操作フィールが軽くなって速さを身近に楽しめる
日本のスポーツモデル代表として常に圧倒的なパフォーマンスを見せてくれている日産 GT-Rがまた一歩進化した。
2020年モデルとして投入された最新型はパワースペックこそ変更はないものの、ターボの過給ブレードとコンプレッサーハウジング間にアブレダブルシールを採用することで、過給漏れを防いでレスポンスを向上している。
ミッションではアダプティブシフトコントロール(ASC)でRモードを選べば、より積極的に変速を行ってくれることで、パワーを瞬時に引き出す効果を生み出した。
つまり、今まで持っていた機能の精度を一層高めることで、GT-Rの持つポテンシャルを効率良く引き出すことに注力。乗ってこそわかる味付けが施されたのだ。
実際に乗ってみると、まずコンフォートモードでは街乗りでの走りがラクになった。従来型に比べて操作フィールが軽くなった上に、フロントの動きも穏やかになっている。
足元は確実に路面に反応しているものの、全体に柔軟性を持たせたのか、ステアリング操作で抑え込む量が減っている。
市街地をノンビリと流しているときの動きも敏感過ぎず、1000万円を超えるクルマとしての上質感をようやく身に付けたと言っても良いだろう。
もちろんデビュー当時にリアから伝わってきたゴロゴロというミッションノイズは完ぺきなほどに遮断され、当初のワイルドさは今では影を潜めた。
高速やワインディングでは、GT-Rの本領が発揮され、中でもパワーフィールの良さは圧巻だ。3.8L V6ツインターボは、今どきのハイパワーな輸入車などと比較するとスモールサイズに思えるが、吹け上がりの鋭さとパンチ力にかけてはまだまだ存在感十分。
3500rpmを超えてフル過給された時の爆発力は、自然吸気モデルでは味わえない切れ味だ。このあたりはアブレダブルシールの効果に関わらず、不変の乗り味と言っていいだろう。
6速DCTは今どきのものとしてはワイドレンジといえるものの、ビュンビュン吹け上がる元気なエンジンとの相性は良い。シフトアップ後も路面を蹴り上げる瞬殺技で速度をしっかりと伸ばしていく。
6速100km/hでの回転数は2100rpmで、クルージングギアとして十分に納得できるレベルだ。
低い回転域からの加速では、まさにASCのRモードが効果的だ。巡航領域から軽く踏み込んだだけで小気味良くシフトダウンし、パワーレンジに飛び込んで一気に加速態勢に移る上に、ギアをホールドして右足の動きに敏感に反応してくれる。
さらにブレーキングとの連動は巧みで、急激な減速に対してシフトダウンがサクサク決まる上に、ツインクラッチゆえのダイレクト感によって減速Gが持続。ブレーキフィールも以前ほど重くなく、減速感が全体に強力になった印象だ。
レスポンスの良いエンジンと、反応に優れたミッションの組み合わせによって、あたかもクルマの重量が軽くなったと思えるほど。ブレーキやステアリングの操作感も軽くなり、GT-Rの速さを身近に楽しめるようになった。
ただ、全体にカドがとれた乗り味は高い質感は実感できるものの、ハンドリング面に関しては2017年モデルほどの切れ味は感じにくく、面白みが薄れた感もある。
上質さこそ2020年モデルの持ち味といった印象で、すっかり大人びてしまった。それはまたGT-R NISMOとの棲み分けが明確になったとも言えるだけに、GT-R NISMOの走りにも期待したいところだ。
(文:瀬在仁志、写真:井上雅行)
GT-R プレミアムエディション 主要諸元
●全長×全幅×全高:4710×1895×1370mm
●ホイールベース:2780mm
●重量:1770kg
●エンジン型式・種類:VR38DETT・V6DOHCツインターボ
●排気量:3799cc
●最高出力:419kW[570ps]/6800rpm
●最大トルク:637Nm[65kgm]/3300-5800rpm
●燃料・タンク容量:プレミアム・74L
●トランスミッション:6速DCT
●タイヤサイズ:前255/40ZRF20、後285/35ZRF20
●車両価格(税込):1210万5720円