ゲーミングチェアの基本コンセプトは、クルマ用スポーツシートにある!?
昨今、動画サイトを見ていると「ド派手な椅子」に座りながら配信をしているひとをよく見かける。これはいわゆる「ゲーミングチェア」と言って、ネットゲーマーのライフスタイルを考慮して開発された椅子だ。近年、世界的なEスポーツ人気をはじめ、日本人プロゲーマーの活躍などでゲーム業界の流れに呼応し、オフィス家具市場でも「ゲーミングチェア」というカテゴリが注目されている。
プロゲーマーともなれば1日の練習時間は10時間以上、さらに一般的なネットゲーマーもゲームをやり始めたら数時間は座ったままが当たり前だと言う。ましてや休日ともなれば、1日の大半を椅子に座って過ごすゲーマーも多いそうだ。
そんなゲーマーたちのために開発されたのが、長時間座っていても体に負担やストレスをかけず、正確なコントローラー操作などができる椅子「ゲーミングチェア」だ。
一般的にゲーミングチェアは頭の先まで背もたれが伸びたハイバックシートを採用するので、オフィスチェアや勉強用の椅子とはまったく構造が異なるのだ。さらにゲーミングチェアは背部、座部、身体をしっかり固定するホールド性能を考慮した形状をしている。つまりこれって、クルマのスポーツシートと考え方が似ている。それを示すようにゲーミングチェアは、クルマのスポーツシートにデザインがそっくりだ。
オフィス家具メーカーが注目しているのに、クルマのシートメーカーが注目しないのは不自然ではないか。 そんな煽りを受けてか、クルマ用シートメーカー「BRIDE(ブリッド)」が、2020年4月に「マルチキャスター」を全面改良して「マルチキャスターPRO」を発売した。
「マルチキャスターPRO」はキャスターチェアのベースキットで、つまりブリッドのクルマ用シートをこれに装着することで、オフィスや自宅で使用することができるのだ。プレスリリースには「リビング、オフィス、Eスポーツなどで活用していただくためのアタッチメント製品です」と記載してあるように、やはりゲーミングチェアとしての使用も考慮されているようだ。
しかし、ブリッドの「マルチキャスター」は、ゲーミングチェアがメジャーになる前から、使わなくなったブリッド製シートの新たな活用方法として発売されていた。近年のゲーミングチェア人気の煽りを受けたか否かはわからないが、キャスターとシートをより簡単に装着できるように改善したのが「マルチキャスターPRO」だ。
「マルチキャスターPRO」は、ブリッドの現行モデルはもちろんのこと、一部を除き旧モデルにも適合できるように複数のキャスターが用意されている。さらにトヨタ86、スバルBRZとWRX(VA型)の純正シート用「マルチキャスターPRO」も新たにラインアップされた。これはブリッドのような市販のスポーツシートと純正シートを入れ替えた時に発生する「シートの置場問題」を解決してくれる最適な商品と言える。
さらにブリッドは2021年2月1日に、オールハンドメイドの木製ロッキングチェアベース「エンペラー(7万5900円/税込)」を発売した。これは静岡県にある注文家具メーカー「木工のデン」とブリッドが共同開発したものだ。手間と時間を惜しまずハンドメイドで製作される「エンペラー」は、毎月10脚のみの限定生産となっている。スポーツシートにロッキングチェア!? 何ともミスマッチな感じもするが、ゲーミングチェアよりもこちらの方に興味が湧くから不思議だ。
本来の使用目的とは異なる、クルマ用シートの第二の人生(?)を提案したブリッドは、トラックや船舶、スタジアムなどの公共施設にも新たな活動の幅を広げている。陸・海をゆくブリッドのシート、残すは「空」! 航空機か、はたまた宇宙か? 社員数15名の純国産シートメーカーの躍進に期待したい。