KWD.1「引き締まったグラマラス」に「スポーツ」が嫉妬する
レンジローバーの新しいラインナップをファミリーにたとえるなら、長男が「レンジローバー」で次男が「レンジローバー・スポーツ」、末弟として「レンジローバー・イヴォーク」となる。新たに加わった「レンジローバー・ヴェラール」は、三男のポジションだ。
◎ディメンション比較(全長×全幅×全高/ホイールベース)
レンジローバー・スポーツ SE:4855×2073×1800mm/2920mm
レンジローバー・ヴェラール:4803×2032×1665mm/2874mm
レンジローバー・イヴォーク 5ドアSE:4355×1965×1635mm/2660mm
※ヴェラールのデータおよびスポーツとイヴォークの全幅は欧州仕様のもの。
サイズ的には「スポーツ」にほぼ匹敵するが、圧倒的に低く構えたフォルムも含めて雰囲気はずいぶん違う。一言で言えば、よりスマートで洗練された風格の持ち主だ。そこであえて「ヴェラールにあってスポーツにはない魅力とはなにか」を、ウォーターマン氏に尋ねてみた。
「スポーツ」のデザインにはその名のとおり、スポーティなDNAが盛り込まれています。「イヴォーク」の場合は「ドラマティック」なイメージを強調していました。そして新しい「ヴェラール」には、「モダンかつグラマラス」というエレメントをデザインに取り込んでいます。
モダンとグラマラス、ふたつのデザインコンセプトをバランス良く形作るために、デザインチームが採用したロジックが「Reductionism(還元主義)」だった。一言で言えば「無駄をそぎ落とすデザイン手法」と言ったところか。たとえば徹底されたフラッシュサーフェス化は、まさに無駄をそぎ落とすことでかつてないモダンな印象を作り上げている。
ボディサイドに刻まれた数少ないアクセントライン。その入れ方に関しても、とほうもなく長い時間をかけて検討に検討を重ねたという。さらにグリルからつながるバンパー部分のオフセットは限りなくゼロだ。ヘッドランプ下には、うっすらとプレスラインが浮かび上がる。
こうした「最低限」のアレンジがかえって緊張感を強める、とウォーターマン氏は語る。結果的に、なまめかしくハリのある面が生まれ、その組み合わせが独特の生々しさを演出する。確かにひと味違う「グラマラス」と言っていい。
KWD.2「デザインとエンジニリアリングの蜜月」が支えた革新性
開発段階ではともすれば、デザイン要件とメカニズム的要件が相容れない状態で、担当チームがぶつかることもあると聞く。だがヴェラールの先進的なデザインの開発には、エンジニアリングチームからのサポートが不可欠だったそうだ。ウォーターマン氏は「エンジニアリングがとても頑張ってくれたからこそ、これまでにないデザインが完成できた」と力説していた。
ヴェラールの先進性をアピールする「マトリックス・レーザーLEDヘッドランプ」は、フロントまわりのフラッシュサーフェス化に不可欠だったという。一方でたとえば先進安全装備にまつわるカメラやレーダーといったデバイスは、おそろしく自然にデザインの中に溶け込んでいる。
「そうしたデバイスが、デザインするうえで枷になることはなかった」と、ウォーターマン氏はサラっと言う。「Reductionism」は「シンプルであることが高い機能性を物語る」という意味なのでしょうか、と質問したら「そう。だけど同じように高い機能性がシンプルな美しさを生み出すのです」とレスポンスが返ってきた。ランドローバー・ブランドにおけるデザインとエンジニアリングのタッグは、そうとうに強固なようだ。
KWD.3「隠された美しさ」 を探す楽しみはオーナーだけの特権だ
「ランドローバーの歴史上とても大切な『ヴェラール』という名前がついていますが、開発段階では初代レンジローバーのプロトタイプ『ヴェラール』の後継車的扱いではありませんでした」と、ウォーターマン氏。これは「ヴェラールという名前にはとてもスクエアな印象がありますが」という、ちょっと意地悪な質問に対する答えである。名は体を表すというが、ヴェラールの場合はどうやら「体」ではなく「魂」を受け継ぐ名前らしい。
ファーストエディションの展示車を前にウォーターマン氏の説明を聞きながら、ウインドーラインに合わせた水平のプレスラインやクラムシェルボンネット、フローティングルーフなど、デザインワークの随所に初代レンジローバーの息遣いがしっかり感じられることに、実は驚いた。斜め後ろから見たときのプロポーションには、確かにその血統を感じることができる。
そんなブランドとしての歴史の重みを楽しむのも、ヴェラールデザインを堪能するオーナーならではの特権。だが、それ以上に「隠された美しさ(ヒドゥン・ビューティ)」を探す醍醐味を楽しんでほしい、と、ウォーターマン氏がいくつかの「ネタばらし」をしてくれた。
◎「ヒドゥン・ビューティ」チェックポイント一部抜粋
・ボンネット上とドアの内側に同じ素材を使っている部分がある。
・室内のそこかしこに「ダイヤモンド」が隠されている。
・テールランプの奥行き感を演出しているのはレイヤーの妙だ。
・リアハッチからバンパーにかけて「一筆書き」のラインが隠れている。
・ドアを開けると「ファーストエディション」が明らかになる
全部見つけようと思ったら、ずいぶん時間がかかりそうだ。だからこそ、オーナーの特権というワケ。ある日ふと気づいて幸せになる。そんな「新鮮な驚きが長続き」するアレンジもまた、デザイナー陣がヴェラールに秘めた魅力のひとつなのだ。