「技術で日々の暮らしを支えたい」という、ホンダ創業の原点ともいえる志から始まった「パワープロダクツ」事業。前回はロボット芝刈機「Miimo(ミーモ)」が活躍する現場を紹介したが、今回はいま人気の蓄電機「リベイドE500」がどのようなことが契機に誕生したのか。キーパーソンとなる3人のエンジニア&デザイナーに話をうかがった。(インタビュアーはMotor Magazine誌 千葉知充編集長/Motor Magazine 2023年1月号より)

小さな発電機や蓄電機が役に立つのではないか

──ポータブル蓄電機「リベイドE500」が人気になっています。今回は、E500について話をうかがいたいと思います。まず、それぞれE500に関して、どのようなことを担当したのか教えていただけますか。

東氏 当時、社内プロジェクトで年に1回、アドバンスドデザインスタディという次代のアイデアを会社に提案するイベントがあり、2011年のこのイベントにE500のコンセプトをデザイナーとして提案しました。東日本大震災の時のニュースで自衛隊の大きな発電機でみなさんが携帯電話を充電しているのを見て、小さな発電機や蓄電機があれば役に立つのではと考えたのがきっかけです。それからE500の開発に携わることになりました。

小野寺氏 東さんが提案したデザインスタディから先行開発が始まるのですが、私はそこから開発に加わりました。当時は小さな発電機や蓄電機はほとんど市場になくて、あっても高価で特殊なものでした。みんなが使う小さな蓄電機の実現のために試行錯誤し、現在の形になっていったのです。

中田氏 私は先行開発から量産開発に入った段階で、量産フローのとりまとめ、開発責任者として加わりました。電装部門の出身ですが、電装系の新製品ということで責任者をまかされました。

画像: 開発やデザインなどに携わった3人、左から東 功一 氏(E500コンセプトモデル デザイナー)、中田泰弘 氏(E500 LPL)、小野寺泰洋 氏(E500 DPL)。

開発やデザインなどに携わった3人、左から東 功一 氏(E500コンセプトモデル デザイナー)、中田泰弘 氏(E500 LPL)、小野寺泰洋 氏(E500 DPL)。

──ホンダは早くから発電機を開発していますが、蓄電機には着手してきませんでした。

中田氏 ホンダは技術で人々の役に立ちたいという思いから汎用事業に取り組み、1965年にエンジンを使った発電機E300を販売していますが、2000年以前にはまだ蓄電機のニーズはなく「発電機があればいいのでは」、「誰がなんのために使うのか」といった雰囲気がありました。

蓄電機「LiB-AID(リベイド)E500」の特徴

1、一般家庭で使用されている電気と同等の安定した高品質な電気を供給
交流(AC)100Vの安定した出力電圧で、電気の質の影響を受けやすい製品を安心して使うことができる。
2、排気ガスや騒音を発生することなく電気を供給
静かで空気を汚すことがないので、夜間や室内など、発電機が使用しくい場所でも使える。
3、最大出力500W、コンパクトなサイズだが、プロも納得の高性能
発電機やもう1台の蓄電機との並列運転ができるので、大きな出力にも対応可能な順応性もある。

画像: 8万8000円(税込)という手の届く価格も魅力だが、その性能はプロも作業電源として使う本格的なものでもある。※プロ仕様の「LiB-AID E500 for work」は14万800円(税込)。

8万8000円(税込)という手の届く価格も魅力だが、その性能はプロも作業電源として使う本格的なものでもある。※プロ仕様の「LiB-AID E500 for work」は14万800円(税込)。

ありそうでなかった、コンパクトハンディ蓄電機

──E500のサイズや仕様はどのように決めていったのですか。

東氏 まず、デザインやカラーリング、サイズ感は、暮らしの中で自由に快適に使えることを目指して、家の中に置いても違和感のない親しみやすいものとしました。

中田氏 詳細なサイズや仕様は、2015年東京モーターショーの来場者の反応やアンケートなどもふまえ、女性でも無理なく持ち運べる重さであること、手の届く価格とすることなどから、サイズや仕様を決めて行きました。最大出力500W、容量377Wh、重量は5.3kgです。カラーは現在2色ですが、当初は10色、発売時は3色を揃えていました。

──ユーザーニーズに応じた派生モデルとして「for music」「for work」といったモデルも登場しています。

小野寺氏 私は、その開発も担当しました。発売当初からある程度、どのような使われ方をするかは想定していましたが、決めつけることはしたくありませんでした。楽しく自由に使ってもらいたかったのです。そこで発売後に1年半かけて市場調査したのですが、オーディオ愛好家から熱い支持を受けていること、プロの作業関係者の方が多く購入されていることがわかり、そういったニーズに合わせた特別な仕様を用意しました。「for music」は限定200台としたこともあり販売終了となっていますが、「for work」は現在も販売しています。

画像: ホンダ独自の正弦波インバーター技術による高品質な電気の供給が可能な最大出力500W(VA)のハンディータイプ蓄電機。

ホンダ独自の正弦波インバーター技術による高品質な電気の供給が可能な最大出力500W(VA)のハンディータイプ蓄電機。

──今後さらに多くのライバルが登場してくると思いますが、E500の特徴、ホンダらしさはどういうところにあるのでしょうか。

中田氏 ホンダは2000年初頭から発電機にインバーターを採用していますが、これを蓄電機E500にも採用しています。インバーターを使うことによって正弦波のきれいな電気を供給できるのが特徴です。たとえば、家庭用の電源は基本的にきれいなのですが、近隣や家庭内で電気機器を使用すると電圧が微妙に変化して波形が乱れてノイズが出ます。しかし、E500に一度蓄えてから電気を出力するとインバーターにより綺麗な電気として取り出せることができるのが特徴です。

小野寺氏 蓄電機は静かで室内でも使えます。そのため、場所や時間を選ぶことなく電気を供給できるのが利点なのですが、インバーターを使用しているため冷却用ファンを取り付ける必要があり、わずかにその音が発生します。その音を極力小さくすることに苦労しました。一定の温度まで上昇したら、底面から空気を取り入れて、内部中央のファンを回して、上方から排気することで極限まで無音に近づけています。また、カジュアルなデザインとなっていますが、より良いものを求めて開発した結果、見かけによらず、とても頑丈なものになりました。これもホンダらしいところだと思います。

中田氏 ホンダらしさは耐久性といった作りを含めた品質でしょうか。先行で販売を開始した商品ではありますが、過負荷時にも粘るといった基本性能には自信があります。

画像: E500は冷却用ファンを搭載するが、その静音性は高い。

E500は冷却用ファンを搭載するが、その静音性は高い。

──今後、新機種投入の計画とかありますか。

中田氏 出力や容量を大きくして欲しいという声もありますが、それによって価格が上がってしまってはお客さまに理解していただけません。ただ単に容量を大きくするのでなく、このサイズ感で性能アップを図っていくことになるでしょう。

──ありがとうございました。
(聞き手:Motor Magazine編集部 千葉知充/まとめ:松本雅弘/写真:井上雅行)

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