“今日と同じ日は二度とない”という人生の寂しさと喜び

Ⓒ2025映画「TOKYOタクシー」製作委員会
ある種、ロードムービーでもある本作では、東京都内や神奈川県の観光地や名所がいくつも映し出されていく。『男はつらいよ』の聖地である葛飾柴又 帝釈天から始まり、浅草、言問橋、東京駅、東京タワー、横浜ベイブリッジなど、外国人観光客が見ても、そこが有名な場所だとひと目で分かるだろう。そうした名所や旧跡を巡るのは、タクシーでのロードムービーであるとともに、日本の歴史やそこで暮らす人々の姿を重ね合わせ、想起させることに一役を買う。
第二次世界大戦が終わる5年前、昭和15年生まれのすみれ。東京では大空襲で浅草近くの言問橋にたくさんの人があふれた。そんな思いを語らせるのも、監督の山田洋次が戦争について語るべき思いを抱え続けて映画を作っているからに他ならない。2025年は終戦から80年。戦後の大復興で経済を取り戻した日本は、その後バブル期を経てインフレを起こしながらも、日経平均株価は現在5万円台をつけるという異常な事態に陥っている。そんな日本の歴史と行く末を山田洋次は憂いている。
そして、その日本の歩んできた道を、フランス映画『パリタクシー』からヒントを得て『TOKYOタクシー』を作った。そこには日本の歴史を、長期間に及ぶ変遷を、宇佐見とすみれが自分たちの歴史と合わせて語るロードムービーに準えているのだ。「人と人との交流」。出会うはずのなかった2人がタクシー運転手とその客として偶然に出会い、過ごす時間。そこには一期一会“今日と同じ日は二度とない”という人生の寂しさと喜びが同居している。
自分たちが普段運転しているクルマも同じこと。そのクルマとの出会いは偶然ではなく必然であり、そのクルマのシートに自分の身体を預け道を進むことが、自分の人生のロードムービーを描いていくことだとも思えたりもしないだろうか。宇佐見がすみれとのたった1日の出会いで、何を得たのか? ぜひ劇場で確かめてほしい。(文:永田よしのり)

Ⓒ2025映画「TOKYOタクシー」製作委員会
『TOKYOタクシー』
●2025年11月21日公開/103分
●監督:山田洋次
●出演:倍賞千恵子、木村拓哉、蒼井優、優香、中島瑠菜、ほか
●配給:松竹
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