1980~90年代の国産車が海外で人気を博すなか、主役級の存在感を放っている1台がホンダ「NSX」ということに異論はないでしょう。わざわざ右ハンドル車を輸入する理由と、かつて酷評された「NSX type R」の現在の評価を見てみましょう。

文: 石橋 寛/写真: RM Sotherbys
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日本にしか存在しなかった“type R”

往年の国産車が海外で大人気を博しているのは、今さら紹介するほどのことでもありません。JDM(Japan Domestic Market)フィーバーなどと呼ばれていますが、これはアメリカで基準を満たさない右ハンドル車であっても、製造から25年が経過すればクラシックカーとして輸入、登録可能となる制度が口火を切ったとも言われています。が、個人的には映画「ワイルドスピード」や、ゲーム「グランツーリスモ」が大きな役割を果たしたのだと考えます。とりわけ、NSX type Rは国内専用モデルのサーキット無双として君臨しただけあって、JDMはもちろん、メディアの世界でも神格化されているようです。

そもそもNSXは北米市場向けに「アキュラNSX」として左ハンドルモデルが当時から新車販売されていたにもかかわらず、現代のマニアたちは、わざわざ日本から「右ハンドルのNSX」を輸入することでステータスを見出しているとのこと。右ハンドルが、「100%本物の日本製」であるという証明になり、映画中でヒーローたちが左手でシフトノブを操っていた「あの頃の夢」を完璧に再現できるからだとか。そして何より、彼らが右ハンドルを強烈に欲する最大の理由は、日本国内でしか正規販売されなかった最高峰モデルが存在するからに他なりません。それこそが「Type R」なのです。

画像: タイプRは約480台、後期型となるNSX-Rは約140台が生産されました。こちらは1994モデルの前期型タイプRで、もちろん国内限定モデル。

タイプRは約480台、後期型となるNSX-Rは約140台が生産されました。こちらは1994モデルの前期型タイプRで、もちろん国内限定モデル。

振り返ってみれば、初代NSXの根底にあったのは、当時のフェラーリやポルシェといった欧州の既成概念に対する明確なカウンターでした。「速いけれど運転が極めて難しく、快適性とは無縁」という当時のスーパーカー像を、ホンダは世界初のオールアルミ・モノコックボディと「人間中心」の設計思想で見事に打ち砕きました。日常の街乗りからサーキットまで、誰もが快適にポテンシャルを引き出せる「快適なF1」という全く新しい価値観こそが世界へのファーストインパクトだったのです。

画像: 重量公差を合わせた上、専任の工員が組み立てたタイプRのエンジン。280psの数値はノーマルと同じながら、フィーリングは別物だったとされます。

重量公差を合わせた上、専任の工員が組み立てたタイプRのエンジン。280psの数値はノーマルと同じながら、フィーリングは別物だったとされます。

いつしかグッドウッドの主役にまで

しかし、ホンダのエンジニアたちは、「もっと尖った、誰もが驚くほど速いクルマを作りたい」という執念を漲らせ、サーキットを攻める熱狂的なオーナーたちの飢餓感とが融合し、1992年には「NSX Type R」が誕生。徹底的に軽量化が進められ、エアコンやオーディオ、果ては遮音材までをも徹底的に削ぎ落とした結果、ノーマルより120kg軽い車重はタイプR最大の特徴。また、コンマ数グラム単位でピストンやクランクシャフトの重量を合わせ込むという、F1エンジンさながらの高精度なVTECエンジンに仕立てられるなど、のちのホンダ最高峰スポーツブランド「Type R」伝説の記念すべき第一歩となったのです。

画像: 削り出しチタンのシフトノブもタイプR専用装備。255グラムの重量は、シフトフィールの最適化に必要な重量だったとのこと。

削り出しチタンのシフトノブもタイプR専用装備。255グラムの重量は、シフトフィールの最適化に必要な重量だったとのこと。

日本国内ではご承知の通り大絶賛されたのですが、こと当時のイギリスではじつに辛口な評価が下されました。「性能は素晴らしいが、バッジが『ホンダ』なのに、フェラーリ並みの大金を払う人がどれだけいるだろうか」と、まずはブランドステータスから責められました。次いで、イギリス名物のカントリーロード(B級道路)にNSX Rを持ち込んだジャーナリストたちは、その容赦ないサスペンション設定に「サーキットでは無敵だが、公道では跳ねまくって扱いづらく、エンジニアの独りよがりな遊び道具のようだ」と困惑の声。

しかし、時間が経って現代の視点で見直されたとき、イギリスでの評価は180度反転。イギリスの著名な自動車雑誌では「日本を代表するスポーツカーであり、自動車の歴史において最もエキサイティングなスーパーカーの1台」と大絶賛され、世界最高峰の自動車の祭典「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」でも主役級の扱い。およそ1.2トンの超軽量ボディに自然吸気エンジン、マニュアルトランスミッション、ノンパワーステアリングという、ドライバーの腕が100%試されるNSX Rは、まさにピュアスポーツの究極と見直されたのでした。

画像: イギリスのオークションに出品されただけあって、右ハンドル仕様。今では北米でも登録可能なので、引っ張りだこの大人気です。

イギリスのオークションに出品されただけあって、右ハンドル仕様。今では北米でも登録可能なので、引っ張りだこの大人気です。

NSX Type Rに限ったことではありませんが、近年「ドライバーとクルマが、濃密にシンクロできる」すなわちアナログ、かつハイパフォーマンスなクルマの人気は、たとえ30年前のモデルでもプレミア価格になりがちです。こちらのシャーロット・パール・グリーンというタイプRにしてはレアなボディカラーに包まれたサンプルにしても、23万~29万ポンド(約5000万~6200万円)という強烈な落札予想金額です。

しかしながら、この価格というのは先のJDM人気やメディアにあおられたものでもなく、NSXという「当代一のスポーツカー本来の価値」と考えたいのは決して筆者だけではないでしょう。

画像: F: 205/50ZR15R: 225/50ZR16とノーマル同様サイズながら、専用コンパウンド採用のポテンザRE010(後期はRE070)を採用。現在は廃盤となっており入手は困難。

F: 205/50ZR15R: 225/50ZR16とノーマル同様サイズながら、専用コンパウンド採用のポテンザRE010(後期はRE070)を採用。現在は廃盤となっており入手は困難。

画像: 赤に変更されたタイプR専用エンブレム。後のタイプRもこのカラーを踏襲。ボディは希少色のシャーロット・パール・グリーン。

赤に変更されたタイプR専用エンブレム。後のタイプRもこのカラーを踏襲。ボディは希少色のシャーロット・パール・グリーン。

画像: レカロのカーボンケブラー製フルバケットシートもタイプR専用品。1脚3.5kg程度となり、軽量化に大きく貢献しています。

レカロのカーボンケブラー製フルバケットシートもタイプR専用品。1脚3.5kg程度となり、軽量化に大きく貢献しています。

画像: 当時の新車価格(約970万〜1200万円)をはるかに上回り、国内でも市場価格は5000万から6000万円というスーパープライスとなっています。

当時の新車価格(約970万〜1200万円)をはるかに上回り、国内でも市場価格は5000万から6000万円というスーパープライスとなっています。

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