旧ソ連の名高き「悪役戦車」T-34は、戦車ファンの人気者
第二次世界大戦時の戦車といえば、ドイツのタイガーやアメリカのM4シャーマンなどが代表的なモデルといえるだろう。だが今回は、その2台をしのぎ、現代の戦場にも登場する旧ソ連製の歴史的怪物戦車を紹介しよう。紛争の絶えない第三世界、砂塵まみれの戦場で必ず見かけるのが、旧ソ連が開発したT-55〜T-72戦車だ。欧米戦車の敵として「悪役戦車」や「やられ役」の定番と言える旧ソ連製戦車だが、そのルーツはT-55に端を発する。T-55は、T-62を経てT-72(1971〜1991年)までよく似た外観で判別しにくいが、1958年に登場し1970年代後半までさまざまな派生型を含めると、なんと約10万両以上も製造された超ヒット作だ。
このT-55には、T-34という「偉大な先代」が存在する。T-34は現代戦車の祖とも言われ、ドイツの誇る機甲師団をも恐れさせた第二次世界大戦の「神」戦車だ。ただ、残念なことにT-34の1両では火力と装甲とも、ドイツの名戦車タイガーやパンサーに遠く及ばず、変速機は単純劣悪だった。しかし合理的設計は低コストと大量生産に特化し、低品質を数で補い、高性能・高品質にこだわった少数精鋭のドイツ戦車を圧倒してしまう。
ちなみに、第二次世界大戦当時のタイガーは全系列で約2000両、T-34系列で約5万7000両と、その差は30倍近い。特長として、戦車として初めて本格導入した傾斜装甲は、大戦前期のドイツ戦車に見られる垂直装甲より砲弾を弾き、また傾斜分有効装甲厚が増す=薄い装甲で済む。走行性能も旧ソ連特有の泥濘な大地に対し、軽量な車体と幅広の履帯(俗に言うキャタピラ)で、大戦前期のドイツ戦車より機動力を発揮した。
■V-2-34型エンジン 主要諸元
●型式:水冷 60度V型12気筒 SOHC ディーゼル
●排気量:38.88L
●燃料供給方式:機械式噴射装置
●燃料:軽油
●最高出力:500ps/1800rpm
現代では見かけないが、第二次世界大戦の主力戦車は、ドイツ/アメリカ/イギリスともガソリンエンジンを採用していた。これに対し、T-34はディーゼルエンジンだった。といっても新開発したわけではなく、当時高性能で軽量だった飛行船用のディーゼルエンジンを転用した。砲弾が直撃すれば軽油もガソリンも大差なく炎上するが、延焼速度の点で軽油の方が安全だ。西欧戦車がガソリンエンジンを選んだ理由は、他の軍用車両や航空機との共用を図るためだったといえる。
飛行船用ディーゼルエンジンは軽量で高出力、しかも(旧ソ連製の中では)信頼性も高い。V-2-34型というV型12気筒4サイクルSOHCの38.88Lエンジンは、シリンダーブロック&クランクケース、ピストンが鋳造アルミ合金という、当時としては相当先進的なものだった。軽量さゆえ泥濘地走行でも、駆動系やサスペンションに過大な負荷をかけず、500psの出力は快速性を十分発揮した。同エンジンはT-34以外にも同期のあらゆる戦車や自走砲・大型軍用車両に転用さた。約4万9000両製造されたM4 シャーマンが、実にさまざまなエンジン形式があったのとは対照的に、生産性と前線での整備性の向上に大きく寄与した。
ただし、西側工業国ほど高い品質管理をしない旧ソ連製のアルミエンジンだけに、信頼性や耐久性は低く、やはり粗悪品を大量生産で補う理論であった。T-34の次世代で大ヒット作のT-55(同期の軍用車両含む)に、V-2エンジンのバージョンアップ版としてV-55が搭載された。さらに同じ基本仕様のまま、過給機やファインチューニングによってV-92S2に進化し、最高出力は1000psを発生するのだから驚きだ。 ちなみに、V-92S2は現行型T-90に搭載されている。
21世紀となった現代でも、ラフな扱いに耐えて容易な整備性と安価な旧ソ連製の戦車は、世界各地の紛争地帯で戦い続けているのである。(文 & Photo CG:MazKen)
※生産数は東欧や中国での非正規ルートでの流通を含む推定。
■V-55(V-2-55とも呼ぶ)型エンジン 主要諸元
●型式:水冷 60度V型12気筒 SOHC ディーゼル
●排気量:38.88L
●燃料供給方式:機械式噴射装置
●燃料:軽油
●最高出力:580ps/2000rpm