日本上陸直前にスペインで行われた5代目E90型BMW 3シリーズの試乗会で、すでに新しい330iのテストドライブを経験していた、こもだきよし氏は2005年4月には上陸したばかりの新型3シリーズのハンドルをあらためて握り、約1200kmにわたってじっくりと日本の道を走っている。日本での試乗ではどんな印象を持ったのか、その模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年6月号より。タイトル写真は330i と320i)

意味のあるオプション品、ベースは基本機能の高さ

モデルチェンジといっても、ちょっと目先を変えただけのクルマも多い。そんな中で、すべてが新しくなっているだけでなく、ここまでお金を掛けて開発するのかと驚かされたのが、新型のBMW3シリーズセダンだ。

ヨーロッパで走り出して間もないその新型3シリーズが早々に日本へ上陸。そこで330iと320iを連れ出し、途中でメルセデス・ベンツCクラス、アウディA4というライバル達と合流しながら、東京〜名古屋〜京都〜岐阜〜諏訪〜東京と周回する2泊3日のテストドライブへと出掛けてみた。

初日の夕方、東京・新橋にある編集部を出発。ボクは2年ほど前から「デイタイムランニングライト(DRL)」を実践している。日中でもヘッドライトのロービームを点けていると他のクルマからよく視認されて、レーンチェンジや信号のない交差点などで不意に近寄ってくるクルマが少なくなった。そんな経験から安全のためにDRLを続けている。330iは標準装備、320iにはオプションの「バイキセノンヘッドライト」は、ハロゲンライトより消費電力が少ないから、DRLでも燃費への影響が少ないのはありがたい。

初日の宿泊地に設定された名古屋へと向かう途中、東名高速・厚木ICから小田原厚木道路、西湘バイパス、箱根ターンパイクを通り、箱根を抜ける。陽が沈んだ芦ノ湖スカイラインのワインディングロードを、東名高速の御殿場ICへと走る。この時には、ライトスイッチを左に捻り「AUTO」モードにした。330iに装備されているオプションの「アダプティブヘッドライト」の効果を試すためだ。

コーナーの入り口でハンドルを切り込んでいくと、ヘッドライトは見事にこれから向かう道路を照らしてくれる。ハンドル角だけでなく、クルマのスピード、横G、ヨーレートをセンシングしながら、カーブ外側のヘッドライトは最大8度、内側は最大15度向きを変えて、路面を照らしてくれる。

この時間は、走っているクルマも少ないので、先行車も対向車もいなければハイビームで走る。バイキセノンヘッドライトはハイビーム時もキセノンライトなので明るい。さらにアダプティブヘッドライトは、ハイビームの時でも向きを変えてくれるから空いた道ではとても有効だ。

ハイビームで走行中、アダプティブ機能によってヘッドライトの向きが変わった時、正面にちょっと黄みがかった光が見えることがある。これは4灯内側のパッシング用ハロゲンライトの光だ。パッシング時に点く内側のヘッドライトはハイビーム時にも点灯するので、キセノンライトの照射範囲が左右に動くと、内側のハロゲンライトの光が見えるのだ。

BMW車のAUTOモードは、日本の標準的なオートライトと比べると、まだ日が明るいうちから点く傾向がある。これは、日本とドイツのヘッドライト点灯の基準が違うからだ。ドイツではヘッドライトをなるべく点けることが標準になる。それに対して日本はなるべく消していて、相当に暗くなったら点けるのが基準だ。

そして、一度点くとなかなかオフにならないのもドイツ流だ。AUTOにした時、明るくても点灯する「ドイツ流」がいやならば、iDriveコントローラーの設定メニューでその感度を日本流に変えることも可能になっている。

このワインディングロードで、6気筒モデルにオプション設定されている「アクティブステアリグ」の有難みを再認識した。そのメリットは、バリアブルギアレシオによるもので、通常よりもハンドルの操作角が小さくて済む。手と腕の動きが少なくて済む分、すごく楽になるのだ。奥に入るとさらに回り込んでいるようなコーナーでも、そのまま操舵角を増やしていけば間に合う。だがこれも、基本的な操縦性能が高く、舵角に比例したヨーを出せるからこそできることだ。

