2022年4月、ホンダは組織運営体制を大幅に変更、新組織「事業開発本部」を設立するとともに、草刈機、耕うん機、除雪機などの汎用機を手がける「ライフクリエーション事業本部」を、「二輪・パワープロダクツ事業本部」に強化した。その狙いはどこにあるのか。二輪・パワープロダクツ事業本部 パワープロダクツ事業統括部長の加藤稔氏に話をうかがった。(インタビュアーはMotor Magazine誌 千葉知充編集長/Motor Magazine 2022年8月号より)
画像: 加藤稔(Minoru Kato)本田技研工業株式会社 執行職 二輪・パワープロダクツ事業本部パワープロダクツ事業統括部長 1988年に本田技研工業株式会社へ入社。2020年に本田技研工業株式会社執行職、ライフクリエーション事業本部長に着任、2022年4月、組織運営体制変更に伴い、さらに重要な役割を担うことになった。

加藤稔(Minoru Kato)本田技研工業株式会社 執行職 二輪・パワープロダクツ事業本部パワープロダクツ事業統括部長
1988年に本田技研工業株式会社へ入社。2020年に本田技研工業株式会社執行職、ライフクリエーション事業本部長に着任、2022年4月、組織運営体制変更に伴い、さらに重要な役割を担うことになった。

パワープロダクトの枠を超えて横断的に製品を開発

── 二輪と四輪のメーカーとして知られるホンダですが、創業当初から汎用事業を手がけ、耕うん機、除雪機、芝刈機、草刈機、発電機、蓄電機など人々の日々の暮らしを支えるパワープロダクツを展開し、世界中から高い評価を受けています。そして2022年、そのパワープロダクツ事業と二輪事業が統合することになりましたが、そこにはどのような狙いがあるのですか。

加藤氏「現在、カーボンニュートラル、電動化に向けて、世界が大きな変革期を迎えています。その中で、エンジンを作り続けてきたホンダが独自の価値をどう提案していくのかというのが大きな課題となっています。そうした変革期の中、新時代への開発を新しい部門で集中的にやっていこうということで、新組織『事業開発本部』を設立しました。
ここでは、四輪、二輪、パワープロダクツの枠を超えて横断的に開発を行っていきます。たとえば、これまでライフクリエーション事業本部が担当していたモバイルパワーパックを使った事業やロボティクスなどの新規事業は事業開発本部に集約しました。その上で、二輪とパワープロダクツを統合して電動化に向けて協力しながら進んでいくことにしました」

── 二輪とパワープロダクツでは分野が異なるように思えますが。

加藤氏「いえ、そんなことはありません。二輪は50ccから1800ccのエンジン、パワープロダクツは25ccから800ccまでのエンジンというように、エンジンの排気量が近いですし、開発している製品に共通する部分もあるので、一緒にやれば、もっといいものがもっと効率よく作れるのではないかと考えました。
たとえばカーボンニュートラルという部分も、もっと燃焼効率を上げるなどまだエンジンでやれる部分もあるのですが、パワープロダクツの年間600万台の生産規模ではエンジンの新規開発はなかなかやりにくい。でも二輪部門の年間1800万台とあわせて共同で開発すれば、スケールメリットが生まれるので開発費をあてられるというわけです。
電動化についても、バッテリーの開発やモバイルパワーパックの活用といった部分でも共同で進めることができますし、パーツを共有化できればコスト面でも有利に働きます。お互いにアドバイスし合える関係になれると思ってます」

画像: コマツと共同で開発した「マイクロショベルPC01」。電動パワーユニット「eGX」とモバイルパワーパックを搭載する。(写真は試作車)

コマツと共同で開発した「マイクロショベルPC01」。電動パワーユニット「eGX」とモバイルパワーパックを搭載する。(写真は試作車)

── もともとホンダは無線機用エンジンを自転車の補助動力として使ったことからスタートしていますからね。パワープロダクツ事業と二輪事業は親和性が高いんですね。電動化においては、モバイルパワーパック搭載の二輪車はすでに登場していますし、パワープロダクツでもeGXの小型建設機器への搭載が始まっていますが、今後のロードマップはすでにでき上がっているのですか。

加藤氏「パワープロダクツ事業と二輪事業、それぞれで長期計画を描いていますが、それを無理矢理くっつけるのではなく、共有できる部分から進めていこうと模索している状況です。パワープロダクツではこれまでの建設機器の他、幅広い分野で社会に貢献できるのではないかと考えています」

既存汎用エンジンすべての代替電動ユニットを用意

── パワープロダクツの部門でのカーボンニュートラルは、どのくらい進んでいるのですか。

加藤氏「カーボンニュートラルに向けて、具体的にどの市場のどの製品から進めて行こうといった計画はすでにでき上がっています。ただ価格やコスト面などは、まだ調整は必要です。もっと具体的にいうと、バッテリーですね。
パワープロダクツの場合、製品がコンパクトなので大きなバッテリーを搭載できません。それでは長時間連続して作業に使えませんので、それをどうするかです。バッテリーをいくつも購入していただくのは現実的ではないので、シェアリングサービスも重要となってきます」

── カーボンニュートラルは遠い将来の話ではなく、北米ではカリフォルニア州ではもうすぐ規制が入ってきます。

加藤氏「北米市場の主力商品である歩行型芝刈機の電動化を急いでいます。日本ではすでに発表されていますが、汎用性の高い充電式のリチウムイオンバッテリーを搭載した商品の投入を検討しています」

画像: 2kWクラスの汎用エンジン「GX」と互換性を持つ電動パワーユニット「eGX」。バッテリーユニット一体型と別体型がある。

2kWクラスの汎用エンジン「GX」と互換性を持つ電動パワーユニット「eGX」。バッテリーユニット一体型と別体型がある。

── 汎用エンジンの生産台数は600万台ということですが、その中の400万台をOEMでさまざまなメーカーに供給しています。この汎用エンジンの電動化はいかがですか。

加藤氏「グローバルで約1100社にエンジンをOEM供給していますが、各社と電動化の話を進めています。2kWクラスについては、従来のGXエンジンを搭載している機器にそのまま使える電動ユニットeGXの量産をすでに開始しています。
その上の出力帯の電動ユニットについては、現在コマツさんと共同で開発を進めています。問題はその上ですが、サイズをどうするか、モバイルパワーパックでいくか、固定型バッテリーでいくかも含めて検討中です」

── 最後に今後の計画について教えてください。

加藤氏「現在、25ccから800ccまでの汎用エンジンを生産していますが、その代替としてそのまま使える電動ユニットをすべて用意しようと考えています。その中で、エンジンからバッテリーの単純な置き換えではない、多面的、多元的なアプローチも行われることになるでしょう。それと並行して、既存エンジンの改良も重要な項目で、カーボンニュートラル実現に向けて、あらゆるチャレンジを行っていきます」

── 電動船外機の製品化もそろそろですね。楽しみにしています。(聞き手:Motor Magazine編集部 千葉知充/まとめ:松本雅弘/写真:井上雅行)

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