ヨーロッパ車の雰囲気を持たせたFFカー
ライトウエイトスポーツとして高い評価を得る
昭和45(1970)年に登場した日産チェリーは、FFスポーティカーとして人気を博したが、昭和53(1978)年には車名をパルサーに変えてフルモデルチェンジする。
キャッチフレーズは「パルサー・ヨーロッパ」。これは「ヨーロッパの先駆車を凌駕する高い完成度を持つ日産の自信作」という強い意気込みを表現したものだ。
スタイリングも欧州車のイメージがあった。バックウインドウの傾斜を強くして軽快感を高めた4ドアセダンだが、軽量化と高剛性の確保のためハッチバック2ボックススタイルを基本とした。重心の低い台形のフォルムと、シャープなウエッジラインを採用して、若々しくダイナミックなイメージを追求したものとなっている。
バンパーレベルから開くリッドやトランクルームランプ(1.4L車)など、3BOXセダンと変わらない使い勝手の良さを謳っている。
FFということからエンジンは横置きとなる。これを生かして限られた車体寸法の中でコンパクトにまとめ、室内長の確保に努めているのも特徴だ。室内幅は当時の同クラス車としては最大とし、上級車に匹敵する居住空間を確保していた。
2ボックススタイルを採用したことで、後席のヘッドルームを広くとるとともに、後席にタイヤハウスが突出しないように配慮するなどのスペースを確保している。もちろんFFであるために、フロア中央部のトンネルを小さくできたことから、前後席とも足元にゆったりしたスペースを生むことができている。
エンジンは直4OHVの傑作と言われたA型で、1.2Lと1.4Lが設定され、上級の1400TS及びTS-Gには総排気量1397ccに9.0の圧縮比と2バレルキャブレター単装で80psを発生するA14S型が搭載されている。
TS(ツーリングスポーツ)とはいえ、従来のスポーティグレードでは常套手段だったSUツインキャブ仕様などスポーツエンジンの設定がなかったのは、日産の排出ガス対策であるNAPSで昭和53年排出ガス規制に対応したためだ。
同レベルの出力で他車と走りの差別化を図るにはボディを軽量化してエンジンの負担を減らすしかない。そこでパルサーは最も重い1400TS-GでもMT車の車重を840kgに抑え、パワーウエイトレシオは
10.5kg/psを達成している。
トランスミッションはコントロールロッド式4速MTが基本で、1.4L系には無段変速ATの日産スポーツマチックも用意された。さらに1400TS-Gに5速が直結(1.000)の専用クロスレシオ5速MTを設定したのは出色だった。
サスペンションはチェリーから継承した前:ストラット/後:トレーリングアームの4輪独立式だが、フロントサスに直進性を高めるネガティブスクラブ(タイヤの接地中心が仮想キングピン中心との交点より内側にくる設定)を採用したり、ジオメトリーの最適化やバネ下重量の軽減などを図っている。
ステアリングギヤボックスはラック・アンド・ピニオン式としてシャープさを増した。幅広いトレッドとロングホイールベースの採用もあり、すぐれた走行性、操縦性としなやかな乗り心地を実現している。
フロントに採用されたディスクブレーキは、6インチの大型マスターバックで踏力をサポート。リアはオートアジャスター機構付きのドラムブレーキとなっている。安全性を確保するためにタンデムブレーキマスターシリンダーを採用するとともに、ブレーキ油圧配管を二系統のX型とし、万が一片方のブレーキパイプに油圧抜けが生じても安定した制動が得られるようになっていた。
イメージとしてはライトウエイトスポーティカーではあったが、排出ガス規制によってやむを得なかったとはいえ、控えめなパワーもあり実際のところ速いクルマではなかった。ただFFの特性を生かした軽快な走りは速さを度外視しても魅力となっていた。
いずれにしても排出ガス規制対応で元気をなくしたパルサーが本来の走りを取り戻したのは、セダン発表から4カ月後の9月。3ドアハッチバックとクーペが追加され、EGIで92psまでパワーアップしたA14E型エンジンを搭載した「XE」の新設定からになる。
日産パルサー1400TS-G(HN10型)諸元
●全長×全幅×全高:3490×1620×1360mm
●ホイールベース:2395mm
●車両重量:840kg
●エンジン型式・種類:A14S・直4OHV
●排気量:1397cc
●最高出力:80ps/6000rpm
●最大トルク:11.5kgm/3600rpm
●トランスミッション:5速MT
●タイヤサイズ:155SR13
●新車価格:101万3000円