しかし、過給圧のかからない一般走行では圧縮比が低いために燃焼効率で劣るというデメリットがある。一方のNAエンジンは、圧縮比を上げてエンジン本体の性能を活かすこともできるが、絶対的なパワーでターボエンジンに届かないし、無理にパワーを上げようとすると扱いづらいエンジンとなる。
いずれにしても一般的なエンジンは圧縮比を固定され、NAか過給かどちらかを選ぶことになる。しかし、VCターボはそのいいとこ取りが可能となっている。8:1から14:1の間で圧縮比を制御できるからだ。
どうしてそんなことができるのかを簡単に説明すると、内部のリンク機構がポイントになる。エンジン内部のクランクピンにシーソー状のパーツを付け、その一端がコンロッドに、他方の一端がコントロールシャフトから伸びるリンクにつながっている。
圧縮比を変化させるときには、コントロールシャフトが回転してリンクがシーソー状のパーツの一端を引き下げる。すると、シーソーのもう一端がコンロッドを押し上げピストンの上死点が上に移動して圧縮比が高くなる。逆にコントロールシャフトがシーソーの一端を押し上げると、シーソーのもう一端がコンロッドを引き下げ、圧縮比が下がるということになる。これにより、走行状態に応じてコントロールシャフトを動かしてストローク位置を移動、圧縮比をフレキシブルに切り替えるわけだ。
VCRエンジンの技術を転用してエネルギー効率を高めることができる
現在、日産はe-POWER(=シリーズハイブリッド方式)を軸に電動化の方針を打ち出し、2020年に向けて発電専用のVCRエンジンを開発しつつある。それを2020年以降に発売する新型車に続々搭載するという。しかし、燃費だけを考えれば発電専用エンジンはターボで過給する必要も少なく、発電効率の良い回転数を狙って稼働するだけなら可変圧縮である必然性も少ない。
ではどうしてe-POWERにVCRエンジンを採用しようとしているのか。実は、日産の狙いは可変圧縮比エンジンで培ったリンク機構によるロングストローク化ということのようだ。一般的にロングストロークの方がコンパクトな燃焼室となり、低回転域で熱効率が良く燃費も向上する。そしてVCRエンジンのリンク機構を使えば、超ロングストロークエンジンとすることも可能性になるのだ。
リンクのおかげでコンロッドは分割式のようになるから、エンジンの高さを抑えることできる。また、ロングストロークエンジンの長いコンロッドがシリンダー内壁に当たってしまう限界点を、VCRのリンク機構によって抑えられるので、まさにロングストローク化に打って付けの機構なのだ。そして、よりパワーが必要ならば超ロングストロークに加えVCターボとして発電量を多くすることも可能となる。
このように日産がエンジン開発に力を入れるのは、欧州でCO2排出量の測定方法が2030年にLCA(ライフサイクルアセスメント)規制に変わる可能性があるからだ。LCAとは走行時だけでなく、クルマの生産から廃棄、再利用まで含めたクルマのライフサイクルでCO2排出量を評価する方式のこと。その国のエネルギー事情にもよるがLCAで見ると、ガソリンエンジンを使用するハイブリッド車(以下、HV)は、電気自動車(以下EV)よりも走行時のCO2排出量は多く、逆に生産や燃料生成段階では少ないと言われる。
高くて40%程度と言われる近年のガソリンエンジンのエネルギー効率を、2030年のLCA規制に向けて50%に高めることができればCO2排出量も大幅にさがり、生産時のCO2排出量の少なさと合わせて2030年以降もHVはエコカーとして活躍できる可能性がある。
日産が発電専用のVCRエンジンに期待を寄せる理由がそこにあるわけだ。もちろんEVも合わせて開発していくだろうし、LCAでのCO2削減に努めることになるだろう。そういう面では日産に限らず2030年からが真のエコカー対決になってくるはずだ。(文:飯嶋洋治)