SKYACTIVと魂動デザインで新たなファンを獲得している近年のマツダ。一方で、世界で唯一量産に成功したロータリーエンジンとその搭載車に、今でもただならぬ愛情を注ぐ人たちがいる。そんなオーナーと貴重な愛車を一週間連続でご紹介! 本日はスカイラインGT-Rの連勝記録をストップさせた初代サバンナ、通称RX-3だ。(取材・文:増田 満/写真:伊藤嘉啓)
スカイラインの連勝を阻止した無敵のサバンナ
近年、海外から注目が集まったことで中古車価格が暴騰している国産旧車たち。人気の中心は通称ハコスカやケンメリと呼ばれるスカイラインGT-Rだが、その好敵手だったマツダ・ロータリー勢の人気はいまひとつ盛り上がりに欠けるのが残念だ。なぜかといえば、やはり残存数が少ないためだろう。なかでもスカイラインのレース50連勝をストップさせ、続くツーリングカー100勝を達成したサバンナは高く評価されるべき。これも数が少ないためと考えられる。
残り少ないサバンナ、通称RX-3のなかでも希少な前期型をレーシングカーさながらにチューニングしたのが、このクルマ。オーナーの成田秀喜さんは現在57歳で、サバンナが現役だった当時は多感な中学生時代。ハコスカを王者の座から引きずり下ろして、無敵のロータリーを印象付けた姿に感銘を受けたという。
だからだろうか、運転免許を取得して何台かのクルマを乗り継ぎ、サバンナに辿り着いた。その時の思い出が強烈で、その後に乗ったスポーツモデルのどれよりも楽しかった。今から10年ほど前、若い頃の思い出を再現すべく、サバンナを集め始めたという。
富士マスターズ250km仕様・寺田陽次郎車を完璧に再現
今回の特別企画では2台のサバンナRX-3(もう1台は明日公開予定)と2台のSA22CサバンナRX-7(後日公開予定)が登場するが、いずれも成田さんが買い求め、レーシング仕様にモディファイしたもの。2台のRX-7は友人に託したものの、RX-3は手放さずにいまも手元にある。特にこの1971年式・前期モデルをベースにした寺田陽次郎仕様は、残存数が少ないことから大事にしているそうだ。カラーリングは1971年からレースに参戦したサバンナRX-3のワークスカラー。10月に開催された富士GCマスターズ250kmレースでの寺田陽次郎選手が乗った12号車と同じ仕様を再現している。
特徴的なのはゼブラカラーのボディにフロントのリップスポイラーと前後オーバーフェンダーを装備していること。また前後のバンパーは取り外され、リヤウイングを装着してある。追加装備されたこれらのパーツは、さすがに本物のワークスが使ったものではない。のちに市販された社外部品を使って再現している。また当時のワークスカーではスチール製をワイド加工したホイールを履いていたが、このクルマではRSワタナベ製の8スポークアルミホイールを履いている。とはいえ外観で本物との違いはこのホイールくらいのものだ。
内装を見ると、きっちりサーキットを走るクルマへとモディファイされていることがわかる。内装材はすべて除去され、残っているのはダッシュボードだけだ。そのダッシュボードも改造され、純正のスピードメーターとタコメーターは残っているものの、コラム上にデジタルメーターを追加。センターにはアルミ板でステーを作り、追加メーターやイグニッションを装備。さらにグローブボックスの蓋を取り去り、内側に点火パーツであるMSDを埋め込んでいる。フロアなどむき出しになった鉄板は塗装が施され、ドアの内張はアルミで代用している。また、ピラーなどの内側には軽量のため穴が開けられ、助手席があった場所にバッテリーを配置している。
1971年の仕様を再現するため、エンジンも当時の仕様でチューニングされている。ロータリーエンジンのチューニングといえばペリフェラルポートだが、これがレースで認可されたのは1973年になってからのこと。それ以前は吸気ポートを拡大するブリッジポートで戦っていた。このクルマでもブリッジポートとすることで、当時の仕様に合わせている。もっとも、エンジン本体は10A型ではなく13B型に変更している。パーツが少ないため10Aをオーバーホールするより13Bに載せ換えてしまうことを選んだようだ。
1971年のレース初年度は12月になって、ようやくスカイラインGT-Rの連勝をストップさせた記念すべきシーズンでもあった。数が少ない前期モデルのRX-3を手に入れた成田さんが、サーキット走行用としてこの寺田陽次郎仕様のマシンを製作したことは、ある意味とても貴重なこと。なにせワークスが使ったRX-3は残ってないのだから、誰かが作らなければならない。それを実現したことは大いに評価されるべきだ。