新型フェアレディZの国内仕様のお披露目がいよいよ年明けに迫ってきた。脱炭素化に向けて各メーカーが新たなモビリティ戦略を提示する中、果たして日産はこの50年を超える名門ブランドのスポーツカーをどう繋げていくのか? この点を日産の内田誠社長兼CEOに訊いた。かつて、Z32フェアレディZを愛車とし、2020年9月のZプロト公開でも自らZの魅力を語った内田氏が、発売前の新型Zに寄せて、今後の日産とZへの想いを語る。ひとりの経営者として、そしてCar Guyとして、すべてのZ&日産ファンヘのメッセージを全2回にわたってお届けしよう(インタビュアーはFANBOOK編集部 森田浩一郎/「フェアレディZ Story&History Volume.2」より)

電動化に脱炭素化・・・今後のZやGT-Rはどうなる?

──最後に今後のZについてです。先日(2021年1月27日)、2050年へ向けての指針ということで、内田さんは「2030年代にEV化を進めてカーボンニュートラルに向けて全社的に取り組む」というステートメントを出されました。そうした流れの中で、ZやGT-Rというクルマはどうあるべきなのか? ちゃんと残していく意志は日産としてあるのか? それをお伺いしたい。

内田氏:我々が言ったのは当然のことながら、この気候変動に対して、この社会に対して会社として果たす義務があると思うのです。そういう視点からも、2030年代の早期から電動化車両を提供できるようにすると。ただ、「全部を電動車両にする」とは言ってなくて、そこは当然のことながら、我々がそれを提供できるようにするのは企業としての義務であり、やっていかなきゃいけない。

ただ、そんな中でも日産が企業価値をどう提供するかというと、先ほどの話に戻る。併せて、こういったワクワクするクルマも、我々のDNAからすると持っていたい。ですから、その気持ちを持ちながら、やっぱりお客様が喜ぶものを出していけるかを今、一生懸命やっている。こういう言い方しかできないですね。

──それは例えば、この先、検討されているという軽自動車のEVや日常的に使えるコミューター的なクルマと、ZやGT-Rのような趣味性の高いスポーツカーとか、そういったものの二極でやっていくということですか?

内田氏:二極というか、例えば電動化というと、ウチはEVとe-POWERですよね。それに合わせて日産らしいクルマもやっぱりラインナップとしては持っていきたいと思います。その中でZやGT-Rというものもあればと。このポートフォリオを持ちながら、併せて気候変動に対してもきちんと企業として社会に対する貢献もバランスを持って図っていくということだと思います。

──この本(フェアレディZ Story&Histoiry Vol.2)の中で、Z33とZ34のCPS(商品企画のリーダー)をやられた湯川さんに寄稿していただいています。その中で、「Zは今後どうなっていくのでしょうか?」と聞いてみました。そうしたら「自動車メーカーとして残していくのは大変なんだろうけども、1000人のうち0.2%の人が買ってくれて成り立つような価値があるものを作っていけばいいんじゃないか」。だから「自分としてもコミューターとしてのEVが欲しいけれども、それだけじゃない」と。趣味の領域っていうのかな。そういう本当に欲しいお客様に対してメーカーが寄り添ったような、ある意味、言葉が悪いけど「媚びを売るようなクルマ作りっていうものが、今後、自動車メーカーが生き残る、ひとつの道なんじゃないか」みたいなことをおっしゃっていました。これはどう思われますか?

内田氏:そうですよね。このクルマだけで利益を出そうと事業を見ていくと、多分限界がくるでしょうね。ただ、そのクルマが会社の価値をどう生んでいるか計測できれば・・・。間違いなくZはブランドになっていますし、多くのファンの方がいらっしゃいます。こういう言い方をすると怒られちゃうのかもしれないけれど、Zは飾っていてもいい物になれるくらい美しいですよね。

──そうですね(笑)。

内田氏:だからそういう面では、カーボンニュートラルになる(笑)。「じゃあ、Zってイイんですか?」とか質問が出たりするかもしれないですけど、僕は「じゃあ、クルマってどういう価値になればいいのか?」というのは、今後もどんどん変わっていくと思うんですよ。クルマじゃなくても骨董品とか見ても、まさしくそうじゃないですか。

──腕時計もそうですね。いわゆる機能的なものが良かったはずで、正確な電波ソーラーが一番いいのに、なぜみんなブライトリングとこロレックスとか高級な時計を欲しがるのか。

内田氏:デイトナとかね。でもやっぱり、それを持ちたいとか、保有したいとか、自分の一部にしたいと思うのですよね。だから僕はそういうものもあっていいだろうなって。日産のZがそういうブランドになるかもしれないですし。なので、僕個人は本当にガレージに置いておきたい。だから見える窓を作った。それ見て、自己満足に浸る。

じゃあ、気候変動の視点からそれをガンガン乗っていいのかと、怒られちゃうかもしれないですが、それについては、僕は飾っていても嬉しいクルマにしたいのです。それはお客様にとってのバリューだし。何がバリューかって、人それぞれ違うし。そんな中で、Zにはこれだけのファンがいらっしゃる、これだけの歴史がある。それは絶やしたくないですね。

事業という側面では、チャレンジングなものになってくる。これは当然です。ただ、それがどういう価値に変われるか。価値を変えるということを、我々はこれからもチャレンジし続けなければいけないのかなと思いますね。Zというものに対してね。

──安心しました。

内田氏:でも、本当にそう思います。クルマの価値ってなんだろう。移動だけのためなのかと。いろんな価値が出てくると思うんですよ、これから。ましてやクルマ・・・例えば当社に入社される若い人の中にも、運転免許を持っていない人もいる。価値観は変わっていて。我々が昔、求めていたクルマへの価値も今は変わってきているし。これからのどんどん若い世代、Y世代とかZ世代の人は、環境に貢献していることが価値になるとかね。変化することは当然で、素晴らしいことだと思う。だからそうなると、クルマに求めるものがどんどん変わってくるのだろうなって。そして、いろんな求め方があっていいと思うにのです。その中にZっていうクルマに求められるものを、我々は継続していきたい・・・というのは思っています。(了)

After Note

2021年6月17日の本インタビューから約半年が経過した。その間、2021年度の上期決算や新長期計画の「Nissan Ambition 2030」が発表され、業績の回復(営業利益1391億円)と「今後5年間で約2兆円を投資し、電動化を加速/2030年度までに電気自動車15車種を含む23車種の新型電動車を投入、グローバルの電動車のモデルミックスを50%以上へ拡大/全固体電池を2028年度に市場投入」という意欲的な指針を発表した。

この半年の中で、脱炭素に向けた各社の取り組みの表明は、先のトヨタをはじめドラスティックに成されてきたが、会見の中で内田社長によって語られた「価値の創出と提供」という内容は、このインタビューの時、いや、それ以前からブレていない。ともすれば、「もはや内燃機関のクルマは害悪だ」という風潮が蔓延するのでは?という懸念もあるが、果たして日産は「新たな価値の創出と提供」を成し遂げることができるのか? まずは2022年春に登場する新型Zの反響を注視しつつ期待したい。(文:FANBOOK編集部 森田浩一郎/写真:井上雅行)

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