ジャガーの高性能車開発部門、SVOが手がけたジャガーXJR575。成熟した大人の4ドアサルーンと圧倒的な強心臓のコンビネーションは、現代のスーパーカーのあり方を示している。(Motor Magazine 2018年9月号より)

解き放たれた野生と研ぎ澄まされた感性の共謀

ジャガーがフラッグシップサルーンのXJをフルチェンジさせたのは2009年7月。丸型4灯のヘッドライトや、ロングノーズ/ロングデッキの流線型ボディといった伝統の形をリセットし、イアン・カラムの手によるまったく新しいフォルムを得た。現行型はその登場がとてもセンセーショナルだっただけに今も記憶に鮮やかなのだが、考えてみればデビューからすでに9年が過ぎたことになる。

溶接を用いず、リベットと接着で作り出されるオールアルミモノコックにより、全グレードが2000kgを大幅に下回る軽量を実現。登場時点でかなり進んだ内容を備えていたからこそ、競争の激しいFセグメントを戦ってこられたのだが、それと同時に、当然ながらマイナーチェンジや年次改良もキメ細かく行ってきた。

直近の改良は昨年の秋。内容はインフォテインメント機構のアップデートとコネクティビティの強化、それにADASの充実などが中心だったが、その時新たにラインナップに配備されたのが、ここで紹介するXJ史上最強モデル、XJR575である。これまでは550psの5L V8を搭載していたが、今回はこれを575psまでパワーアップ。その出力をモデル名とした。

このスーパーチャージドV8エンジンは、ジャガーがハイパフォーマンスを追求するときの切り札と言ってよいユニット。同じ575ps仕様は2シータースポーツのFタイプSVRにすでに搭載されているし、ジャガー史上最速を目指してDセグセダンのボディにこのV8を積んだXEプロジェクト8では600psに強化されている。

いずれもジャガーの高性能車開発部門であるSVO(スペシャル ビークル オペレーションズ)が手掛けたモデルで、4WDが用いられる。だが、XJR575は標準のXJと同じくFR。強大なパワーを2輪駆動で味わえるという意味でも貴重な存在だ。

画像: スタビリティコントロールやABSシステムと協調したアクティブデファレンシャルコントロールが、圧倒的なドライビングダイナミクスを支えている。

スタビリティコントロールやABSシステムと協調したアクティブデファレンシャルコントロールが、圧倒的なドライビングダイナミクスを支えている。

画像: 猛烈な速さと驚きの快適性を兼ね備えた稀有なスポーツサルーン。

猛烈な速さと驚きの快適性を兼ね備えた稀有なスポーツサルーン。

画像: 575psを発揮するスーパーチャージドV8によって、最高速度は300km/h、0→100km/h加速は4.4秒を実現している。

575psを発揮するスーパーチャージドV8によって、最高速度は300km/h、0→100km/h加速は4.4秒を実現している。

ハイパフォーマンスながらサウンドでのアピールは控えめ

ドアを開けると、ダイヤモンドパターンのキルティングが施されたスポーツシートのバックレストに575の赤い縫込みが。一瞥して腰を下ろすと、ドアライニングから回り込んだインパネのカーボン柄アッパーパネル中央にも575の文字が輝いている。

インテリアの基本造形は他のXJと共通で、エンジン始動と同時にライズアップする円筒形のシフトセレクターや、ダッシュボード中央に埋め込まれたアナログ時計など、いかにもジャガーのフラッグシップらしい優雅な構成。だが、各所に施された赤いステッチと575のレタリングが適度な緊張感を演出している。

プッシュボタンにてエンジンスタート。ジャガー製のこのV8は搭載車種によって、始動時に咆哮を上げることもあるが、XJR575のトーンはかなり控えめ。これもフラッグシップサルーンたる配慮だろう。

