「9月16日」にZプロトが発表された理由とは?
今回、Zプロトが電撃的に発表されたのには、実はいろいろな伏線がある。初代フェアレディZ誕生は1969年10月に日本で発表・発売され、翌1970年春にアメリカで発売された。つまり「Z50周年」というのはアメリカにおける話で、「日本で企画・生産された初代240Zの上陸から50周年」というわけだ。
初代Zは累計約52.4万台という販売台数を記録した伝説的モデル。なかでもアメリカ市場は巨大で、今でも多くのZカーファンが全米各地で歴代Zを持ち寄って、毎年ZCONと呼ばれるミーティングを行っている。そのZCONが2020年で第33回目を迎える中、開催された場所はナッシュビル(テネシー州)。しかも、その会場となったのはアメリカ日産本社だ。
そして、9月14日から19日まで約1週間を費やして様々なアクティビティが行われるこの全米Zカーミーティングを主催するのは、ZCCAというZカークラブの実行委員会。全米各地の50以上のZカークラブとカナダのクラブ、インターネットベースのクラブも加えて、会員数は10万人を超えているという。
これだけの規模を持つクラブイベントだけに、アメリカ日産本社もこのイベントに並み並みならぬ関心を寄せていたはずだ。もちろんZCCAの持ちかけもあったが、「Zプロトをお披露目するには最高の舞台である」と日産サイドが考えるに如くはない。
かくしてアメリカにおいてZ生誕50周年となるセレモニーイベントの目玉として、Zプロトはその姿をアンベールした。では、なぜ9月16日だったのか。例年は6月〜7月に行われることが多いZCONなのだが…。
その理由は、「Zの父」として今でもZカーファンからアメリカで親しまれ、アメリカ自動車殿堂にも殿堂入りしている故・片山 豊氏(2015年に105歳で逝去)の誕生日である9月15日に合わせて、この日が選ばれたのだ。
ちなみに、アメリカとの時差の関係で日本の16日はアメリカの中東部時間で15日に当たる。こうして15日19時から21時まで設けられたNNA(北米日産)によるスペシャルイベントの枠で、Zプロトは電撃的に発表されたわけだ。
こうしたZCONを舞台としてZのティザー情報が出されることは過去にもあった。例えば、2000年6月にラスベガスで行われたZ生誕30周年記念のコンベンションでは、Z33のCピラーを切り取ったイメージイラストが紹介された。これはZ33プロトが翌2001年1月のデトロイトショーにてお披露目される半年以上も前のことであった。
Z復活への大きな原動力として、Z33を多くの全米ファンにアピールしたのだ。
Zプロトについて、日米のZカークラブの反応は?
さてこのZプロト、アメリカと日本のZカークラブでの反応はどうだったのか。16日のYouTubeでの動画公開とは別に日米のZカークラブに、ZOOM(オンラインミーティングアプリ)を使ったプレミアムセッションが設けられた。その終了後、各クラブのメンバーに取材して独自にコメントを頂いた。以下にその一部を紹介しよう。
ZCON主催 ZCCAディレクター クリストファー・V・カールさん
「私にとって新型Zプロトは、現行の370Zと次世代の日産スポーツカーとのギャップを埋めるために必要なものです。1990年代のスポーツカー市場に衝撃を与えた300ZX(Z32)のスタイリングを取り入れながら、初期の240Zを呼び戻し、敬意を表しています。
個人的には、過去のモデルの要素やカタナ(日本刀)へのオマージュなど、Zプロトのデザインにとても満足しています。新しいZプロトの最新かつレトロなスタイリングは、我々Zクレイジーズの記憶を呼び覚ましてくれます。それと同時に、スポーティな選択肢を探している新たな購買層を惹きつけてくれると信じています。今回のZプロトの発表会は、日産とZコミュニティにとっても成功を収めました。世界中から5万人以上の熱狂的なファンがライブイベントを観戦しました。この成功を是非、新型Zにつなげて頂きたいと思います。」
続けては日本のクラブから…
DSCC中部 会長 小寺 猛さん
「ひと目見てときめきました。モニター越しですがZプロトを目の当たりにして、クラブ員全員
『いいんじゃない』から『いいねぇ』に、そして『欲しい!』に想いが変わっていったのを覚えています。素晴らしい進化をしてくれました。新しいだけではなく、歴代のいいところを継承しつつそれでいて新しいという、絶妙なバランスですね」
「賛否ありますが、ライトまわりは先進的だと思います。つり目になると、悪人顔やイカツさが出てしまいます、ただの丸にしてしまうと、古さや可愛さが出てしまう。どこかで見たようで、見たことない良い形をしてますよ。シャープなノーズも、フロントからリアフェンダー近くまで伸びるプレスラインも、リアフェンダー前のくびれたサイドステップも、どこをとっても素晴らしい出来だと思います」
