アメリカ・カリフォルニアで行われた「モントレー・カーウィーク2024」で、タイプ993をベースとして製作されたポルシェ911スピードスターのワンオフモデルが公開されて注目を集めている。世界的建築家として、またポルシェの愛好家として知られるルカ・トラッツィ氏がポルシェのカスタマイズプログラム「ソンダーバーシュ」にオーダーしたことで誕生した。

カタログモデルとして販売されなかったタイプ993のスピードスター

1954年に製作された「356 1500 スピードスター」は太陽が降り注ぐアメリカ西海岸で大ヒット。また続いて登場した「356 A 1500 GSカレラGTスピーッドスター」はポルシェの市販車で初めて最高速が200km/hに達したモデルとなった。

以来、優れたパフォーマンスとオープントップのドライビングプレジャー、低く抑えられたウインドスクリーンと専用のリアカウルを持つスピードスターは、ポルシェの歴史の一部となってきた。

しかし、スピードスターは特別なモデルであり、1988年に911のGモデル世代のハイライトとして導入された後、タイプ964ではわずか930台の911カレラスピードスターが生産されただけだった。

さらにタイプ993では、2台の公式ワンオフモデルが存在するものの、カタログモデルとして販売されることはなかった。2台の公式ワンオフモデルのうちの1台はフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェ自身のため、もう1台は米国の俳優ジェリー・サインフェルドのために製作されたものだった。

画像: ソンダーバーシュでワンオフとして製造されたタイプ993のポルシェ 911 スピードスター。3年以上の歳月をかけて製作された。

ソンダーバーシュでワンオフとして製造されたタイプ993のポルシェ 911 スピードスター。3年以上の歳月をかけて製作された。

ポルシェ公認のカスタマイズプログラム「ソンダーバーシュ」で製作

そのため、トラッツィ氏が所有するスピードスターコレクションには、タイプ993の911 スピードスターが欠けていた。しかし、公式モデルは2台しか存在しないので、いかにトラッツィ氏であっても手に入らない。「それで、自分で作ることにしたんです」とトラッツィ氏は明かす。

トラッツィ氏が製作を依頼したのはポルシェのカスタマイズプログラム「ソンダーバーシュ」。ポルシェのスペシャリストたちとともに、夢のクルマを完成させたというわけだ。

ポルシェの「ソンダーバーシュ」は顧客とポルシェの専門チームが共同で個性的なワンオフカーを作り上げるというカスタマイズプログラム。顧客はポルシェセンターにアイデアや希望を伝え、ポルシェの専門家が実現可能であると判断するとプロジェクトミーティングを開始。各分野のデザイナーや専門家と協力して仕様を作成し、ポルシェの設計、エンジニアリング、開発の各部門が生産施設のメカニック、ボディビルダー、塗装の専門家と緊密に連携しながら、必要に応じてヴァイザッハの開発センターや会社の他の部門の専門家を呼び寄せ、エンジンテストや空力テストも行われる。こうして夢のクルマは、顧客の継続的な関与により、手作業の職人技によって作られていく。

トラッツィ氏は自分の911スピードスターをどのように作りたいかについての明確なアイデアを持ち、また911スピードスターの歴史の意味をよく理解しており、エンジニアチームと綿密に協議を重ねて行った。実際製作期間中、トラッツィは何度もポルシェ本社を訪れ、このプロジェクト進行のために特別なワークスIDが発行されることになったという。

とくにトラッツィ氏がこだわった特徴的な形状のリアリッドは、トラッツィ氏自身がデザインを手掛けたもので、設計、構想、製造の各段階で多くの作業が必要だったという。

画像: 低く抑えられたウインドスクリーンと専用のリアカウル、あえて装備を省いて軽量に仕上げられるのがスピードスターの特徴。

低く抑えられたウインドスクリーンと専用のリアカウル、あえて装備を省いて軽量に仕上げられるのがスピードスターの特徴。

細部に至るまで手作業で入念に作り込まれた内外装

今回製作されたワンオフモデルのベースとなったのは1994年製「911 カレラ カブリオレ(タイプ993)」。ボディカラーに選ばれた美しいイエローは、このモデルのために特別に調合された。トラッツィ氏は完成したボディカラーに満足し、彼の愛犬の名前からこの色を「オットー・イエロー(Otto Yellow)」と命名している。

トラッツィ氏がこだわたリアリッドとウィンドスクリーンにはスピードスターの典型的なデザイン要素が盛り込まれ、さらに印象的な特徴としては、1960年代のクラシカルなフォルムを踏襲したブラックの円錐形バックミラーが採用されている。

ターボデザインの18インチ軽量ホイールは黒にペイントされ、後輪の前には歴代スピードスターに見られる黒い石片保護シートが装着された。これらは黒いドアハンドルやフロントスポイラー、エアインテークと美しく調和する。

インテリアはブラックレザーにイエローのステッチが施され、ヘッドレストには「Speedster」のロゴが刺繍されている。インテリアのハイライトは黄色と黒のチェック柄があしらわれたシートセンターで、このチェック柄はすべて手作業で仕立てられている。また同じ柄がレザーで装飾されたフロントラゲッジコンパートメント、ツーリングバッグにも施されている。

ダッシュボード、センターコンソール、ハンドブレーキ、セレクターレバーにはカーボンファイバーエレメントが使用され、シートの背面もカーボンファイバー製となる。同じくカーボンファイバー製のドアシルトリムには「オットー イエロー」のアンビエントライトが組み込まれる。

インパネにはナビゲーションとApple CarPlayを備えた最先端のインフォテインメントシステム「ポルシェ クラシック コミュニケーション マネージメント (PCCM)」 を搭載。そのスタート画面は顧客向けにカスタマイズされている。

細部へのこだわりでは、パワーウインドウのスイッチはスピードスターのサイドセクションをイメージしたデザインに変更され、ダッシュボードにはゴールドの「One-off」バッジが装着されている。

エンジン、シャシ、ステアリング、ブレーキシステムなどメカニズムは1994年型の911 カレラ RS(タイプ 993)のもので、空冷式6気筒ボクサーは、排気量3.8Lで300psを発生。当時ポルシェの最もパワフルなエンジンだった。

「私の夢は、タイプ993の911 スピードスターでコレクションを完成させることでした。このプロジェクトではこれまでのすべてのスピードスターモデルの要素を忠実に盛り込みたいと考えました」とトラッツィ氏はコメント。30年の時を超えて、3台目のタイプ993の911スピードスターが誕生した。

画像: 建築家として活躍するルカ・トラッツィ氏と愛犬のオットー。少年の日に出会った356 スピードスターに魅せられ、現在では世界有数のスピードスター・コレクターとして知られる。

建築家として活躍するルカ・トラッツィ氏と愛犬のオットー。少年の日に出会った356 スピードスターに魅せられ、現在では世界有数のスピードスター・コレクターとして知られる。

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