拡大キャビンは快適、しかも荷室長は確保。
この仕事をしていても、商用車に試乗するなんてことはめったにない。だから、このスーパーキャリイをどう斬ったらいいものだか戸惑いもあるのだが、とにかく、いつものように走らせてみることにした。
ホンダのN-VANもデビューしたことだし、この機会に軽商用車に慣れ親しんでおくのも悪くないだろう。
N-VANはN-BOXとプラットフォームを共有したFF(FFベースの4WDもあるが)であり、軽商用としては珍しい類に入るのだが、スーパーキャリイはエンジンを座席の床下に配置して後輪を駆動する、いわゆるMRという昔ながらのレイアウト。
FFに対して床は高くなるが、荷室長を長くとれるのがメリットで、サイズが限られる軽では見逃せないポイントとなる。
スーパーキャリイは、11代目キャリイをベースにキャビン上部を後方に拡大して快適性を確保しているのだが、下部は荷台の一部としているので、キャリイと同等の1975mmの荷台フロア長を確保している。
これだけあれば、畳でもコンパネ(建材)でも搭載することが可能だ。
運転席に乗り込み、ドライビングポジションを調整しているときに、軽商用としては前後スライドとリクライニングが大きくとられていることに気付く。キャビンの後方拡大は460mmで、前後スライド量は180mm、リクライニング最大角度は40度。これは大柄な人でも安心、というよりも休憩するときに重宝しそうだ。
自分のクルマにフルバケットシートを入れて悦に浸っていたら、高速のサービスエリアなどで寝られなくて後悔した経験があるが、キャリイのユーザーも似たようなことを思っていたに違いない。
また、シート後方に荷物が置けるスペースがあるのも便利だ。
運転感覚は想像していたよりもずっとマトモだった。
空荷でも乗り心地はさほど硬くなく、シートのチープさに目をつぶれば快適。NAエンジン+5速MTは常用域のトルクが充実していて、ローギアード気味なので加速は力強い。高速道路でも問題なく流れに乗っていけるだけのパフォーマンスがあった。
ただし、面食らったのは横風に弱いことだ。試乗したアクアラインは風速10mの強い横風に見舞われていたのだが、速度を高めると怖い。キャビン部が横風の影響を強く受けるので、相対的に前ばっかり流されることになり、ステアリングでの修正が大きいのだ。
その点さえ除けば、かなり乗用車ライクな乗り味のスーパーキャリイ。今どきの軽商用は、案外と運転しやすいのだった。
(文:石井昌道 写真:伊藤嘉啓/玉井 充)
スーパーキャリイ X 主要諸元
●全長×全幅×全高:3395×1475×1885mm
●ホイールベース:1905mm
●重量:770kg
●エンジン型式・種類・排気量:R06A・直3 DOHC・658cc
●最高出力:37kW[50ps]/5700rpm
●最大トルク:63Nm[6.4kgm]/3500rpm
●JC08モード燃費:18.8km/L
●燃料・タンク容量:レギュラー・34L
●トランスミッション:5速MT
●タイヤサイズ:145/80R12
●価格:110万2680円