とは言え、Dレンジに入れてアクセルペダルを踏み込んでからの反応は素早い。タイムラグをほとんど感じることなく、踏んだ瞬間に豊かなトルクが即座に得られるのは、スーパーチャージャーの優れた特質だ。回転フィールも相変わらず緻密でスムーズ。レブリミットは6500rpmの設定で、そこまで直線的に盛り上がって行くが、その時のいかにもV8らしい抑えめの重低音がとても魅力的。Fタイプのように、アクセルオフでパリパリとしたアフターファイアが混ざるような過激な演出は、このクルマでは見られない。

しかしそれでいて猛烈に速い。高速道路でフル加速を試みると頭が後方に倒れるほどの勢いだ。これだけパワフルなFRだと、後輪の接地性が気になって来るところだが、XJR575は駆動力の伝達を繊細に制御し最大のトラクションを得るアクティブディファレンシャルコントロールが採用されているせいか、スタート時に大パワーを掛けても挙動が乱れることがなく、常に最大のトラクションで加速して行く。0→100km/h加速が4.4秒というのも納得という感じだ。

もうひとつ驚いたのは乗り心地の良さである。ジャガーでRの名前を持つモデルは、いずれも運動能力が最優先で快適性は二の次という感覚が強い。だがXJR575のライドフィールに、ゴツゴツした硬さを感じることはなかった。全域でサスペンションの動きが実に滑らかで、低速域からゆったりとした乗り味だ。

ソフトライドなのでワインディングでは不安があったのも事実だが、たしかにコーナーでのロールやアクセルのオンオフに伴うピッチ方向の動きは小さくないものの、だからと言って腰砕けになるようなことはまったくなく、大パワーに伴う前後左右の激しいボディアクションもしなやかに吸収する。つまり乗り心地を犠牲にすることなく、それでいてスポーティーなコーナーワークも存分に味わえる。久々に猫足という言葉を思い出させる乗り味であった。

このXJR575もスノー/ノーマル/ダイナミックの3段階のドライブモード設定を備えている。モード設定に応じて液晶メーターのグラフィックが変わる演出は面白いが、ダイナミックでのアクセルレスポンスが時に鋭過ぎて、大きい挙動の中では正確なアクセルワークがしにくい場面があったのが気になった。この点を除けば、XJR575は驚くほどの動力性能を、快適な乗り心地と共に味わえる稀有なスーパースポーツサルーンである。(文:石川芳雄)

画像: 黒基調でコーディネイトされたソフトグレインレザーで上質感も格段に高い。MERIDIAN サラウンドなど、おもてなし面でも高いポテンシャルを誇っている。

黒基調でコーディネイトされたソフトグレインレザーで上質感も格段に高い。MERIDIAN サラウンドなど、おもてなし面でも高いポテンシャルを誇っている。

画像: シートバック上端のボルスターも調整可能な本格派のスポーツシート。

シートバック上端のボルスターも調整可能な本格派のスポーツシート。

画像: インボンネットルーバーが、只者ではない感を思い切りアピール。スタンダードなXJに対して、フロントバンパー、サイドシル、スプリッター、ロワーエアインテーク、グロスブックサラウンドといった装備を変更・追加している。

インボンネットルーバーが、只者ではない感を思い切りアピール。スタンダードなXJに対して、フロントバンパー、サイドシル、スプリッター、ロワーエアインテーク、グロスブックサラウンドといった装備を変更・追加している。

画像: アピアランスはもとより、ボディ全身でエアフローの最適化が図られている。

アピアランスはもとより、ボディ全身でエアフローの最適化が図られている。

画像: 鮮烈な真紅のブレーキキャリパーが目を惹く足元。ホイールは20インチの5スポーク「スタイル5044」鍛造。

鮮烈な真紅のブレーキキャリパーが目を惹く足元。ホイールは20インチの5スポーク「スタイル5044」鍛造。

ジャガー XJR 575 主要諸元

●全長×全幅×全高=5135×1905×1455mm
●ホイールベース=3030mm
●車両重量=1960kg
●エンジン=V8DOHCスーパーチャージャー
●排気量=4999cc
●最高出力=575ps/6500rpm
●最大トルク=700Nm/3500rpm
●トランスミッション=8速AT
●駆動方式=FR
●0→100km/h加速=4.4秒
●車両価格=1887万円

This article is a sponsored article by
''.