日本の公共交通インフラの「課題」を克服する新型EVバス
中国に本拠を持つ自動車メーカーBYDは、世界最大手の電気自動車メーカーでもある。実に50超の国と地域で約7万台の電気バスを納入するなど、世界中の公共交通の電動化推進に貢献していることは間違いない。
その日本法人であるBYDジャパンは、2015年に中国自動車メーカーとして初めて日本に電気バスを納入。計64台を納入して、国内電気バスのシェアは約7割(2022年5月10日)を占めている。
日本でも「環境負荷の少ない公共交通機関」へのシフトは確実に進んでいる。しかしEVバスに関しては導入価格に加え、航続距離、充電インフラや充電時間といった採算面、運用面での課題は多い。一方で、大量に乗客を運べる大型路線バスや鉄道に対して、地方の高齢化に対応した「地域交通の細分化」も必要とされている。
そうした問題に対してBYDジャパンは、日本では開発が進んでいなかった小型EVバスを日本市場向け仕様として開発し、購入しやすい価格帯を実現してきた。それによっていわゆる「狭隘路線」や地域のコミュニティバス、路線バスなどに利用されているという。
今回、発表された2車種の新型EVバスは、そうした事業者、自治体などからのニーズに応える交通インフラとして、さらなるEV普及を推進する目的で市場に投入されるものだ。
コストパフォーマンスに優れたリン酸鉄リチウムイオン電池は、形状もひと工夫
2020年から日本に導入された現行型に対して新型J6は、全長6990×全幅2080×全高3060mm、ホイールベース4760mmという「扱いやすいサイズ感」をキープしている。一方で搭載されるリチウムイオンバッテリーはおよそ20%容量を拡大、航続距離が1割増しの220kmを達成した。
ボディサイズは変わらないままバッテリー容量を拡大しているにも関わらず、J6は乗車定員が最大36人と、従来型比で5人増を実現している。空間性能を高める要素のひとつとして考えられるのが、「ブレードバッテリー」と名付けられた新設計のバッテリーパックの採用だろう。
その名のとおり「刀」のような薄く長い形状をとることでバッテリーの空間利用率が従来比で約50%高められており、エネルギー密度も向上させることに成功している。正極材にリン酸鉄を使って高い安定性やコスト削減を実現していることも、BYDの技術力を物語るポイントのひとつだ。
2021年から納入が始まった、より大型のK8もスリーサイズは10500×2500×3360mm、ホイールベース5500mmで従来型と変わらない。バッテリー容量はわずかに拡大され、航続距離も20km伸びて270kmとなっている。
乗車定員は81人と変わらないが、注目したいのは現行モデルと同様に非常時には外部給電を可能としていること。J6も同様にV2Lに対応しており、最大で6kWという高い出力での給電が可能だ。そうした点も含めてBYDのEVバスはどちらも、災害大国である日本の実情にしっかりマッチしているように思える。
J6、K8ともに納車開始は2023年末からがメド。BYDジャパンとしては、2030年までに累計4000台の電気バスを販売することを目指しているという。