スペインでの試乗会で乗った時と同様に、日本で乗ってもアクティブステアリングは良かった。直進付近での過敏さがないから、初めて乗ったとしても違和感がない。5シリーズのような「慣れ」を必要としないのだ。高速道路では、どっしりと安定している。そして一般道では、ハンドルを深く切り込んでいくとより大きく向きを変えてくれるから、楽に走れる。

さらにこれは、スピードの低い市街地走行時にも重宝する。車庫入れなどパーキングスピードでは手の動きよりタイヤが大きく切れる感じだから、駐車がうまくできるようになるドライバーも多いことだろう。

御殿場ICから一路、東名高速を名古屋へと向かう。トラックが多い。トラックがトラックを抜くために追い越し車線まで出てくるのでペースが落ちる。ドイツのアウトバーンでは、トラックレーンを走る重量級のトレーラーの後ろに他のトラックが続き、トラックレーンから出てくることはない。日本ではまだまだルールが確立されていないと思った。

追い越し車線の行く手を遮っていたトラックが走行車線に戻ったところで、アクセルペダルを踏み込む。330iでは、大してアクセルペダルを踏み込まなくても胸のすくような加速が期待できる。3シリーズのボディに300Nmのトルクは、さすがに太いことを実感させられる。

同じ場面で2L 4気筒の320iはどうか。もちろん330iと同じというわけにはいかないが、ボクは320iの加速力でも実用上、十分だと思った。2Lの4気筒ということでは先代の318iと同じだが、N46B20AからN46B20Bへと新しくなったエンジンは、200Nmという最大トルクは変わらないが、その発生回転数が3750rpmから3600rpmへと低くなっている。最高出力も105kW/6000rpmから110kW/6200rpmになり、より低回転域でトルクが増し、高回転までよく伸びるエンジンに熟成されている。

この加速感を味わってから「318i」でなく「320i」というネーミングとなったことに納得した。4気筒エンジンによる軽快なレスポンスは、6気筒とは別の意味で気持ちがいい。

330iと320iを乗り換えながら走った時に、メーターの違いを発見した。330iは右側のタコメーターの一番外側に、5シリーズと同じくゼブラゾーンが変化するリングがある。水温が低い時にはこのゼブラゾーンが回転数の低いところ(おそらく4000か4500rpm)まで下がってくるタイプだ。これが320iにはない。320iに水温計はないから、オーバーヒート気味となった時にはオンボードコンピュータから計器盤中央に警告が出るが、低い時には出ないということになる。停まったままの暖機運転は推奨されていないし、エンジンが温まるのも早いから問題はないのだろう。

スピードメーターも同じように周囲に細い溝がある330iと、溝のない320iという違いがある。330iにはオプションのアクティブクルーズコントロール(ACC)が装備されていたが、ステアリングコラム左下のレバースイッチを操作すると、指示されたスピードがアナログのスピードメーター縁の溝部に白いマークで表示される。この時には計器盤中央の窓にもデジタルでスピードが表示されると同時に、先行車をキャッチしたかどうかのクルマのマーク、そして4段階選べる車間距離のマークが表示される。320iにオプションのクルーズコントロールのスピードは計器盤中央の窓にデジタル表示される。

到着した名古屋では、タワー式の駐車場への挑戦も行った。そして、530iが入らなかったタワーパーキングでも、330iと320iは余裕を持って入れた。3シリーズの全幅は車検証上で1815mmだが、これは最も出っ張っているフロントドアハンドルでの値。左右タイヤの外側の寸法は先代3シリーズより30mm程度広がっただけなので、その駐車場のパレットへ乗るのには問題なかったのだ。

画像: 330i と320iで東京から京都までロングツーリング。その後、京都東ICから名神高速道路に乗って、関ヶ原、岐阜、諏訪を巡り、じっくりと3シリーズを検証した。

330i と320iで東京から京都までロングツーリング。その後、京都東ICから名神高速道路に乗って、関ヶ原、岐阜、諏訪を巡り、じっくりと3シリーズを検証した。

名古屋〜京都〜岐阜、中京地帯で本質を知る

翌日は名古屋高速を通って名神高速に乗り、京都へと向かった。京都南ICから市街地を走って、京都へ来た記念にと「渡月橋」を渡る。花見の季節だったせいか、あまりにも人が多いので撮影を断念。そのまま嵐山高雄パークウェイへと向かう。

