「これなら私でも安心して新幹線の組み立て作業のお手伝いができるかもしれない」。そう思ったのは、京都機械工具を訪ね、KTCの新製品「トルクル」を使って10Nmでボルトを締めてみた時だ。
使い方はとても簡単。ラチェットハンドルに「トルクル」を装着、指定数値を入力してあとはタブレット画面がOKになるまで締めればいいだけだ。締め付けトルク値が適正かNGかは視覚はもちろん色や音、さらに振動でも確認することができるのである。実は作業中は視線移動ができないときもあるのでこの音や振動というのはとても便利だと感じられた。
そして私も10Nmは「このくらい」という塩梅がわかってきて、数回目には画面を見ずに適正値で締めることができるようになっていた。またこの作業データは同時に保存もされるのである。
新幹線の組み立て現場では、こうしたボルト締め作業を一日に800回も繰り返す人がいるという。締め付けトルクを作業者の勘に頼るなど曖昧に扱えば、トラブルや事故を招きかねない。
「トルクル」は、常に緊張感が求められる現場でそんな作業者の負担が減るのはもちろん、多様化する作業を誰でも同じ精度ででき、そして記録を残すことができるというところがポイント。
KTCは、この「トルクル」を含む「トレサス(TRASAS)」シリーズで、モノづくり現場の「安全、快適、効率」をサポートしているのだ。ちなみにトレサスとはTraceable Sensing and Analysis System=TRASAのことである。
またこの「トレサス」シリーズには、既存の工具に装着し締め付けトルクの管理ができる「トルクル」と、タイヤの残溝を計る「タイヤデプスゲージ」、ブレーキパッドの残量などを計測できる「ブレーキパッドゲージ」が揃っている。
計測数値を可視化する工具はすでにKTCにあるが、これら「トレサス」シリーズは作業と同時にBluetoothを利用して作業データをアプリへ転送して同時に管理できる点が新しい。
これまでは作業データを人の手によりパソコンへ入力していたものが工具と繋がることで、手間が省け、効率が上がるはずだ。さらにこのデータを活用すれば、個別のメンテナンスへの活用もできるという。
今後、自動運転化が進めばメンテナンスの重要性はさらに高まり、事故が起きた時の責任の所在を明らかにするためにも作業記録は重要になる。
ヒューマンエラー防止と管理、そしてトレーサビリティがIoT化で構築されることは、これからのクルマにとって重要になる「。トレサス」シリーズは、そんな時代にとても重要な役割を果たすことになるだろう。(Motor Magazine2019年1月号)