新世代プラットフォームSPAを採用
2019年11月に上陸を開始したボルボ唯一のセダンS60は、フロントタイヤを前出ししてロングホイールベース/ショートオーバーハングのFR車っぽいフォルムが作り出せる新世代プラットフォーム、SPAの利点を最大限に生かしている。過去の2世代とはまったく異なる、低くワイドで前後方向には伸びやかな、極めて魅力的なスタイリングで話題だ。
日本に導入されているS60のラインナップは、エンジンはすべてガソリンの2直4ターボ。FFが190ps/300NmのT4モメンタムと、254ps/350NmのT5インスクリプションの2種。そしてさらにこのエンジンにスーパーチャージャーを加え、後輪をモーターで駆動するPHEVのT6ツインエンジンAWDインスクリプション(システム総合出力340ps)もあり、都合3グレードとなる。
日本導入を記念して、ツインエンジンのシステムをポールスターのチューニングでさらに出力アップしたS60 T8ポールスターエンジニアードも存在したが、30台の特別限定モデルだったので即日完売。今後も限定モデルで登場する予定だが、現状S60は先に記した3モデル展開となっている。
このうち、T5インスクリプションとT6ツインエンジンAWDインスクリプションは導入当初からデリバリーが始まったが、T4モメンタムは遅れていた。しかしここに来て供給が始まったのでさっそく試してみた。導入当初は高性能モデルが話題になるものだが、コンスタントに売れるのは実はこうしたベーシックグレードということは多い。その意味でも注目に値する一台と言えるだろう。
全域でレスポンスがいい。癒やし系の走りも味わえる
ボルボ自身は、このT4モメンタムをプレミアムと表現している(ちなみにインスクリプションはラグジュアリー)。実際、内外装や装備レベルは十分と言える。エクステリアでは、フォグライトのベゼルと縦桟のグリルからクロームが省かれ、テールパイプが丸型になり、ホイールが大人しいデザインの17インチとなる程度。華やかさは少し薄れたが、もちろん美しいセダンボディは健在だ。
インテリアでは、インパネのドリフトウッドパネルがアルミニウムになった。シートはT-Tecと呼ばれるテキスタイルのコンビネーションが標準装備なのだが、今回の試乗車は41万円のレザーパッケージを装備していた。これを外した素の状態のT4モメンタムの価格は489万円。ナビゲーションなどインフォテインメント系や、定評ある安全装備、ADASなどはボルボの場合全車共通だから、プライスバリューは非常に高い。
XC40にも搭載されるT4エンジンは、低速域から十分なトルクを発生しているので走り出しから非常に軽やかだ。アクセル開度が深くなって行く領域ではさすがに254psのT5に敵わないものの、考えてみればこれはT5がかなりパワフルなのであって、T4も実用にして十分な動力性能だし、何より全域でレスポンスが良く扱い易い。リミットの6500rpmまでストレスなく吹け上がる伸びの良さも備えており、S60では「これで十分」と思わせる仕様となっている。
乗り味も、シャッキリ感が強調されるT5より格段に癒し系。225/50R17タイヤは、当たりの優しいマイルドな乗り心地と、低ロードノイズの静粛な走りを両立させ好印象だ。さらにノーズの入りがとても素直なハンドリングも両立している。これはロー&ワイドなフォルムというS60の素地の良さが生きた結果だろう。
S60に設定された3つのグレードは、それぞれに独特の持ち味があってどれを選んでも後悔はないが、個人的には素直で肩の力が抜けたT4モメンタムの走りがもっとも印象的だった。そのうえ価格バリューも高いのだから、ぜひチェックしたい一台である。(文:石川芳雄)
■ボルボ S60 T4 モメンタム主要諸元
●全長×全幅×全高=4760×1850×1435mm
●ホイールベース=2870mm
●車両重量=1660kg
●エンジン= 直DOHCターボ
●総排気量=1968cc
●最高出力=190ps/5000rpm
●最大トルク=300Nm/1400-4000rpm
●駆動方式=FF
●トランスミッション=8速AT
●車両価格(税込)=489万円