運転の基本を学ぶために
FFの安定性を活用する
今回はFF車のドライビングを考えよう。現代のFF車はかつてのようなクセも少ないし、挙動自体が安定しているというメリットがある。ドライビングの習熟度に関係なく、ある程度まで速く安全に走れるとも言えるだろう。確かにアクセルでテールスライドをコントロールしたり積極的なドリフト走行を考えればFR車が良いという面があるが、あまりドライビングの本質とは関係ないところだ。
まず、なぜFF車の挙動が安定しているのかについて触れよう。FF車とはフロントにエンジンを置いてフロントタイヤを駆動する方式だ。この方式は戦前からあるが(世界最初のクルマもFFと言われる)、普及したのは1950年代末の「ミニ」からだ。このクルマはトランスミッションの上にエンジンを載せ前輪を駆動した。
エンジンが横置きなので足もとのスペースが広く、室内を貫通するプロペラシャフトがないために小さいボディながら室内が広くなる…とスペース効率の良さで語られることが多いが、走らせてみると大排気量車を相手にモンテカルロラリーで勝ってしまったり、サーキットレースでも活躍した。
その理由は、クルマを前から引っ張っているからだ。たとえばペンなどを寝かせた状態にして、指でペン先から引っ張るのと、尻から押してみるだけでも直進安定性の違いがわかってもらえると思う。実はこれは飛行機でも同じ傾向だ。下のイラストを見てもらうとわかるように、いわゆる単発プロペラ機は「牽引式」と呼ばれフロントから引っ張る形が主流である。これはクルマで言うとFF車のイメージだ。重心が前方にあり垂直尾翼までの距離があると比較的穏やかな挙動を示すそうだ。
リアにプロペラを持ってきた「推進式」もある。これだとフロントのデザインの自由度が高くスピードが上げられ、理論的には操縦性が上がる可能性があるものの、重心から垂直尾翼までの距離が短く、操縦性がシビアになるなどの問題で主流にはなり得なかったという。この辺はMR車やRR車に似ている。
話をクルマに戻すとFF車は、ボディを前輪から引っ張っているから、アクセルである程度の駆動力をかけておけば、姿勢が大きく乱れない。しかも、重心が前側にあるから常に前荷重状態でもあるということで、ステアリングも効きやすい。コーナリング中の挙動も比較的穏やかというわけだ。ミニが雪道のモンテカルロラリーで活躍したのはこの辺が要因だった。
クルマの基本操作はいつも同じだ。ストレートでアクセルを踏んで、コーナーでは、アクセルオフやブレーキでコーナーに合ったスピードまで減速し、ていねいにステアリングを切り込む。なるべく修正舵は入れない。クルマが出口を向いたらアクセルオンでステアリングを戻しながら立ち上がっていく。
タイヤのコーナリングフォースはある程度の切り込み角までは増していくが、それを超えると減少するという性質がある。だから舵角はなるべく少なくし、そこで摩擦円の限界領域を使っていく。要は基本に忠実にということがポイントだ。
走らせ方は機械式LSDを装着しているかいないかでちょっと違ってくる。装着していないならば、前輪の左右の回転はオープンデフでフリーだから回頭性が良い。アクセルオフでフロント荷重にしてアンダーステアを抑えるタックインも使える。反面、立ち上がりのトラクションはかけづらいから、しっかり向きが変わってからていねいなアクセルオンが必要となる。どちらかというと我慢のドライビングと言えるだろう。
機械式LSDが入っていると、差動制限で回頭性が悪くなる。その場合、ややオーバースピードでテールを出したり、トレールブレーキ(ブレーキを残すテクニック)などでしっかりと姿勢を作ることが肝心だ。ただ、立ち上がりではLSDが使えるので、姿勢さえ決まればアクセルを積極的に踏むことで、クルマを前に進めることができるのだ。もちろん一発のタイムを狙うならば後者の選択となる。
■解説:飯嶋洋治 ■イラスト:きむらとしあき ■写真:井上雅行/原田淳