疑問を解く鍵を追って、IAAからアウディフォーラムへ
2019年9月11日、フランクフルトモーターショーのプレスデイ初日にアウディブースを訪れた。フォルクスワーゲングループが集まるIAA(ドイツ国際モーターショー:通称「フランクフルトショー」)の3号館でも、最大級の広大なブースの一角には、最新のRSとS系モデル数台が集められていた。
主役級は、今回が公式のお披露目となるRS7とRS6アバント。だが、このラインナップを見て、とても素朴な疑問を覚えた人がいたらしい。なぜRS6は、セダンのA6ではなく、ツーリングワゴンボディのアバントがベースになっているのだろうか。
その答えはと言えば、それほど意外なものではない。1994年に初めて「RS」の名を冠して生み出されたモデルが、「アバント」だったから、にほかならない。1983年にドイツのネッカーズルムからスタートしたアウディスポーツ社(Audi sport GmbH)の前身であるクワトロ社(quattro GmbH)にとって、大きな転機となった記念すべきモデルである。
そして25周年の節目を迎えた今年、同じフランクフルトモーターショーに、初代「アバントRS2」の血統を受け継ぐモデルとして出品されたのが、RS6アバントなのだ。
けれどここで、もうひとつ疑問が生まれる。なぜ初代RSは、ワゴンボディのアバントをベースに開発されたのだろう……。調べてみれば「説」としてはいろいろあるようだけれど、決定打はなかなか見つからず。
しかたない、ここはひとつ実車を見に行ってみよう! というワケでドイツ取材のタイミングを生かして急遽、ネッカーズルムのアウディフォーラムを訪れることにした。そこで開催されている「RS25周年記念展示会」に、RS2が展示されていることを聞き及んだからだ。
最高出力315ps×クワトロテクノロジーで武装
基本的なところをおさらいすれば、RS2のベースとなったのは、現代のA4のご先祖様に当たるアウディ80だった。1992年に販売が開始された4世代目の「B4」型の5ドアワゴンボディ「アバント」がそれだ。
当時、搭載されていたエンジンの中でもっともハイスペックだったのは170psの2.8L V6ユニット。RS2は2.2L直5を搭載するが、そのオリジナルの最高出力は130psにすぎない。
しかしそんな高性能イメージとは無縁な実用性重視のワゴンが、大変身を遂げる。DOHC20バルブにターボを装備した直5ユニットはツルしのスペックの2.5倍近い315psを発揮、最大トルク41.8Nmをクワトロシステムで路面に叩きつけ、1600kgほどのボディを豪快に走らせた。
0→100km/h加速は5.4秒、最高速度は260km/hを超えていたというから、それはもはや80アバントからは想像もできないモンスター級に育ってしまったワケだ。ちなみにその「育成」をアウディと共同で手がけたのは、ポルシェAGで、生産も同社のツッフェンハウゼン工場で行われたという。
そこかしこに配された「PORSCHE」のロゴが醸し出す「ただ者ではない」感
そのコラボレーションの関係性がどれほど濃厚なものだったのかは、なるほど、実車を見ればよくわかる。フロントグリルとリアハッチには、約5cmほどの正方形のバッヂが貼られているが、そこにはRS2の車名とともに、アウディの紋章であるフォーリングスとPORSCHEのロゴがしっかりコラボレーションされていた。
赤いブレーキローターにもやっぱりPORSCHE 。ホイールも実はPORSCHE。どちらも市販モデルのポルシェ純正アイテムが使われていた。
窓越しに(残念ながらドアは開けてもらえなかった)室内を覗き込んでみると、白い盤面のメーターや、三連の補助メーターが、さりげなく「特別感」をアピールしている。トランスミッションは6速マニュアルトランスミッション。運転してみたい欲求に激しく駆られたけれど、それはまた別の機会にとっておくことにしよう。
展示車たちを眺めていると、ふと、前日にインタビューの機会をもらったユリウス・シーバッハ氏(Audi Sport GmbHマネージングディレクター兼アウディ モータースポーツ部門責任)の言葉を思い出した。
アウディスポーツ社の新たなリーダーのひとりであるシーバッハ氏(編集部註:シーバッハ氏は当時、就任直後だった)いわく、RSシリーズの本質は「走りの過激化一辺倒ではなく、日常的に楽しめるスポーティな感性を極める」ことにあるという。扱いやすさと速さの協調という根底にあるテーマはまさに、ワゴンボディをベースに作り出すにはぴったりだろう。
それは同時に、意外性という魅力を付け加えることにもつながる。ライバルと目されるBMWのMやメルセデスベンツのAMGなどと比べてもRSにどこかエンスージアスティックなカラーが強く感じられるのは、アバントRS2から連綿と続く、確信犯的な差別化の手法のひとつと言えるのかもしれない。(写真:永元秀和)