2008年6月、W204型メルセデス・ベンツCクラスが一部改良され、ダイナミックハンドリングパッケージが採用された。これはW204型Cクラスの特徴であるアジリティをさらに強調するパッケージだったが、Cクラス日本デビュー時には法規制の問題もあって導入が見送られていた。そこで早速Motor Magazine誌ではこのダイナミックハンドリングパッケージを装備したC300をテストしている。ここではその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年12月号より)

「SPORT」スイッチひとつで走りは豹変する

スイッチひとつ押すだけでまったく性格の違う別の個性が味わえるとなったら、それを押すのを我慢することは難しいだろう。

ついつい手を伸ばしたくなる場所に配置された「SPORT」という「魔法のスイッチ」を押せば、C300アバンギャルドSは「スポーティな走り」という別の一面を見せることになる。

現行204型Cクラスは、アジリティ(俊敏性)を前面に押し出した方向性のクルマづくりがされたが、さらにそのアジリティを強調する「アドバンスドアジリティパッケージ」と緊急ブレーキを踏んだとき後続車の注意を促す「アダプティブブレーキライト」を採用したことがトピックスであった。

しかし、日本に導入された当初、このアドバンスドアジリティパッケージ(日本仕様の名称はダイナミックハンドリングパッケージ)とアダプティブブレーキライトは日本の法規制もあり、ともに日本仕様には採用されておらず、2008年7月の改良でこれらの採用モデルが導入されることになったのだ。

現在、日本に導入されるCクラスのトップモデルは3L V6エンジンを搭載したC300アバンギャルドS。そのC300と組み合わされたダイナミックハンドリングパッケージは、ダンパーの減衰力特性の変更やアクセルレスポンス、シフトチェンジスケジュールを総合制御することにより、よりスポーティなドライビングを可能としたものだ。

改良モデルとなったCクラスに乗り込んでみても、インテリアの雰囲気に変わったところを一瞬で発見するのは難しく、クオリティの高い室内はそのままだ。しかし、セレクターレバーの横のM、C、Sモードのスイッチが、このダイナミックハンドリングパッケージではMとCのみとなり、前記の「SPORT」スイッチがエアコン操作パネルの上に用意されていることに気がつく。

画像: 「SPORT」モードを選択する「魔法のスイッチ」は、エアコン操作パネルの上に用意されている。

「SPORT」モードを選択する「魔法のスイッチ」は、エアコン操作パネルの上に用意されている。

このスイッチで、Cクラスは「SPORT」モードへと豹変する。可変ダンパーがスポーツモードとなり、ギアチェンジのタイミングやエンジン回転数が変化するのだ。それはアクセルペダルの踏み込み量に対するエンジンのレスポンスが違うことでも実感できる。同じ踏み込み量でも加速感がまったく異なるのだ。

Cモードでは「グーン」といった加速感覚が、「SPORT」モードでは「グンッ」といった感覚でシートに身体が押しつけられ加速する。その変化は、エンジンの回転数でも確認できる。100km/h巡航時「SPORT」モードの回転数は2500rpmだが、そこでCモードにすると1900rpmに回転数が落ちる。しかし、その逆はない。つまりCモードから「SPORT」モードに切り替えても回転数が上がるわけではないのだ。

「SPORT」モードでの走りは、簡単に言ってしまえばC63AMGと似たような雰囲気を持つ。あくまで「雰囲気」であり、フットワークまでC63AMGのようにハードになるわけではない。コーナーリングでの姿勢変化も少なく「適度に引き締まった足」という表現が一番適切かもしれない。また、高速道路の繋ぎ目を乗り越える時に聞こえてくる音の変化でもCモードと「SPORT」の違いがわかる。「コン、コン」という音が、「SPORT」モードでは「ゴン、ゴン」に変化するからだ。しかし、それは決して不快だというわけではない。これこそまさにCクラスの真骨頂だと言っていいのだろう。

このC300アバンギャルドSダイナミックハンドリングパッケージの価格は702万円。価格改定前のC300アバンギャルドSが675万円だから、27万円高となるのだが、充実した装備分も含め、価値アップ分は存分に味わえるだろう。

画像: 用デザインの17インチアルミホイール。タイヤサイズは225/45R17。

用デザインの17インチアルミホイール。タイヤサイズは225/45R17。

また、C300の他にも同じようなモデルが設定された。「ダイナミックハンドリングエディション」とその名前の通り限定発売だが、価格もC200コンプレッサーアバンギャルドダイナミックハンドリングエディションが506万円、C250同エディションが623万円に設定されている。

しかしパドルシフト付本革巻3本ステアリングホイールや専用にデザインされた17インチ7ツインスポークアルミホイールが装着されるなど、装備内容をみてもC300ほどパフォーマンスが必要ないならば、こちらのほうがよりバリュー感は高いだろう。(文:Motor Magazine編集部 千葉知充/写真:伊藤嘉啓)

メルセデス・ベンツ C300 アバンギャルドS ダイナミックハンドリングパッケージ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4630×1770×1430mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1570kg
●エンジン:V6 DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:170kW(231ps)/6000rpm
●最大トルク:300Nm/2500-5000rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●車両価格(税込):702万円(2008年当時)

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