日本全国の高速道路と有料道路を、2018年度までに3次元地図データ化
「自動走行システム向け高精度3次元地図データの提供に向けた事業会社化について」と題された公式リリースには、これからの日本の自動運転を支える事業体としての、なみなみならない決意が感じられた。その変化には、大きな意味がある。なにしろ「高精度3次元地図データ」は、自動走行システムを支える「ダイナミックマップ」作成のまさに基盤であり、2020年をメドにしている自動運転実用化には欠かすことができないものだからだ。
自動走行を実現するためには、人ではなくクルマが「読む」ための地図が必要になる。その基盤となる高精度3次元地図データの仕様や作成手法を、ダイナミック基盤企画株式会社はこれまで「世界に先駆けて」開発してきた。そのプロセスは、衛星による測位、高精度なGPS移動計測装置をクルマに搭載して走行して行う「モービルマッピングシステム」を使った「点群」(物体の表面を多数の点としてとらえ、その3次元座標を群としてデータ化したもの)の生成、そのデータをもとに図化、統合していく4段階だ。
今回の事業体への移行では、新たに「ダイナミックマップ基盤 株式会社」(以下DMP)として、日本国内での主要道路網を対象としたデータ整備の計画を予定より前倒しすることを目標としている。具体的には高速道路・自動車専用道について、上下線を合わせると約3万kmもの距離を2018年度までにデータ化する計画だ。
どうして自動運転にダイナミックマップが欠かせないのか
ダイナミックマップは、イメージとしては変化の時間的スパンが異なる4つの層(レイヤー)で構成されている。時間的な変化がかなり少ない路面情報、車線情報などを土台に、変化はするけれど頻度や程度が比較的少ない交通規制情報、道路工事情報などのデータをレイヤー2としてそこに重ね、事故や渋滞の情報など分刻みレベルで変わる情報をレイヤー3で数値化、さらにそこに、移動する車両や歩行者、信号の変化といった刻一刻と変化するファクターをレイヤー4として紐づけていく。
こうして完成したダイナミックマップによって、自車位置の推定精度を高めるとともに位置情報を他の車両とも共有化することが可能になる。同時に走行車線の区分や一時停止、信号の変りめといった状況変化を早めに把握しておくことで、車線変更や減速など、常に挙動を先読みしながら運転操作することも可能だ。
つまり、スムーズで安全な自動運転を実現するには、「高精度3次元地図データ」、「ダイナミックマップ」が欠かせない、ということ。本当に人に優しくて安心・安全、理想的な自動運転を実現するためにも、高い精度と完成度が求められることは言うまでもない。
ライバルが共同出資。3次元地図は私たちの生活を変えるかも
DMPの活動を株主として支えているのが、国産自動車メーカーだ。トヨタ、日産、ホンダ、スバル、マツダ、三菱、スズキ、ダイハツの乗用車系に加え、日野やいすゞといった商用車メーカーも、仲良く平等に0.25%ずつの出資比率を担っている。ほかにゼンリンなど地図メーカーや、計測会社などが数社、名を連ねる。ちなみに出資比率33.5%の筆頭株主は、国際的な産業競争力の強化を目指して設立された官民出資の投資ファンド「産業革新機構 株式会社」になる。
ライバルである自動車メーカーが協調している背景にはもちろん、3次元地図の作成にとんでもない時間と手間とお金がかかるから、という理由もあるだろう。そこでまずは、基盤となる地図の作成までは共同出資の会社で「協調」して進め、次の段階であるダイナミックマップへと仕上げる段階でそれぞれの創意工夫を盛り込み「競争」していこう、という戦略だ。
ちなみにこの高精度3次元地図は、すべての車両のための高度道路交通情報データベースという、デジタルインフラとしての役割も期待されている。それはたとえば、地域ごとに最適化された交通マネジメントシステムの構築にも役立つハズだ。そうした有効活用は日本国内に限らず、欧米や中国などでも大きな事業となる可能性を秘めている。だからこそ、オールジャパン体制で濃密かつスピーディな対応が求められている一面もある。
DMPの中長期ビジョンには、一般道における自動走行システム用の仕様検討が開始されているという。さらにIT農業や防災・減災、社会インフラの維持管理にまで幅広く使う構想が、三菱電機株式会社などを中心にCOCN(産業競争力懇談会)のプロジェクトで検討されている。DMP=ダイナミック基盤株式会社の活動が近い将来、私たちの生活全般に深く関わってくることはもはや間違いなさそうだ。