自然吸気のV8エンジンのサウンドは実に官能的
マセラティは相変わらずカッコいい! エクステリアは機能性よりもデザインを優先したかのようなフォルム、それはピニンファリーナの血がいまも息づいている証なのだろう。
今回試乗したのは2ドアクーペのグラントゥーリズモ スポーツと2ドアオープン4シーターのグランカブリオMC。どちらも同じ4.7L V型8気筒DOHCエンジンを搭載する。最高出力460psは7000rpm、最大トルク520Nmは4750rpmと、いずれも高い回転数で発生する。ターボチャージャーは搭載せずノーマルアスピレーション(自然吸気)を守り続けていることがマセラティらしい。
この2台に試乗したら「ネオクラシックスポーツカー」という言葉が脳裏に浮かんだ。というのも、色々な場面で“クラシック”な印象を感じたからだ。それは単に古いという意味でなく、「昔から変わらない、正統派のドライビングを楽しませてくれる」という意味だ。当然、絶対的な走行性能やボディ剛性も非常に高い。そういう意味を含めてクラシックの前に“ネオ”という言葉を付けなくてはならない。
マセラティの90度V8エンジンのサウンドは実に官能的だ。エキゾーストノートは2600rpmを越えると、まるで管楽器のように“クォーン”という音とともに盛り上がり、その先で一度収まってから、もう一度別の盛り上がりがある。6000rpmrpm以上になると管楽器のようなサウンドは息を潜め、純粋な機械的なサウンドに変化する。ちなみに7200rpmからイエローで、7500rpmからレッドゾーンが始まる。
エンジン回転数による変化だけでなく、アクセルペダルの踏み込み量によってもサウンドが変化するからおもしろい。慣れてくるとタコメーターを見なくても音だけでエンジン回転数がわかるようになり、さらに同乗者もドライバーのアクセル開度が想像できるようになるだろう。つまり走行中は、同乗者が一体となってドライビングを楽しめるのだ。
もう一台のグランカブリオは幌を開ければ官能的なサウンドをダイレクトに楽しむことができる。またドライビングモードを「オートスポーツ」にスイッチすると、レーシングカーのようなサウンドに変貌する。
クラシックな感じは、ドライビングポジションにも表れている。低いヒップポイントに低いアイポイント、そこからV8エンジンを収めたノーズが伸びてフロントアクスルが前方に位置する典型的なFRレイアウトだ。ミニバンやSUV、さらにクロスオーバーと呼ばれるモデルとはまるで違うパッケージだ。このようなクルマに乗ると久しぶりに新鮮な気分になるから不思議だ。
車重を意識させないスポーツカーならでは走りが楽しめる
そんな低いポジションから生まれるドライビングは、グランカブリオとグラントゥーリズモとでは微妙に異なっている。グランカブリオでワインディングを走るとグイグイとノーズがインに入る。しかし、それによってリアが負けて不安定になることもない。それは前輪245/35ZR20、後輪285/35ZR20サイズのタイヤが最後まで踏ん張るからだ。2トンを超えるスポーツカーながら、それを感じさせない軽快な走りはとても魅力的だ。
グラントゥーリズモはグランカブリオより、ハンドリングが“どっしり”としていて安定志向に感じた。コーナーの入口はブレーキで減速し、ブレーキを緩めながらハンドルをゆっくり切り込んでいくとノーズが“スッ”とインに向き始める。そのときのハンドル角がカブリオよりほんの少しだけ大きい感じがする。逆にいえば、自分からまわり込んでいくカブリオは、かなりスポーティなセッティングとも言える。だがそれも単独で乗っていたらわからないレベルの違いでしかない。
セオリーどおりのドライビングで綺麗に走れるのもクラシックだが、その速さと安定感は確実にネオである。(文:こもだ きよし)
マセラティ グラントゥーリズモ スポーツ 主要諸元
●全長×全幅×全高=4910×1915×1353mm
●ホイールベース=2942mm
●車両重量=1950kg
●エンジン=V8DOHC
●排気量=4691cc
●最高出力=460ps/7000rpm
●最大トルク=520Nm/4750rpm
●トランスミッション=6速AT
●駆動方式=FR
●0→100km/h加速=4.8秒
●車両価格=1890万円
マセラティ グランカブリオ MC 主要諸元
●全長×全幅×全高=4920×1915×1380mm
●ホイールベース=2942mm
●車両重量=2070kg
●エンジン=V8DOHC
●排気量=4691cc
●最高出力=460ps/7000rpm
●最大トルク=520Nm/4750rpm
●トランスミッション=6速AT
●駆動方式=FR
●0→100km/h加速=4.9秒
●車両価格=2175万円