スーパーカーと呼んで良いのかどうか迷うのが「ランチア ストラトス」だ。見た目は紛う事なきスーパーカーなのだが、実際はラリーで勝つことのみを考えて作られたコンペティションマシンなのだから。そして、WRC(世界ラリー選手権)では見事な実績も残している。

スーパーカーではなくパーパス・ビルド・カー

ランチア ストラトスは、「パーパス・ビルト・カー」とも呼ばれる。ラリーに勝つことだけを目的(パーパス)に企画されたクルマだからである。少なくとも当時のラリーでは、専用マシンを作るなどありえないことだった。市販車を改造して走るのがラリー車のあり方だったのだ。

画像: ミッドシップカーは舗装路だけのものという概念を覆したのもストラトスだ。ハイスピードラリーでの速さは圧倒的だった。

ミッドシップカーは舗装路だけのものという概念を覆したのもストラトスだ。ハイスピードラリーでの速さは圧倒的だった。

この企画の仕掛け人のひとりが、ランチアのラリー・チームのボスであったチェザーレ・フィオリオで、後にフェラーリF1の監督にもなるほどの実力者にして情熱家。普通では通らない「わがまま」を押し通した結果、ラリー必勝マシンが、ついに実現することとなった。

画像: 前後カウルが大きく開くというのも、元はラリーカーとしての整備性を考えてのこと。だが、スーパーカーっぽさを演出するにも効果的だった。

前後カウルが大きく開くというのも、元はラリーカーとしての整備性を考えてのこと。だが、スーパーカーっぽさを演出するにも効果的だった。

カロッツェリアのベルトーネもこの企画に関与していた。仕事を欲していたベルトーネは、当時流行の斬新なデザインのミッドシップカー(つまりスーパーカー)のショーカーをランチアをベースに製作し、新しい市販モデルの生産化を提案していた。

画像: 搭載されるエンジンは、フェラーリのディーノ246GTに搭載されたV6DOHCユニット。ラリーバージョンでは、280ps/26.0kgmを発生した。

搭載されるエンジンは、フェラーリのディーノ246GTに搭載されたV6DOHCユニット。ラリーバージョンでは、280ps/26.0kgmを発生した。

その提案が、ラリー用ベース車という形で、ランチアのニーズと合致。ランチア側が、ドライバーをはじめラリーの現場スタッフに、理想のラリーカーを詳細にリサーチしてコンセプトを定め、ベルトーネ側、ランチアのエンジニアのアドバイスを受けて実際の設計と生産を請け負った。

画像: 前後から見るとシャープでいかにもスーパーカー然としているが、サイドから見ると極端に短いホイールベースが目立つ。

前後から見るとシャープでいかにもスーパーカー然としているが、サイドから見ると極端に短いホイールベースが目立つ。

デザインを行ったのは、チーフスタイリストのマルチェロ・ガンディーニである。カウンタックのデザインなどで有名なデザイナーだ。ゼロから開発するだけあって、まさしくラリー専用のプロトタイプレーシングカーと言うべき基本設計とし、センター部分がモノコック、その後方に頑強なサブフレームを組んでエンジンを載せた。

キャビンがモノコックなのは、乗員スペースを十分に確保し、騒音にも配慮したためと言われ、ヘルメットの置き場をドアポケットに設けるなど、疲労の激しいラリーでの乗員への配慮も各所に盛り込まれた。

画像: WRCではアリタリアカラーのワークスストラトスが大活躍した。乗り手は選ぶがターマック、グラベルを問わずその速さを印象づけた。

WRCではアリタリアカラーのワークスストラトスが大活躍した。乗り手は選ぶがターマック、グラベルを問わずその速さを印象づけた。

重量物を車体中央に集めたミッドシップである上、全幅が1750mmもありながらホイールベースはわずか2180mmと短いのは、まさに設計の狙いどおりなのだが、例外的にクイックなハンドリングで、アマチュア・ドライバーには手に余るほどだった。

画像: WRC仕様車のリアビューでは、高速安定性を高めるために大型のリアスポイラーを装着し、280psを路面に伝えた。

WRC仕様車のリアビューでは、高速安定性を高めるために大型のリアスポイラーを装着し、280psを路面に伝えた。

エンジンは当初ランチアの4気筒を積む予定だったが、途中でフィオリオの「わがまま」が高じて、フェラーリのディノ用V6ユニットをもらい受けることに成功した。ただし、その交渉が難航して市販モデルの生産は遅れ、500台程度生産したものの販売は不振だった。

反面ラリーでは見事に世界タイトルを1974年から3年連続で獲得した。本来の目的は達成したと言って良いだろう。またスーパーカーとしても、日本では当時カウンタックに並ぶほどのエキゾチックな存在として人気を集める結果となった。

スーパーカー図鑑のバックナンバー

ランチア ストラトス 主要諸元

●全長×全幅×全高:3710×1750×1110mm
●ホイールベース:2180mm
●重量:888kg
●エンジン:V6 DOHC
●排気量:2418cc
●最高出力:190ps/7000rpm
●最大トルク:23.0kgm/4000rpm
●トランスミッション:5速MT
●駆動方式:横置きミッドシップRWD

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