公表された数字からスポーティ志向と予想
メルセデス・ベンツがディーゼル車の日本導入を高らかに宣言したり、フォルクスワーゲンが次世代ターボディーゼルをミッドマウントするエコレーサーなるスポーツコンセプトを発表するなど、ハイブリッドが目立ったフランクフルト・モーターショーとは対照的に、東京モーターショーの輸入車勢はディーゼルに関する話題がなにかと多かった。
これに対し、国内各社が今後の基幹技術に据えているのはやはりハイブリッド。特にこの分野で一歩抜きん出ているトヨタ及びレクサスは、新型エスティマやGS450hといった市販直前の新しいハイブリッド車を複数出展して注目を集めた。
とは言え、それらのニューモデルはいずれもショーに先だって行われた事前発表によってある程度の内容は明らかにされていた。しかしその一方で、プレスデー当日までデータも画像も一切公開しない「サプライズ車」も今年は多かったのである。当然ながらそういうクルマには報道陣が群がることになるが、中でも他を圧倒する注目度だったのがレクサスのLF-Shだ。
「レクサスが日本開業後初の東京モーターショーでコンセプトモデルを発表する」。それだけでもニュース性は抜群だが、そのクルマが次世代のフラッグシップセダンというのだから、レクサスブースが異様な熱気に包まれたのは当然と言えよう。
ところで、レクサスは将来のプロダクトにつながるコンセプトモデルに「レクサス・フューチャー」を意味するLFを付ける。その後に続くSはおそらくセダン。そう言えば前回の東モーターショーに展示された現行GSのデザインスタディと言われていたモデルも、名称はLF-Sであった。
となればもちろん、今回のLF-Shは次期LSと考えるのが順当だ。見逃してはらないのは最後に付く小文字のhである。RX400h(日本名はハリアーハイブリッド)や、今回日本プレミアとなったGS450hからもわかるように、これはレクサスがハイブリッドモデルの最後に付ける文字だからだ。
ただし、公表されたデータは非常に限られたものだった。全長5060×全幅1875×全高1465mm。ホイールベース2970mm。V8エンジン+電気モーターで駆動する4輪駆動方式のハイブリッド。配付されたリーフレットにあるこの情報だけが、現在知りうるすべてである。
そんなわけなので、ここから先の記述は僕の想像を含めたものとなるが、ショーモデルの完成度を見るかぎり、パッケージングとスタイリングは出来上がっていると感じた。
グリルやドア下部のクロームトリムはショーモデルならではの加飾かもしれないが、ロングキャビンの基本フォルムや各部に用いられたレクサス独自のデザインキュー「アローヘッド」などは、市販されるLSでも大きく変わることはないだろう。
ボディサイズは現行セルシオに対して拡大された。全長と全幅はいずれもプラス45mm。一方、全高はマイナス5mmと僅かながら低い。
2970mmのホイールベースは他のトヨタ車には例がないもので、おそらくプラットフォームは新作だろう。ちなみこの数値は7シリーズやSクラスよりも僅かながら短め。この辺と低くなった全高などを考え合わせると、新しいLSはかなり運動性能に振っているという予想も成り立つ。興味深いのはハイブリッドシステムだが、GS450hがFRなのに対しこちらはAWD。したがってハリアーハイブリッドに用いたTHS-Ⅱに近いものと考えられる。しかし組み合わされるエンジンがV8だから、当然各ユニットはまったく新しいものになるはずだ。
V8エンジンは、おそらくD4-Sなどトヨタの持つ最先端の燃焼技術が用いられ、排気量は4.7L程度というのがもっぱらの噂。これにリダクションギアなどを持つハイブリッドシステムを組み合わせ6L級、つまりS600あたりを凌駕する動力性能を得ると期待される。
そしてもうひとつ。プレスコンファレンスで安全性能をしきりに強調していたことを考えると、どうもこのLF-Shには、アクティブステアリング制御付きVDIM以上の、何か画期的な車両安定性制御が盛り込まれるような気がしてならない。
そしてそれはAWDという事柄と密接な関係があるのではないだろうか。たとえば4輪の出力を個別にコントロールし、ヨー方向の制御をやってしまうようなことも有り得る。レクサスのフラッグシップ・ハイブリッドというと、どうも想像が逞しくなっていけない。想像は想像として、ここは追々明らかになって行くだろう情報を待とう。取りあえず直近の興味は、このコンセプトカーのデザインが市販型とどのくらい違うのか。どうやらそれは年明け2006年のデトロイトモーターショーで明らかになるようだ。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2005年12月号より)