力強い加速力、そしてシュアなハンドリング
並みのクルマでは飽き足らないほんの少数の人たちに向けて、コストを惜しまずハンドメイドのような創り方をしているのがアルピナだ。
こだわりを持ったクルマ創りをしているから、一度オーナーになると離れられなくなる。単に高いマテリアルを使っているのではない。センス良く、しかもハイクオリティの仕上がりがオーナーの心をくすぐるのだ。
エンジンも同様。回転が上昇していくときの感触、アクセルペダルに対する忠実なレスポンスを目指している。ここでも単に高性能を目指すのではなく、あくまでも高品質のエンジンフィールを出そうとあらゆる手を尽くしているところが憎い。
サスペンションも同様にハイスピードのコーナリング性能の高さを保ちつつも乗り心地の良さを犠牲にしていない。ここでいう乗り心地とは日本的に単にソフトということではなく、乗員が揺れない、長距離でも疲れない乗り心地を目指している。
いつも裏切られることのなく素晴らしいテイストを味わわせてくれるアルピナだが、今回はB7ロングホイールベース(以下L)とB5の2台を連れ出して、河口湖周辺までドライブしてきた。B7LはBMW7シリーズのロングボディ(E66)をベースにしたアルピナ社製モデルで、B5はBMW5シリーズボディ(E60)のアルピナ社製モデルである。
まずはB7Lに乗ってみよう。エクステリアはアルピナブルーとデカールが目立つが、それ以外は意外と地味だ。フロントにスポイラーはあるが上品な仕上げだ。効きそうなリップも付いているが、見る人が見ればわかるという程度。
リアのスポイラーはCピラーの下部にあるトランクリッドにつながるラインに合わせて後方に伸びている。取って付けたような、とは反対に、オリジナルデザインのようにマッチングしている。けっこう大きく跳ね上がっているがクルマと合っているのでとても美しく見える。ここもアルピナらしい。
足元はフロントが245/35ZR21(96Y)XL、リアは285/30ZR21(100Y)XLという超ファットなミシュラン・パイロットスポーツ2で固め、迫力あるスタイリングの一翼を補っている。ちなみに空気圧は前後とも3.4と高圧だ。
室内に目を転じると、そこにもアルピナワールドが広がる。ブルーとグリーンはアルピナの色だが、その色の糸でステアリングリムの内側を編んである。リムの表面にあるスイッチトロニックの+と-のマークも手縫いで表示されている。ちなみにラバリナレザーで仕上げた3本スポークは手触り、操作感ともいい。ドアトリム、シート、アームレスト、ヘッドレストにもブルーとグリーンの色が散りばめられている。これだけでも室内の雰囲気がガラッと変わる。それは特別に仕立てられた空間にいる心地良さだ。
インストルメントパネルはアルピナ流のインクブルーの地に赤い指針が鮮やかだスピードメーターは310km/hまで刻まれている。タコメーターは5750rpmからゼブラゾーン、6250rpmからレッドゾーンになっている。
エンジンはV型8気筒4.4Lだが、スーパーチャージャーによって最高出力500ps/5500rpm、最大トルク700Nm/4250rpmというビッグパワーと7Lエンジンに匹敵するトルクを絞り出す。カタログデータは0→100km/hは5.1秒以下、最高速度は300km/hとあっさり書いてあるが、2180kgの車重をここまで走らせる力は尋常ではない。
シフト表示がBMWとは異なり、よりドライビングを愉しめるようになっているのも特徴。これまではDレンジという表示だけでいま何速で走っているかわからなかったが、アルピナB7は下の窓に数字が出て現在のギア段数が表示される。これはDレンジだけでなくSレンジでも同じだ。
イージーかつクイックなスウィッチトロニック
スウィッチトロニックはステアリングスポークの裏にボタンがある。スポークのところでグリップし、中指でボタンを押す。右手はアップ、左手がダウンだ。これまでDレンジで走行中にスウィッチトロニックを使おうとしたらMレンジにしてからでないと使えなかったが、B7Lは直接スウィッチトロニックのスイッチを押せばそのままマニュアル操作ができる。スウィッチトロニックを使おうと思った瞬間に使えるようになった。
