現在、日産グローバル本社ギャラリーでは、プリンス自動車工業による1963年のコンセプトカー「プリンス1900スプリント」の再製作車両を展示中。「幻の」と形容されるこのクルマは、オリジナルが現存せず、個人オーナーの情熱により復刻された。その貴重な姿を見られるのは、この機会を逃すとそうはない。展示は10月30日まで。
世界に一台。個人オーナーの情熱で再現されたフルレプリカ
その艶やかな真紅のボディは、瀟洒な曲線を描きながら、ヘリテージコーナーの一角にまるで新車のように佇んでいた---。
それもそのはず、この「プリンス1900スプリント」はオリジナルが現存せず、僅かな資料と写真を元に、関西在住の個人オーナー・田中裕司氏の情熱によって、日産自動車や関係各社の協力を得て2020年から3年をかけて再現されたフルレプリカだ。
そもそも、このプリンス1900スプリントは、1966年8月にプリンス自動車が日産自動車に吸収合併される前、1963(昭和38)年の第10回 東京モーターショーに出展車として製作されたコンセプトカー。その流麗なスタイリングは、当時のイタリアンデザインのテイストを全身に纏ったもので、イタリアの著名なデザイナー、フランコ・スカリオーネ氏とプリンスの意匠設計課の井上猛氏の協業によるものだ。
発端は「国民車構想」。紆余曲折を経た「幻」のショーカー
このクルマの誕生には少し経緯がある。
1960年代初頭、プリンスは政府の「国民車構想」に基づいて4人乗りのリアエンジン車のCPSK(コードネーム)を開発していた。CPSKはセダンであったが、そのスポーツカーデザインを試作していたのが、イタリア人で航空力学を学びカロッツェリアとして活躍していたスカリオーネ氏だった。そしてその時、プリンスから派遣されていたのが井上氏というわけだ。
だが、このCPSKはその仕様要件の高さから見送りとなり、CPRBもお蔵入りとなってしまう。しかしその後、井上氏を中心に、スカリオーネ氏原案のスタイリングを外寸もレイアウトも全く異なる2代目スカイラインのスカイライン1500(S50)をベースとした車両にモディファイされる。
エンジンは1962年4月に登場したプリンス・スカイラインスポーツ(BLRA)のGB4型の流れを汲むG2型1.9リッター4気筒OHVエンジンを搭載。「スカイライン」の名は冠せられなかったが、紆余曲折を経て「プリンス1900スプリント」の名で1963年の東京モーターショーへの出展にこぎ着けることとなった。
だが結局、プリンス1900スプリントはショーでは人気を博したものの市販化には至らず、その後、プリンスの吸収合併と車両保管の問題から廃棄となってしまう—。