今季のスーパーGTはまさに「走る実験室」としての本領を発揮。環境に配慮したカーボンニュートラルフューエルのGT300クラスへの導入が、これからの見どころのひとつとなっている。一見、矛盾しているようにも思える「環境に優しいモータースポーツ」が秘めているのは、僕たちが愛してやまない内燃機関の未来。技術面で大会を強力にサポートするBoschのエンジニアにも話を伺いながら、現状と課題について考えてみた。

V12にも対応できる「処理能力」を持った高性能ECU

それでは具体的に、どのような「共通化=土台作り」が行われているのだろうか。富士スピードウェイで開催され2023 AUTOBACS SUPER GTシリーズ第2戦「FUJI GT 450kmレース」で技術的なサポートを担っていた、ボッシュ エンジニアリング株式会社のモータースポーツ部 アジア シニアマネージャー、河内洋文氏に現地で話を伺うことができた。

画像: ボッシュ エンジニアリング株式会社 モータースポーツ部 アジア シニアマネージャー 河内洋文氏。日本のみだけでなく中国以外のアジア圏も担当しているとのこと。お話を伺っているだけでも、なんだかとっても忙しそう・・・。

ボッシュ エンジニアリング株式会社 モータースポーツ部 アジア シニアマネージャー 河内洋文氏。日本のみだけでなく中国以外のアジア圏も担当しているとのこと。お話を伺っているだけでも、なんだかとっても忙しそう・・・。

河内氏によれば、部品共通化の作業に求められる大きな役割と言えるのが、精度の高いソフトウェアの提供だという。

たとえば「エンジンコントロールユニット(ECU)」は、「決められた量の燃料を決められたタイミングで供給(噴射)、点火する」ことが必要。「部品の共通化」ではその制御の高度な正確性が求められる。そのためにクランク角/カムポジションなどの精密な計測は不可欠だ。エンジン回転数を含むコンディションを確実に把握し、適切なポイントでインジェクターを動かして燃料を噴射、点火させる。

各パーツの機構が正しく動作することはもちろんだが、精密なセンシングと適切なフィードバックといったソフト面での精度が高くなければ、各メーカー、チームのエンジニアは正しいキャリブレーション(適合作業)を進めることができない。最適値を引き出すためには、信頼できるソフトウェアは不可欠・・・というより、それが「できて当然」になっていなくてはならない。

ボッシュが供給するECUは、レースという特別なシーンでそんな「できて当然」を守るための重要な土台となっているわけだ。

GT500マシンではそれぞれのメーカーが開発した2L 直列4気筒ターボエンジンを制御しているが、レースシーンでは非常な高回転までスムーズに滞りなく回ることが求められる。その時、計測・処理されるデータ量は半端な容量ではない。だからこそ供給されるBosch製ECU「MS7.4」には、量産車レベルであればV12ユニットにまで対応できるポテンシャルが与えられているという。

同時に、コストバランスにも配慮した性能設計が求められるなど、部品の共通化がクリアすべき課題は多岐にわたる。そこに長年に渡って培われてきたBoschならではの技術やノウハウが、蓄積されていることは、言うまでもないだろう。

Bosch エンジンコントロールユニット「MS 7.4」の 主な特徴

画像: ・最大12気筒までのガソリンエンジンの制御 ・高圧燃料噴射とパワーステージの統合制御、マルチ噴射 (複数回噴射) ・統合式の点火制御とパワーステージ ・低圧燃料噴射エンジンは最大12気筒まで ・シリンダ圧力計測機能 ・データロガー機能 ・柔軟性を実現することにより最大限のパフォーマンスを提供する強力なプロセッサコアとハイエンドFPGA ・特殊な構成を持つエンジンやシャシーのサポートも可能


・最大12気筒までのガソリンエンジンの制御
・高圧燃料噴射とパワーステージの統合制御、マルチ噴射 (複数回噴射)
・統合式の点火制御とパワーステージ
・低圧燃料噴射エンジンは最大12気筒まで
・シリンダ圧力計測機能
・データロガー機能
・柔軟性を実現することにより最大限のパフォーマンスを提供する強力なプロセッサコアとハイエンドFPGA
・特殊な構成を持つエンジンやシャシーのサポートも可能

GT300クラスにも実戦投入。CNFの本気がいよいよ試される・・・はずだった

それでは、2023年から始まったCNFの導入に伴って、ボッシュ エンジニアリングは具体的にどのような対応を行っているのだろう。河内氏によれば、そこに「特別なこと」はとくにない、という。なぜならそもそもハルターマン・カーレス社が提供するGTA R100は、性状としてもオクタン価も、燃料として求められる規格をすべて満たしていたからだ。

画像: 第2戦FUJI450kmレースにはドイツ本国のBoschからも、エンジニアたちが視察に訪れていた。アジア/パシフィックエリアにおいては、日本のモータリゼーションの成熟度に対してサプライヤービジネス的にも、注目度が高いのだという。

第2戦FUJI450kmレースにはドイツ本国のBoschからも、エンジニアたちが視察に訪れていた。アジア/パシフィックエリアにおいては、日本のモータリゼーションの成熟度に対してサプライヤービジネス的にも、注目度が高いのだという。

その上で、GT500の各チームはそれぞれに独自のキャリブレーションを施したうえで、実戦に臨み、勝利を目指す。なるほどそれは、「今までの」取り組みと大きな違いはない。

そうなると対照的に、GT300クラスの対応が遅れているのは部品が共通化されていないため、とも言えるような気がしてくる。多彩な車種、エンジン形式の市販車をベースに、GTA-GT3やGTA-GT300、GTA-GT300MCといった微妙に異なるレギュレーションに則った競技車両が揃うややこしいカテゴリーだけに、BoP(性能調整)を含むさまざまな個別対応が必要とされるからだ。

GTアソシエーションからは4月3日に、三重県鈴鹿サーキットで開催される第3戦からの導入がアナウンスされた。富士戦直後の5月8日からは同サーキットで、専有テストが行われている。より市販モデルに近しいツーリングカーたちの挑戦には注目していたのだが・・・5月19日、鈴鹿戦での採用延期が正式にリリースされてしまった。

ちなみにGT3マシンが再生可能燃料で活躍した例のひとつに、北米で開催されたパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムースに出場したベントレー コンチネンタル GT3が挙げられる。4L V8ガソリンターボを搭載したマシンにバイオ燃料を採用、圧倒的な標高差というタフなシチュエーションで見事に優勝を飾っている(2021年)。

南米チリにおいて合成燃料を製造する「ハルオニ プロジェクト」に参画しているポルシェも、2021年には2022年シーズンから「911 GT3」のワンメイクシリーズ「Porsche Mobil 1 Supercup」でのe-フューエル採用を明言した。

GT500で毎戦展開される、見ごたえたっぷりのバトルを見ていても、CNFに「大いなる可能性がある」ことはもはや実証されている、と言っていい。だからこそ、内燃機関の明るい未来を願うイチ自動車好きとしては、GT300クラスへのCNFの導入に思い切り期待している。

そのためにはGT300クラスに対しても、各自動車メーカーのより強力な協力体制が必要になるだろう。ベントレーやポルシェなどに続いて、「本気」で対応することが求められている。願わくばなるはや、で。(写真:井上雅行、GTアソシエイション、Bosch)

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