スウィッチトロニックでの操作が終わりDレンジに戻すときは、ステアリングスポーク上の◇ボタンでDSMの切り替えをすればいい。DSMとはDレンジ、Sレンジ、Mレンジのことで◇ボタンを押すごとに順に切り替わるから、Mレンジにあるときは一回押せばDレンジに戻ることになる。もうひとつの方法としてはセレクターレバーをもう一度Dにするという手もある。
ついでハンドルスイッチについて話しておくと、☆ボタンでオートPのセットができる。しかもこれらはiDriveでボタンの設定を替えることができるから便利だ。
B7Lでの巡航はすこぶる穏やかだ。100km/hでのエンジン回転数は5速1800rpm、4速2250rpm、3速3000rpm、2速4100rpmである。アクセルペダルをあまり深く踏まないように走っていると、1速から2速は5600rpmで行われる。しかし全開加速をしてみると5800rpmでシフトアップする。エンジンのレスポンスが速いのでそれを見越してコンピュータがシフトアップポイントを早取りしているようだ。ちなみに3速へは6000rpm+でアップしていた。
スーパーチャージャーによって過給されるエンジンだが、4.4Lもあるから低回転域でもトルクフルだ。2000rpm以上になるとそのベーストルクに上乗せするようにモリモリ力が出てくる。4000rpmからも、さらに凄い!としか言いようがないトルクが襲ってくる。これはアクセルペダルの踏み込み量に従ってコントロールはできるが、7シリーズが7シリーズでなくなる瞬間だ。
止まる能力も走る能力に比例して強化してある。21インチのホイールの隙間からブレーキローターの大きさを見ればその強力度は見当が付くだろう。ブレーキは単に効くというだけでなく、その滑らかさが重要だが、B7Lのブレーキはペダルの剛性感と気持ちのいい摩擦感を味わいながら制動できる。ペダルを踏み増したときのブレーキングフォースのレスポンスがいいから重量級のクルマでも安心感がある。
一般道でB7Lにしばらく乗っていて気が付いたのは、乗り心地が素晴らしく良いことだ。パフォーマンスの高さに目を奪われがちだが、実用上とても大事な乗り心地もアルピナは忘れてはいなかった。とても21インチタイヤの乗り心地のイメージではない。またロングホイールベースだけでは説明できない良さがある。ゴツゴツした感じがないのはもちろんだが、揺すられる感じが少ないのだ。乗員の頭が動かないから、ドライバーズカーとしてだけでなく、ショーファードリブンのクルマとしても立派に通用する。
B5は走り出すとボディが小さく感じる
もう一台のB5にもB7Lと同じエンジンが搭載されている。正確には最大出力が510psにパワーアップされている。発生回転数や最大トルクは同じである。このエンジンでB7Lより400kg以上軽い1720kgのB5のボディを押し出すということは、どれほど強烈な刺激があるか想像できるだろうか。
カタログデータには0→100km/hは4.6秒、最高速度314km/hと記されている。ちなみにスピードメーターは330km/hまで刻まれている。
ボンネットを開けるとスーパーチャージャーが手前右側に配置されているのがすぐにわかる。空気の流れは少々長い。左側のエアクリーナーに吸い込まれ、シリンダーヘッドカバーの先端をかすめるように左から右へとダクトで誘導される。右側にあるスーパーチャージャーの後ろ側から前に向かって引っ張られていく。このあと掃除機の吸い口のような形をしたアルミダイキャスト内を吹き出すように進む。この先のラジエター部分にはインタークーラーが備えてある。ここを通って冷やされた空気がやっとVバンクの中央に引き込まれていく。
ちょっと長い道中なのだが、アクセルレスポンスは十分に良いし、もたつくような感じは一切ない。日本仕様の5シリーズに標準装着されているAFS(アクティブフロントステアリング)はB5には装備されていない。しかしその滑らかなハンドル応答性はとても自然だし、アルピナらしいスムーズなドライビングが可能だ。
スウィッチトロニックはステアリングスポーク裏のスイッチでマニュアルになるが、その後スウィッチトロニックでシフトしないと自動的にDレンジに戻る。ここはB7Lと異なるプログラムである。
