超高運動性能を誇る、まさに「空のF1」
「空のF1」とも呼ばれ、日本人パイロットの室屋義秀選手が2017年には初の年間総合優勝を勝ち取るなど、日本でも人気を集めた3次元のモータースポーツ、レッドブル・エアレース。諸般の事情で2019シーズンで惜しまれながら終了したが、その機体やエンジンはモンスターと呼ばれるにふさわしいものだった。3回連続でエアレースについて紹介する2回目は、その機体から。
インディ500で佐藤琢磨選手が東洋人初の優勝という歴史的快挙の興奮が冷めやらぬ2017年6月4日、日本でもメジャーになったレッドブル・エアレースで室屋義秀選手が、前戦サンディエゴ大会に続き2連勝。千葉大会2連覇の快挙を挙げた。「空のF1」と呼ばれるエアレース。パイロットとともに、主役であるレース機はどのようなマシンか? 詳しく見ていこう。
F1マシンが、けっして最速&最大出力のクルマではないように、レッドブル・エアレースのレーサーも最高速度と最大出力を競う航空機ではない。決められたサーキットコースを、いかに最短のタイムで駆け抜けるか。速度は無論、キレのある驚異的な運動性能がレーサーの「キモ」なのだ。
レースは、上端までたった25mのパイロン(上を飛び越したり、接触すればペナルティ)で指示された、1周約6kmのコースを、時速370km以上で2周回飛ぶ。パイロンとパイロンの間は、時間にして1秒前後。ゲート型パイロンは「厳密に水平飛行で通過」、スラロームは90度バンクで切り返すことになる。コース両端の折り返しは、なんと10Gに達する垂直大旋回となるが、10G状態が0.6秒以上続くと即時失格(パイロットの安全面を配慮)。平面方向のコースアウトや高度15m以下の飛行も即時失格と、F1よりはるかに厳しいルールがある。
室屋選手の機体には、こだわりの工夫が施されていた?
推進力のカギとなるエンジンとプロペラは、徹底した品質管理による、完全な同一仕様の支給品。不正がないよう、支給方法も抽選という徹底ぶりだ。エンジン排気量は8.9Lで300hp+というのも、エンジンの最高出力競争ではなく、レースを公平に行うためと安全な速度を考慮しての規定だ。
エアレーサーは自動車レースと違い、スタートゲートを370km/h以下で通過した後は、スロットル全開のままパイロンを縫いながら、ゴールゲートまで駆け抜けるため、安定したトルクと絶対的信頼性が最優先なのだ。日本に初上陸した2015年当時の機体は4種類あったものの、2017シーズンはMXエアクラフト MXS-Rが1機ある以外、全機ジブコ エッジ540 V3となった。MXS-Rはフルカーボン製の低翼機だが、鋼管フレームにカーボン張りのエッジ540に、信頼性が集まったという。
機体を覆うカーボンカバーのデザインは、各チームの空力的工夫が見られる。とくに面白いのがエンジンカウル正面左右のエンジン冷却孔と下部のエアインテーク付近で、メカニックが最大効率を目指して個性となっている。またコクピットを覆うキャノピー(風防)も設計の見せどころ。パイロットの頭にギリギリぶつからない小型さだけでなく、前半の透明部分も複雑な3次曲面をしている。パイロットより後方は垂直尾翼へとつながるファストバックが主流だが、室屋機のみ旧日本軍や現代の戦闘機と同種の水滴型を採用する。2017シーズンの速さはここにあるとも言われていた。
計器も厳格に規定されているが、2017年モデルを見るとフルデジタル化が進み、ディスプレイの大きさや配置は、パイロットの好みとなっている。
2014年から急速に採用されたのがウイングレット(翼端翼)だ。すでに最新の旅客機でも省エネ目的で見られるが、主翼の翼端を上方に向けたり、小さな補助翼を追加して翼端の乱流を制御し、より高い運動性が得られるという。どのチームも試行錯誤しているのと、レース会場ごとに工夫が異なるのも面白い。
レッドブル・エアレースは、資金力による性能差を抑えながら、パイロットの腕で魅せる工夫が満載されている。日本でも人気の高かったイベントだけに、その復活に期待したいものだ。(文 & Photo CG:MazKen)