今のガソリンの安さは、クルマに日常的に乗る人なら感じていることだろう。実際にレギュラーガソリンの全国平均価格は11週連続下落(4月6日時点)して133.7円となっている。そこで、多くの外的要因に影響されるガソリンの価格の決まり方や、現在のガソリン安の原因、そして今後の動向についてみていこう。

原油コストや精製マージンなど、ガソリン価格が決まるまで

資源エネルギー庁の給油所小売価格調査によると、2020年1月20日のレギュラーガソリンの全国平均価格が151.6円だったのに対して、4月6日時点で133.7円と17.9円値下がりしている。同期間の東京で152円から134.5円に、大阪で151.9円から138.4円にと地域でばらつきはあるが下落傾向は同じだ。まず、この原因を解説する前に、ガソリンの価格はどんな仕組みで決められているのか見てみよう。

ガソリンの価格を決める基本的な要素は次の4つの要素からなる。
・原油コスト…ガソリンの原料となる石油代
・精製マージン…石油を精製してガソリンにするためのコスト
・流通マージン…石油やガソリンの輸送、ガソリンの卸、消費者への販売にかかるコスト
・税金…ガソリン税や消費税
 
その中でもガソリンの価格に最も影響するのが一番上の「原油コスト」だ。中東(サウジアラビアなど)やロシアなどの産油国はガソリンの元となる原油を産出して、世界中で売りさばく。日本の石油の輸入元は90%近くが中東からとなっている。価格は、2020年初頭頃は1バレル(約159L)あたり60ドル前後だったが下落傾向が続き、4月に入ると30ドルを切るあたりで推移している。この価格が「原油コスト」にあたるものだ。

原油コストの他に、ガソリンを精製するためのコスト(精製マージン)と、石油会社がガソリンをガソリンスタンドに卸し、販売のための経費などを加味する(流通マージン)がかかる。精製コストに関しては、近年のガソリン需要の低減もあり石油元売り各社が統合、合理化などぎりぎりのコスト削減に努めているところだ。

流通マージンは価格に反映されるところでもある。重要なのは油槽所の数と距離で、油槽所が少なかったりスタンドから遠かったりすると、物流コストも高くなるので、地域によるガソリン価格差が生まれる要因となる。4月6日時点のガソリン小売価格で、全国で最も高いのが長崎県の146.9円で、離島の多さという特別な理由があると言われている。

関東で最も高いのは長野県の139.3円で、これは県の面積が広いのに対して油層所が少ないという教科書どおりの理由によるものと考えられる。ちなみに全国で最も安いのが北海道の125.2円、関東では茨城県の130.9円となっている。その他にもセルフスタンドかフルサービススタンドか、また、国道沿いでガソリンスタンドが多いところなどでは、競争原理が働き価格が下がる場合もある。

ガソリンの小売価格には税金が含まれているのも忘れてはいけない。ガソリンの場合は本体にガソリン税(揮発油税:48円60円+地方揮発油税:5円20銭)×消費税10%がかかってくる。税金を含んだ価格に消費税がかけられるので二重課税といわれる所以だ。ちなみにガソリンより軽油が安いのはほぼ税金の違いで、軽油本体に消費税10%がかけられ別途に石油取引税として32.1円が加えられるという違いがある。軽油本体がとくに安いわけではない。

画像: クルマユーザーにとって、安くなれば嬉しいガソリン価格。4月現在のレギュラーガソリン価格はここからさらに10円近く安くなり、全国平均133.7円となっている。

クルマユーザーにとって、安くなれば嬉しいガソリン価格。4月現在のレギュラーガソリン価格はここからさらに10円近く安くなり、全国平均133.7円となっている。

現在のガソリン安の原因と、今後の価格の動向は

昨今のガソリン安の根本的な問題は原油コストが下がったことだ。2020年初頭まで比較的安定的だったのは、原油産出国で結成されているOPECと主な産出国(ロシアなど)が、原油の価格を維持するために産出量をあえて少な目に抑えていたから。それぞれの国が好き勝手に原油を産出すれば、世界中に原油が余ることとなり、原油の価格がとても安くなってしまうのは明白だ。

この減産調整の取り決めは中東とロシアなどの産油国(OPECプラス)同士の取り決めによって行われ、それまでの取り決めは2019年6月末までとなっていた。ただ、世界経済の減速懸念で石油需要が伸び悩みが見込まれる中、2020年3月末まで9カ月延長することで合意もし安定化を図っていた。

取り決めの期限の迫った3月6日に開催されたOPECプラスの会合で、サウジアラビアが需要減が見込まれる中、さらに減産量の追加などを主張した。対してロシアは、協調減産に加わっていない米国などにシェアを奪われかねないことを理由に減産協力を拒否した。すると、それに対抗する形でサウジアラビアは増産に踏み切った。そのため一層の原油余りとなり原油価格は暴落したわけだ。そのあおりを受けて4月1日に米国の石油生産事業者(シェールオイル生産事業者)が経営破たんするなどの事態も起き、今回の事態を受けて米国もサウジアラビアとロシアに減産を求めるにいたった。

つまりガソリン価格の低下は、もともとの需要の低下、産油国同士のシェア争いや国際的な思惑、そして現在猛威を振るう新型コロナウイルスなどによる大幅な経済活動の停滞など、複合的な要因が重なった結果といえる。

画像: 昨今のガソリン安の主な要因は、OPECプラスの動向によって変動する原油価格の低下だ。

昨今のガソリン安の主な要因は、OPECプラスの動向によって変動する原油価格の低下だ。

そんな中、4月10日に「OPECプラス」で会合がもたれ、日量970万バレル減らすことに最終合意を決めた。これは5月と6月に実施され減産幅は過去最大となる。新型コロナウイルスの発生によって、中国企業を初めとした大きな工場の稼働停止や経済の停止が進んでいる中で増産は現実的ではないことをサウジアラビア側もロシア側も表明したのだ。これは価格急落では自国も困る米国の仲裁もあってのことと言われる。

現状のガソリン価格はまだ低下傾向だが、新型コロナウイルスの問題が収束に向かえば、経済が活気を取り戻し、石油を必要とする工場や飛行機などが動き始めることで原油の価格は元に戻るとも考えられる。ガソリンの価格に新型コロナウイルスも関係しているとなれば、ガソリンが安いことを喜んでいる場合ではないのかもしれない。(文:恵良信)

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