直6は期待どおりの力強さ。高速クルージングも快適
現行3シリーズ(G20)でやや落胆したのは、330iと名付けられたトップモデルでも2L直列4気筒で、3L直列6気筒を楽しむことができないという点である。確かに、環境の重要性を考えれば、もはや多気筒大排気量の時代は終わり、次世代のために資源の保護を目指さなければならないのは当然なのだ。しかし、クルマには道具を超えた「何か」、理性を超えた感性、すなわち「移動を楽しむ」という要素があり、これを実現させるにはちょっぴり本音の領域へ入ることになる。
BMWが新たに発表、追加したM340i xDriveはまさに、この本音への入り口に用意されたモデルである。最高出力374ps(ガソリン直噴エンジン用PMフィルターを装備しない日本仕様は387ps)、最大トルク500Nmを発生する3L直列気筒エンジン(B58B30B型)をフロントミッドシップに搭載。この3シリーズのトップモデルには、セダンとツーリングが用意されている。
エクステリアデザインは、フロントバンパー下にワイドに広がるハニカムメッシュを持ったエアインテーク、そして左右にクロームで縁取りされたエアカーテンインテークがアクセントになっている。またドアミラーもクローム仕上げとなっており、テスト車のようにガンメタリック以外のボディを持ったモデルとの差別化に役立っている。
一方、インテリアはサイドシルのウエルカムプレート以外はほとんど4気筒モデルと変わらないが、スタンダードのスポーツシートに腰を落とすと、左右の腰をしっかりとサポートする形状でスポーツセダンに乗り込んだという気分が高まる。
そしてイグニッションボタンを押すと、メーター内にロゴとモデルが登場し、気筒エンジンのスムーズで静かなメカニカルサウンドを伴ったアイドリングでM340iとの交流が始まる。インテリアの仕上げや質感は旧3シリーズ(F)から向上したが、ダッシュボードを横切るように継ぎ目が走るなど、アウディのような統一感に欠けている。
一方、オペレーティング7.0を 採用した操作系は、モダンなデザインだがタコメーターが反時計回りに回る点、さらにダッシュボード中央の滑りやすいメッキ小さな表示のエアコンスイッチなどやや不親切な面が見られる。
日常で楽しめる「駆けぬける歓び」
当たり前のことだが、2L直列4気筒搭載の330iとの129ps&100Nmの差は明らかで、8速の2速発進からでも素晴らしい瞬発力を発揮。アウトバーンの入り口から、安全かつ素早く本線へ合流できる。
またそのまま踏み込めばほとんど変速ショックを感じずに6速であっという間に200㎞/hを超え、軽くハンドルに手を添えるだけで、安定したクルージングを続けることができる。直進性も申し分ないが、こうした高速域ではLKA(レーンキープアシスト)は切っておいたほうが良い、確かに車線内を正しくトレースするが、ハンドルへの余計な入力を抑えるのに苦労するからだ。もちろん低速では非常に重宝する。
一方、アウトバーンを降りて田園を一望する一般道路ではドライブロジックの「ダイナミック」を選んでスポーツ走行が楽しめる。乗り心地はやや固めだが、19インチのスポーツタイヤと相まって素晴らしい接地性とハンドリングを見せてくれる。またブルーのキャリパーを装備したスポーツブレーキは高い制動力を発揮するので、やや速度オーバー気味でコーナーに飛び込んでも安心だ。
M340i xDriveは、2018年まで生産販売されたM3(F30)と比べれば、確かに57psほどパワーは少ない。だが、現代的にアップグレードされた装備、そしてより快適な乗り心地などを考えれば日本仕様の980万円は決して高くはない。
M社の手による究極の高性能をサーキット走行を含めて求めるエンスーオーナーは別として、6気筒による「駆けぬける歓び」を日常でも楽しみたいオーナーに、M340i xDriveは最良の選択肢だと思う。(文:木村好宏)
■BMW M340i xDrive 主要諸元
●全長×全幅×全高=4713×1827×1440mm
●ホイールベース=2851mm
●車両重量=1745kg
●エンジン= 直6DOHCターボ
●排気量=2998cc
●最高出力=374ps/5500-6500rpm
●最大トルク=500Nm/1850-5000rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=8速AT
●車両価格(税込)=980万円