「日産開発陣の方々へ、賛否はあると思いますが屈することなくこのまま発売して欲しいです。車両価格も400万スタートで、できればエンジンはターボとNAの2種類、ボディカラーはソリッド系も含めて多く揃えて欲しいです。内装も文句なしでデザインも良いし特にデジタルメーターが良いですね。できれば、室内ドアノブがZ34と同じなので、開け方や取り付け位置を変えて欲しいかな…。歴代のZを振り返ると、内装色にグレーやブルーバーガンディなどもあったのでカラーバリエーションを増やしてもらいたいです。シートの色を変えるだけとかドアトリムの色を変えるだけの変化はして欲しくないかな」
「いろいろ言いましたが、素晴らしい新型フェアレディZには違いないですし、当クラブ員も数名買い替えの情報がすでに入っています。そして何より、日産自動車にはフェアレディZを継承して頂いて感謝いたします。ありがとうございました」
DSCC中部 事務局長 木村憲太郎さん
「オンラインで見た印象としては、『歴代Zのイイとこどり』っていう感じですかね。第一印象としてスピリットを感じる新しさは、正直なかった。実車を見るとまた違うと思うけれど、カタチ的には大人しいというか、無難にまとめた印象かな」
「今までの流れで見ると、2代目(S130)は初代(S30)からの『継承』。3代目(Z31)で大きく変えて、続く4代目(Z32)でスーパーカーみたいになって高くなっちゃったけれど、あれはそれまでのZとはまったく違う、ぶっ飛んだ存在だったと思います。ツインターボの280psもすごかったし。で、復活した5代目(Z33)でFMパッケージとV6自然吸気の組み合わせでまた変わって、現行型のZ34はその流れ。そして、かなり時間が空いての今回だから、『次世代Zはこうだ!』みたいなスピリットを期待したのですが…」
「ただ、共用できるところは共用して煮詰めていくというのもあるし、車両価格のこともある。でも、もしこれが400万円台で出たら、結構、売れると思うんですよね。V6ツインターボの6速MT仕様があるのも良い。スープラと比べると、車両価格も内容も昔ながらのスポーツカーの良さを大切にしてくれていると思います。実際、クラブの人間でオンラインで見て、さっそくディーラーに次期型Zのニスモを予約しにいった人間が複数名いました(笑)。なにより、苦境にある日産が次のZを出すと表明してくれたことは本当に嬉しかったですね」
Z31クラブ会長 宮田 啓さん
「まず、間違いなく『Z』だと思いますし、この時代に(10年以上ほったらかされていたことはさておき)Zを世の中に出そうという気迫・情熱を多分に感じ、感慨深く思います」
「プラットフォームの課題や年々厳しくなる各種法規要件のあるなか、もしかしたらガソリン車最後となるZのスタイリングを、初代および大きく飛躍したZ32のスタイリングをオマージュするコンセプトに共感します。それでいて新しさも感じるバランスは絶妙だと思います」
「で、この新型Zプロト『アリかナシか?』と聞かれれば、間違いなくアリ!…で良いと思います。Z31仲間にも、欲しいと言ってる人は複数名います。ただし、Z31単体の香りを感じるか?と言われると、ほぼ感じていません。間違いなく『Z』ではありますが(苦笑)」
「歴代Zは、それぞれの時代に日産が考えるスポーツカーであり、それぞれの世代に歴史があり、各世代の共通点を探すことはナンセンスだと思います。日産スポーツとしてのZが存続するだけで私は満足です」
…と、概ねファンには好評のZプロト。発表の翌日となる9月17日から、横浜の日産パビリオンに愛知県や石川県から訪れたという人もいる。その多くが呟いていたのは「実際に見るとすごく良い」、「オンラインでは過去のモデルの寄せ集めじゃないか…って思ったけれど、実物は立体感もあっていい感じですね」とこちらも好評。
気になる車両価格について「V6ツインターボが400万円台なら間違いなく売れる!」という声が多く聞かれた。この点について関係者に「もう少し、ファンに情報を出しては?」と聞いたところ、「先出ししすぎると、この先言うことがなくなってしまうので…」とのこと。
今回はデザインのプレゼンテーションであり、車両価格や商品企画などの情報は控えられたようだ。しかし、今後も間を置いて新型Zの事前イベントが開かれる可能性は高い。何より、関係者が漏らした「社運がかかっているんです。この新型Zには....」という言葉に、日産の本気を感じた。
(文:森田浩一郎)