ブレーキはB7Lに比べてさらにしっかりしている感じだ。B7Lでも十分だと思ったが、B5はもっと軽い感じで効く。そして、B7Lより足がしっかりしている感じがする。これも車重の影響があるだろうし、ボディ自体がコンパクトだからということも影響しているだろう。
キビキビしたハンドリングは5シリーズボディなのにもうひと回り小さなクルマのイメージで乗れるから、速くてもドライバーはとてもラクである。このキビキビ感は、ロールの小ささの効果だろう。コーナーにターンインするときにアクセルペダルをオフにするか、さらにブレーキを掛けていきハンドルを切って向きを変えていったとき、ロール角が小さいのですぐにコーナリング姿勢が決まる。またS字のような切り返しのときでも立ち直りが早いので、すぐに次のコーナーに備えられる。
キビキビ感があるだけでなく、ハンドリング性能が正確なのがアルピナらしさである。ただ飛ばすだけならアルピナは要らない。ドライバーがイメージしたラインをいかに正確にトレースできるかというドライビングを楽しむ人に乗ってもらいたい。
アルピナの足の秘密は「フリクションの低さ」
タイヤはB7Lと同じミシュラン・パイロットスポーツ2だが、サイズはフロント245/40ZR19(98Y)XL、リア275/35ZR19(100Y)XLで、空気圧は2.8/3.0となる。
こんなにファットでロールが抑えられているのに乗り心地がすこぶるいい。これはミシュランタイヤのエンベロープ性(タイヤが内側に凹む能力)が良いだけでなく、サスペンションにも秘密があるような気がする。そもそもBMWのサスペンションはフリクションが小さいが、アルピナはもっと軽い。バネとダンパー、スタビライザーの影響を受けないようにしたとき、サスペンション単体でどこまで軽く動かせるかということだ。
上下にしなやかに動いてくれることで、乗り心地が良くなるのはもちろん、路面のアンジュレーションにうまく追従してくれるので、ロードホールディングもよくなるのだ。乗り心地とハンドリングの両方が良くなるためにはこのサスペンションのフリクションを低減することが重要だが、アルピナはそのノウハウを持っているようだ。
さて、走行中のクルマの情報を簡単に得ることができるスイッチがある。ウインカー下側の小さなスイッチを走行中に押せばオンボードコンピュータのデータが呼び出せる。
まずレンジ(航続距離)、平均車速、平均燃費、現在スピードという順で繰り返される。現在スピードというのがアルピナ独自のものだ。アナログメーターとは別にデジタル表示されると便利なケースもある。大体のスピードを見るときにはアナログメーターで、より正確な数字を知りたいときにはデジタルというように使い分けできる。
B5もB7Lと同じように乗り込めばアルピナの高級、高品質な室内で気分を休めることができる。しかし一度走り始めると1000rpmでも3Lエンジンの最大トルクに相当する力を発揮するエンジンに刺激を受けて血中アドレナリン濃度が濃くなるのが自覚できる。この「静と動のバランス」こそがアルピナの持ち味だろう。(文:こもだきよし/Motor Magazine 2005年12月号より)
アルピナ B7 L Supercharge(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:5180×1900×1475mm
●ホイールベース:3128mm
●車両重量:2180kg
●エンジン:V8DOHCスーパーチャージャー
●排気量:4398cc
●最高出力:500ps/5500rp
●最大トルク:700Nm/4250rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:2220万円(2005年)
アルピナ B5 Supercharge(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4841×1846×1468mm
●ホイールベース:2888mm
●車両重量:1720kg
●エンジン:V8DOHCスーパーチャージャー
●排気量:4398cc
●最高出力:510ps/5500rpm
●最大トルク:700Nm/4250rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:1549万円(2005年)