独特の内外装だが、乗り味にはクセはない
日本ではまだまだDSブランドの認知度は低い。MM社のそばで、いつも広報車のガソリン満タンや洗車をお願いしているガソリンスタンドの店員さん(当然、普通の人よりはクルマを知っている)でさえ、DS3クロスバックを見て「これ、どこのクルマですか?」と聞いてきたくらいだった。
シトロエンのプレミアムブランドとして生まれたDS。そのオリジナルモデル第2弾が、このDS3クロスバックだ。オリジナルモデル第1弾でDSのフラッグシップでもあるDS7クロスバックの弟分的なスタイルは、まさにデザインオリエンテッド。全長は4.1mちょっとというコンパクトなボディながら、フロントマスク、サイドビュー、そしてリアエンドと、どこを見ても他に類をみない存在感のあるスタイリングだ。
キーを持ってクルマに近づけば、ビルトインされたドアハンドルがポップアップする。ドアを開けて乗りこめば、菱形をモチーフとしたインテリアが出迎えてくれる。だが、デザインに走りすぎて機能性を無視したものではなく、スイッチ類の位置や機能はわかりやすく、このクルマに初めて乗っても操作系で戸惑うことは少ないだろう。しかも、本革シートなどのクオリティは高く、日本車では見られなくなってしまった「小さな高級車」という呼び名がピッタリあてはまる。
そんな小さな高級車にふさわしく、先進運転支援システムもこのクラスとしてはトップレベルの充実ぶりだ。アダプティブクルーズコントロール(ACC)は全車速対応&渋滞追従型で、レーンキープ機能も備わる。フル液晶のメーターパネルにヘッドアップディスプレイ、センターダッシュ上のタッチスクリーン、スマホの非接触充電が可能など、機能&快適装備も十分以上のレベルにある。
DS3クロスバックは、BセグメントのコンパクトSUVにあたる。それでも車高は1550mmにおさえられており、立体駐車場にも問題なく駐めることができる。運転席からの目線も思ったほど高くないし、車幅も1.8m以内で車両感覚はつかみやすく、都会の狭い道でも走りやすい。
アバンギャルドなのは見た目だけではなく、PSAグループが新開発したプラットフォームを初採用している。日本仕様のパワートレーンは1.2Lの3気筒ターボのみだが、パワー的には十分。8速トルコンATとの相性も良く、ダウンサイジングターボのおいしいところを多段ATがうまく引き出しているという感じだ。ドライブモードはエコ/ノーマル/スポーツに切り替え可能で、スポーツではエンジン音も元気になりステアリングのレスポンスも良くなるが、エコでは市街地走行でも少々カッタるい。普通に乗るならノーマルで過不足ない走りが楽しめるだろう。
試乗車は18インチの55タイヤを履いていたが、けっこう乗り心地は良く、また振動の少ないボディはフロア剛性が高そうだ。今回は市街地走行が中心でワインディングを走る機会はなかったが、都会のちょっとしたコーナーでも思ったようにスッと抜けるさまに、新プラットフォームの効果を感じさせてくれた。SUVとはいえ駆動方式はFFのみだからハードな悪路走行は得意ではないが、最低地上高は185mmあるし、スタッドレスを履いていれば首都圏の積雪くらいなら問題なく走破してくれるはずだ。
DS3クロスバックは、見た目とは裏腹に乗り味にクセはなく「きわめて普通」だ。他のクルマから乗り換えても、違和感なく普通に乗りこなすことができる。このスタイルやインテリアを気に入って買ってしまったとしても、乗り味でガッカリさせられることはない。
パリの小粋な雰囲気も感じさせる小さな高級車、DS3クロスバック。エントリー輸入車としてもオススメできるクルマだし、オシャレな女性にもぜひ乗って欲しいクルマだ。(文:篠原政明/写真:井上雅行)
DS3クロスバック グランシック 主要諸元
●全長×全幅×全高:4120×1790×1550mm
●ホイールベース:2560mm
●重量:1280kg
●エンジン種類:直3 DOHCターボ
●排気量:1199cc
●最高出力:96kW<130ps>/5500rpm
●最大トルク:230Nm<23.5kgm>/1750rpm
●トランスミッション:8速AT
●タイヤサイズ:215/55R18
●車両価格(10%税込み):411万5000円