クルマのコーナリングで
公転と自転に着目する
今回はコーナリングの動きを、視点を変えて考えてみよう。荷重移動とは一旦離れて、クルマを俯瞰して見た時の回転運動としてのコーナリングについてだ。
コーナリングラインだけで見るとコーナリングは公転運動だ。ひとつのコーナーに対して、できるだけ大きな回転半径で公転することが、コーナリングスピードを高めることになる。ただし、それだけで話は済まない。公転だけしかしないと、クルマはコーナーにフロントから進入してバックで出てくるという、現実にはあり得ない動きになる。
そこでクルマを自転させることが必要になる。これはクルマの重心を垂直に貫く軸(Z軸)を中心にした回転運動で、ヨーイングという。公転だけでもコーナリングにならないが、自転だけでもスピンとなってしまい、コーナリングにはならない。両者は不可分の存在なのだ。
もうちょっと具体的に解説していこう。コーナリングするにはきっかけ作りが必要になる。普通はステアリングを切り込んで前輪に舵角を与えコーナリングフォースを作り出すことがそれに当たる。それに続いて公転運動に入る。
ちょっと難しい話になってしまうが、クルマが旋回するには、向心力(物体を曲線軌道で動かす力)が必要になる。単にボディの重心で向心力が発生しているのなら、円運動になるので話はわかりやすいのだが、クルマの場合には、4つのタイヤによって向心力が発生しているところがミソ。これがクルマの操縦特性にもつながってくる。
教科書的なニュートラルステアのコーナリングをするなら、前後のタイヤのバランスは、公転の角度と自転の角度が同じになればいい。クルマが90度公転したときに自転も90度ならばニュートラルステアとなる。公転が90度の時に自転が95度ならテールが出過ぎてオーバーステア、自転が85度ならば、フロントが膨らむアンダーステアだ。
この辺はタイヤの状態はもちろん、FF、FR、MR、RR、4WDといった駆動方式によっても違ってくるし、コーナリングスピード、コーナーのRでも違ってくる。いわゆるステアリング特性と言われるのがこれで、レーシングカーのセッティングでも重要な部分だ。
一般的になかなかセッティングというのは難しいかもしれないが、自分のクルマの特性を知って、そのクルマの最大のコーナリング能力を引き出すことがドライビングテクニックの見せどころ。
例えば入り口でアンダーステアが強いクルマならば、コーナーに入ってからのブレーキを長めに残すとか、何らかの方法でテールを出して姿勢を作るなどの方法で対処をする。逆にオーバーステアが出やすいとすれば、繊細なスピードコントロールや、ていねいなステアリングの切り込みなどが求められる。
ちなみにオーバーステア特性の強いクルマは、ある程度のスピード領域までなら、雑誌の記事などで「回頭性が良い」とか、「シャープな操縦性」などと書かれたりする場合もあるが、レーシングスピードでの走りを考えた場合にはウイークポイントにもなり得る。
操縦特性は、ドライバーの技量によっても違ってくる場合がある。自分のクルマはアンダーステアなクルマだと思っていても、実際はスピードが低かったり、荷重移動が下手だったりするだけで、上手なドライバーの手にかかると、逆にオーバーステアになったりすることもある。
公転と自転のコントロールは、本連載でも何度か書いているように、タイヤの能力をどのように使うかということにかかっている。フロント荷重がかかっている状態でステアリングを切り込み、アウト側前輪からアウト側後輪に荷重が移り、リア荷重で立ち上がっていく。
上手にクルマの自転を作り出しながら、ベストのライン(=公転)に乗せるということがドライビングの要諦ということになる。コーナリングのライン取りという面だけで考えると公転の部分に注目することになるが、いかに的確に自転させる=コーナリングのきっかけを作るか?ということが、ハイスピードドライビングではライン取りと同様に大切だ。
●自転だけではターンになってしまう
クルマでは公転だけの動きはできないが、自転だけの動きはある程度ならできる。一例は上の写真のようなアクセルターン。完全停止している状態でリアだけにフルパワーをかけるとZ軸を中心にクルマが回転する。ジムカーナではサイドブレーキで強制的にこの状態にするテクニックもある。公転中に自転をコントロールすることがテクニックの見せどころ。
■解説:飯嶋洋治 ■イラスト:きむらとしあき ■写真:井上雅行