あくまで「応急」処置であることを忘れずに
従来ラゲッジルーム下のスペースといえば、スペアタイヤやテンパータイヤの格納場所だった。ところが最近、ここに「パンク応急修理キット」を車載しているクルマが多い。パンクしたタイヤの穴をシーラント(補修ラバー)剤でふさいで空気の漏れをなくし、修理/交換してくれるタイヤショップまで行けるようにするものだ。
実際に修理キットを使ったことのある人は少ないだろうから、まずは一般的な操作方法を紹介したい。パンクしていることがわかったら、まずは広い場所で停車したり停止表示板を設置するなど、安全な作業場所を確保することが重要だ。パンクしたタイヤの対角線側のタイヤに輪止めをかけることも忘れてはならない。
ここでパンクしたタイヤに刺さっているクギやネジなどを見つけても、抜かないことが大切だ。抜いてしまうと穴が大きくなり、修理キットで空気の漏れを防げなくなってしまう可能性があるからだ。
修理キットを取り出したら、ホースをパンクしたタイヤの空気注入バルブに接続する。バルブの接続はネジ式のため、まわせなくなるまでしっかりとねじ込む。シーラント剤の入ったボトルを修理キット本体に取り付け、電源をシガーソケットに接続したらクルマのエンジンを始動。修理キット本体の電源を入れると、エアポンプによってシーラント剤と空気がタイヤ内へと注入される。キットには圧力計が付いているため、運転席のドア開口部付近に書かれた指定空気圧まで空気を入れ続ける。
空気注入時は一時的に圧力計が高い値を示すこともあるが、少し待てばスムーズに注入される。それでももし高圧の状態が続くようならば、いったん止めて接続を確認、それでも空気が入らないようならばロードサービスを頼むことになる。
指定空気圧になったら修理キットや輪止め、停止表示板などをすばやく片付け、安全を確認してすぐにクルマを走らる。3kmも走行すれば、タイヤ内に注入したシーラント剤が遠心力で均一に広がり、クギなどの刺さっていた部分を塞いでくれる。もう一度停車して、エア漏れしていないか修理キットのエアゲージで確認、指定空気圧のままだったら応急修理は成功だ。ただし、このまま長距離を走り続けてはダメ。あくまで応急修理だから、すみやかにタイヤショップなどできちんとパンク修理/タイヤ交換を行う必要がある。
この応急修理によって走れるようになったクルマは、速度を80km/hまで出すことができるため高速道路も走れるが、次のインターで降りて修理をすることが必要だ。多くの場合、キットのなかに速度制限を示すシールと応急修理のシールが入っている。速度制限シールは運転席の見やすいところに貼り、修理シールはパンクしたタイヤホイールの中心に貼る。これはほかの人が運転した場合、応急修理中のタイヤであることを知らせるためだ。
パンク応急修理キットはタイヤを緊急的に修理できる装備であるが、下記のような場合は対応していないのでロードサービスに救援を依頼しよう。
・サイドウオールやショルダー部など、トレッド面以外が損傷している
・直径4mm以上のクギやネジが刺さっている
・パンク修理剤の有効期限切れ
・タイヤが2本以上パンクしている
・ホイールが損傷している
テンパータイヤやスペアタイヤを装着するモデルはまだ存在する
このようなパンク修理キットは、車内スペースの拡大と軽量化を目的に登場。従来はスペアタイヤやテンパータイヤが車載されていたが、これらのタイヤはほとんど使われることがなかった。そこでこのスペースを荷室として使うことや燃費向上のために軽量化する目的で普及が進んでいる。
標準装着のタイヤと同じサイズのスペアタイヤが乗用車に搭載されなくなったのは、かなり前の話。クロスカントリーモデルやバンなどの一部を除いて、現在はスペアタイヤを標準装着するモデルはかなり少ない。
街を走るクルマにいまだ多く搭載されているのがテンパータイヤだ。標準装着タイヤよりかなりトレッド幅が細く、黄色いホイールが識別点。指定空気圧が420kPaと高いため細くても荷重を受け止められるわけだ。点検を怠っていると、いざというときに空気圧不足で使えないということもあるから、定期的にチェックしたい。
このテンパータイヤもあくまで応急処置だから使い続けることはできないし、もちろん車検(継続検査)に対応していない。許容スピードは100km/hまでというタイヤが多いが、テンパータイヤはグリップが劣るため慎重な運転が必要だ。特にフルタイム4WDやLSDを装着したクルマに装着した場合、機械的なストレスをかけることもあるので、すみやかに標準タイヤに戻したい。
ここで紹介した例はあくまで一般的な取り扱い方法であって、クルマによって操作方法や許容スピードなどが異なることがある。必ず取扱い説明書で確認していただきたい。(文:丸山誠)