この道は空いていて、走るのが楽しいワインディングロードだったが、カーブは回り込むようになっていて難しいコースだ。ここでは17インチタイヤを履く330iがしっかりと路面を掴んで、その割にロール角は小さく、コーナリングスピードも速かった。今回テストしたクルマは225/45R17 91Wのピレリeufori@☆を履いていた。

ミシュランPilot PRIMACYの205/55R16 91VZP☆という標準サイズを履く320iは、タイヤグリップの絶対値は330iほど高くはないが、コーナリング自体はとてもスムーズで気持ちよく曲がってくれる。京都の市街地でも感じたが、16インチのハイトの高さゆえか320iの方が乗り心地はソフトだった。ランフラットタイヤとは思えないほどに優秀な乗り心地が達成されている。

クルマとしてのソフトさも、東京を出発した時点よりも進化している。ダンパーがこなれてきてサスペンションの動きもしなやかになったのだろう。今回の1200km以上に渡った試乗の中で、クルマのすべての部分が徐々に「良くなっていく」という経験をした。そしてこれは、320iと330iともに共通していた。

日差しが強い場所にクルマを止めておく時は、電動リアローラーブラインド、手動の後席サイドローラーブラインドが役に立つ。7シリーズに装備されているものが、オプションとはいえ3シリーズにも装備できるようになったことが嬉しい。これぞ、まさに「プレミアム」カーである。

京都東ICから名神高速に乗り、関ヶ原ICに向かう。関ヶ原の合戦場跡でメルセデス・ベンツCクラス、アウディA4と落ち合うためだ。

無事に合流を果たし4車を眺める。BMW対メルセデス・ベンツ対アウディというライバルの戦いに引っ掛けたわけではないが、昔の合戦場でたたずむクルマを見ていると、各車それぞれがしっかりとした自信を持ってそこに臨んでいるように見えた。

撮影が終了したら、すでに夕方を過ぎていた。撮影待ちの時に寒くなったのだが、新型3シリーズには「REST」スイッチがあるので重宝する。外気温が25度以下、水温が規定以上でバッテリー容量が十分にあれば、エンジンを始動しなくても20分以上ヒーターが効くからありがたい。途中でバッテリー残量が少なくなったら、エンジンを始動できる容量を残してRESTが作動しなくなる。

再び関ヶ原ICに戻り、名神高速を東に向かう。そして一宮JCTから東海北陸自動車道に入り、今晩の宿である新岐阜駅前の地を目指す。ホテルで駐車する時にも「コンフォートアクセス」機能の便利さを知った。

この機能は、リモートコントロールキーをポケットやカバンの中に入れたままでも、アウタードアハンドルを手で引けば自動的にアンロックとなり、シートベルトをしてからブレーキペダルを踏み込んで丸いスタートボタンを押せばエンジンが掛かる。キーを手に持つ必要もなければ、カバンなどから出す必要もない。

クルマから降りる時にも便利だった。キーがカバンの中のままでドアロックができる。アウタードアハンドルの上面に5本ある細くて短いリブ部分を指で1秒押すことでロックがかかるのだ。このリブ部分を長押しすれば「コンフォートクローズ」が作動して、全窓とサンルーフが自動的に閉まる便利な機構も付いている。このドアハンドルの細いリブは、運転席側だけでなく助手席側にも付いている。これで女性をエスコートするために助手席側へ回った時にも有効に使うことができるわけだ。

画像: ワインディングロードでは330iにオプション設定されているアクティブステアリングの有難みを再認識した。奥に入るとさらに回り込んでいるようなコーナーでも、そのまま操舵角を増やしていけば間に合う。

ワインディングロードでは330iにオプション設定されているアクティブステアリングの有難みを再認識した。奥に入るとさらに回り込んでいるようなコーナーでも、そのまま操舵角を増やしていけば間に合う。

ライバルを凌ぐ個性とスイートスポットの幅広さ

3日目は、また東海北陸自動車道に出て今度は北に向かって走る。各務原トンネルを抜け、美濃関ジャンクションから開通したての東海環状自動車道を経て中央道へと出た。目指すは、諏訪だ。お昼には少々遅くなったが、諏訪の地ならではの美味しい蕎麦でお腹を満たした後に一般道を南進する。ここで、BMWW 3シリーズとメルセデス・ベンツCクラス、アウディA4の4台を乗り比べてみた。

