徹底した軽量化と磨き抜かれた空力性能、足元にはハードボイルドな浅溝タイヤ……。「GT3」でさえ驚愕のパフォーマンスを誇るにもかかわらず、もう一歩、いやもしかすると1.5歩ぐらい、前のめりな速さを極めた「RS」は、いったいどんな違いを体感させてくれるのだろう。海外試乗、サーキットテストそして日本の公道でGT3を知り尽くした河村氏が今、すべてを語る。(Motor Magazine 2019年8月号より)
画像1: 【試乗】五感を刺激するポルシェ911GT3 RSはストリートも走れるサーキットスペシャルマシン

ポルシェ系最強の自然吸気エンジンを搭載

1964年に初代が誕生して以来ポルシェ911は、「戦うこと」でその名声を高めてきた。中でも「サーキットがもっとも似合う存在」なのが、「GTS RS」だ。 

可能な限り低く、前に張り出したフロントスポイラーに、大開口のダクトが刻まれたフロントバンパー。さらには、前輪が回転する際に生まれる圧力ロスを低減してダウンフォースを増大させるフロントフェンダー上のエアアウトレットや、グラマラスなリアフェンダー前部に口を開いたインテーク、そしてアイコンとも言える巨大なリアウイングなどなど……、数々の「異能の形」を見せつける。このクルマがことさら「ただ者ではない」ということは、クルマにさして興味がないという人の眼にも明らかであるはずだ。

誕生以来の流儀に則って、リアエンドの低い位置に搭載されているのは、ポルシェ系の心臓としてはもっともパワフルな自然吸気エンジンを謳う4フラット6ユニットだ。純粋なレーシングマシンである「911GT3カップ」用からほとんど仕様変更が施されていないこのエンジンは、絶対的な速さにこそ不動の正義を求めるGT3 RSに似つかわしい。組み合わされるトランスミッションは、変速時のロスを徹底的に抑えたDCT(PDK)のみ。これは、MTが用意される「ベース」のGT3との大きな相違点だ。

画像: 先代のGT3 RSよりもさらにワイドになったリップとサイドスカートが生むダウンフォースは強力。

先代のGT3 RSよりもさらにワイドになったリップとサイドスカートが生むダウンフォースは強力。

徹底した軽量化とともに最新デバイスも積極的に採用

ルーフパネルはマグネシウム製。リアとリアサイドのウインドウには軽量ガラスが採用されるなど、GT3 RSは、軽量化には並々ならないこだわりを持つ。だが試乗車には、「ヴァイザッハパッケージ」が装備されていた。カーボン織り目仕上げのCFRP製ルーフやフロントフード、同じくCFRP製の前後スタビライザーなどが、一層の軽量化を実現する。

一方で、リアのアクティブステアリングシステムなどのように、重量面でハンディキャップがあることを承知の上で、最新デバイスを積極的に採用する度量の広さを見せているあたりも、興味深い。こうしたフレキシブルな対応もまた、理詰めのクルマづくりが特徴のひとつである「ポルシェの作品」ならでは、と言えそうだ。

「公道も走れる」けれど本質は「サーキットスペシャル」。そんな最新のGT3 RSをテストドライブするために設定された取材当日は、あろうことかの大雨!ドライ舗装路上での高いグリップ力にフォーカスして開発されたダンロップ製タイヤ、SPORT MAXX RACE2では、本来持っているはずのポテンシャルをチェックすることは難しい。そのため、ここから先は、2018年にニュルブルクリンクで開催されたサーキット試乗会での印象も織り交ぜていこう。

時に濃い霧に包まれる雨の箱根でも、GT3 RSが放つオーラの強さは、「普通のGT3」とはまったく異なる。「リザードグリーン」と名付けられた目の覚めるような緑色のボディと、各部に配されたCFRP製パーツの「漆黒」がもたらすコントラストは、鮮烈な印象を残す。これほどレーシーないで立ちに、ライセンスプレートが付けられていることの方が、むしろ不思議とさえ思えてくる。

画像: 0→100km/h加速3.2秒、最高速度312km/hを発揮する、レースで鍛えた心臓。

0→100km/h加速3.2秒、最高速度312km/hを発揮する、レースで鍛えた心臓。

座面が深いバケットシートに腰を降ろし、エンジンに火を入れた瞬間に爆音が静寂を破った。派手な見た目から予想されたとおり。一方で、Dレンジでのスタートシーンが拍子抜けをするほどにイージーで滑らかなことに驚く。 

自然吸気の水平対向6気筒は、最高出力は8250rpm、最大トルクを6000rpmで発生させる典型的な高回転高出力型。しかし諸元とは裏腹に、街乗りで多用する低回転域中心の走りでも力感は十二分伝わってくる。軽量化が徹底された車両重量は1.5tを切っている。それに4Lの排気量を組み合わせるのだから、冷静に考えればそれも当然ではある。

一方、「サーキット生まれ」の自然吸気エンジンがその本領を発揮する高回転領域では、最高のカタルシスが味わえる。実際、回転数が高まるにつれて、頭打ち感どころかむしろ、よりシャープなフィーリングが研ぎ澄まされていくように感じられるのだ。アクセルペダルを踏み込めば、ピッチが高まっていくエンジンサウンドと共に、9000rpmのレッドラインを目指すその全開加速の衝撃……ドライ路面のニュルブルクリンクで堪能した迫力満点の走りは、今も忘れられない。

画像: ステアリングに施された緑色の12時マーカーはオプション。

ステアリングに施された緑色の12時マーカーはオプション。

圧倒的「速さ」とともに万能性も忘れていない

ところで、サーキット走行にフォーカスしただけに乗り味は、当然かなりハード。しかし、これほど硬さを感じるのに、気が付けば予想していたより不快感が控えめに感じられたのは、比類なく高められたボディ剛性のおかげだ。

またGT3以上にファットなタイヤが、路面から拾い上げた直接的な振動を瞬時に減衰させてしまったことも、快適な乗り心地を生むワンポイントと言える。走りのテイストはすべてがソリッド感に溢れ、あらゆる部分に「あそび」がない。と同時に、その挙動にも無駄はなく、より鮮明にダイレクトなコントロール性能を体感させてくれる。

しかもニュルブルクリンクの旧コースで「7分切り」という、とんでもないタイムをマークする絶対的速さを備えながら、そこに至るまでの移動を、何の苦もなくこなしてしまうのだ。

数ある世界のスーパースポーツカーの中にあって、GT3 RSは、武闘派モデルの急先鋒でありながらも、時にそうしたキャラクターを「乗りやすさ」という、オブラートに包みこむことも厭わない。やはりいかにも「911」らしい、万能性の一端を垣間見せてくれたのだった。(文:河村康彦)

試乗記一覧

■ポルシェ911GT3 RS主要諸元

●全長×全幅×全高=4557×1880×1297mm
●ホイールベース=2453mm
●車両重量=1470g
●エンジン= 水平対向6DOHC
●排気量=3996cc
●最高出力=520ps/8250rpm
●最大トルク=470Nm/6000rpm
●駆動方式=RR
●トランスミッション=7速DCT
●車両価格(税込)=2692万円

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