続々と送り出されるシロンのバリエーションモデル。このマシンはサーキットや公道で徹底的に楽しむための1台だ。(Motor Magazine 2020年7月号より)
驚異のパワーウエイトレシオ1.18kg/ps
2016年にヴェイロンの後継モデルとして登場したブガッティの現行モデル、シロン。これまでにシロン スポール、ディーヴォ、ヴォートレ ノワール、セントディエッチなど、個性豊かなバリエーションが誕生している。そして今回、ステファン・ヴィンケルマンCEOは公道やサーキットを楽しみたいユーザー向けに、シロン ピュール スポールを追加した。
ブガッティのオーナーには、プライベートミュージアム用に購入するだけでなく、実際にサーキットや峠道でスポーツドライブを楽しみたいというアクティブなドライバーたちもいる。そこで開発されたのが新しいバリエーションモデル、ピュール スポールである。
このスペシャルエディションの開発コンセプトは、「究極のコーナリングマシン」だという。そのため、強力なダウンフォースを得るべくフロントにはエアスプリッター、そしてリアに全幅1.9mの巨大なカーボン製ウイングを装着する。ボディは軽量化されて、シャシは低く固められた。タイヤは新開発のミシュランカップスポーツ2R(前:285/30R20、後355/25R21)で、ロードホールディングの向上を狙う。
8LのW型クワッドターボエンジンの最高出力1500ps、最大トルク1600Nmに変更はないがプログラム変更でフレキシビリティを向上、6速の60→120km/h加速は2秒も速くなった。また0→100km/h加速は2.3秒、同200km/hまで5.9秒と短縮され、代わりに最高速度は420km/hから350km/hへとダウンしている。
このピュール スポールは現在、最終的な開発段階に入っているがブガッティは限られたジャーナリストを招待してテスト中の同乗取材を許可してくれた。場所は、ドイツ中部にあるビルスターベルグサーキット、全長4.2kmのテクニカルコースである。
5点式シートベルトに締め上げられた私は緊張の頂点に達しながら、テストドライバーのスヴェン・ボーンホルスト氏に身を任せる。最初の周回は、タイヤのウォームアップが目的。それでも結構なハイペースであったが、続いて始まったデモンストレーションランでの、身体に掛かる前後左右からのGフォースは未体験の世界だった。
とくに加速スピードは圧巻であったが、このピュール スポールの車重は1770kgということで、パワーウエイトレシオはわずか1.18kg/ps。まさに、ひと昔前のF1マシンの世界である。
わずか5周、時間にしてせいぜい20分間だったが、ブガッティのハイパーパフォーマンスを身体で感じた素晴らしい体験であった。(文:アレキサンダー・オーステルン/キムラ・オフィス)