高速道路ではドシッと落ち着いているメルセデス・ベンツC230Kだが、コーナリングでもハンドルに従ってよく曲がる。2004年9月にマイナーチェンジしてスポーティ度を高めたCクラスだが、その雰囲気は計器盤のスピードメーターと並んだタコメーターを見ただけでわかる。コーナーでのターンインは悪くなかったが、タイトコーナーの出口でアクセルペダルを踏み込んでいくと意外と早くESPが作動した。リアにもう少しうまく荷重が乗ったらさらに良くなると思う。結果として、リアのグリップ限界がもう少々高いと良いと思った。

アウディA4 2.0 TFSI クワトロは235/45ZR17 94Yというオプション設定のタイヤを装着していて、強力なグリップを発揮。乗り味としては、ばね下のドタドタ感がちょっとある。タイヤが強過ぎた感じで、サスペンションの抑えが利いていない印象だ。それでもコーナー進入時はフロントヘビーながら前が逃げる様子は見られない。しかし低いギアでアクセルペダルを踏み込みながらコーナリングしていくと、コーナー出口でダンパーが耐え切れなくて、一気にロール角が大きくなるケースがある。このタイヤを履くならば、もっとサスペンションが締まっていた方が良いと思った。

一方、タイトターンのコーナーでもBMWは、330iでも320iでもコーナー入り口から出口まで非常にスムーズに、ハンドルを切った通りにラインをトレースしてくれる。ここでも330iに装着されていたアクティブステアリングはハンドルを切る角度が小さくて済み、愉しいと同時に楽でよかった。320iのライントレース性能も高く、狙ったラインへ乗せやすい。4気筒エンジンの軽さは、太いタイヤでなくてもノーズがきれいに向きを変えてくれることに貢献している。

こうした長距離ドライブをしているとクーラーボックスが欲しくなるが、新型3シリーズにはセンターコンソール内部にエアコンの吹き出し口を持ったカップホルダーがある。エアコンの調整によって一番冷たい風にしておくと、ダッシュボード中央の吹き出し口と同じ冷たい風が出てきてカップホルダーに置いてあるものを冷やしてくれる。同様にして、温めることも可能だ。

330i/320iともに1200km以上走って来たら、エンジンもサスペンションもこなれた感じとなり、音も良くなったし、乗り味もしなやかに変わった。これからも走行距離を増すにつれてフィーリングは変わりそうだから、ある意味でこれ以上に良くなることが期待できる。

クルマが慣れてきたところで、ちょっと気になったのが330iのブレーキ性能だ。もちろん高速からの制動力などにはまったく不満はない。それとは反対に、止まる直前のコントロールが気になるのだ。ブレーキが強いのでブレーキペダルを同じ踏力のまま踏み続けていると、停止する時にカックンとなってしまうのが普通だ。330iにはDSCにさらに付加機能を設けて、止まる直前にブレーキ圧力を少し抜きノーズダイブでカックンとならないようにしている。制動距離が伸びるようなレベルではない緩め方だ。多くのドライバーがこれには気付かず、単にカックンが減ったと思うだろう。しかしボクのように、止まる直前にブレーキペダルをジワッと緩めてノーズダイブしないようにしているドライバーだと、最初はちょっと違和感を覚える。

今回のドライブはライバル車との比較試乗も兼ねていたから、なかなか愉しかった。そして新型BMW 3シリーズは、疲れを知らずに走れるクルマだということも改めて認識できた。

新型3シリーズは新技術を満載したハイテクモデルだが、スイートスポットが広い。それゆえ、誰にでも奨めることができるクルマに仕立てられていると感じられたのであった。(文:こもだきよし/Motor Magazine 2005年6月号より)

ヒットの法則のバックナンバー

BMW 330i(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4525×1815×1440mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1550kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:250ps/6600rpm
●最大トルク:300Nm/2500-4000rp
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:625万円(2005年当時)

BMW 320i(2005年)主要諸元

●全長×全幅×全高:4525×1815×1425mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1460kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1995cc
●最高出力:150ps/6200rpm
●最大トルク:200Nm/3600rpm
●トランスミッション:6速AT(6速MTも設定)
●駆動方式:FR
●車両価格:399万円(2005年当時)

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