軍用車両を思わせる2.2トンの巨大なボディに直5エンジンを搭載
通称「ハンビー(HMMWV:High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle・軍用車両に対する総称)」はいわば現代のジープだ。機能優先主義の「闘うクルマ」はどこから見てもかっこいい。これにどうしても乗りたかったアーノルド・シュワルツネッガーは、製造元のAMジェネラル社にかけあい、普段の足として使えるよう10台も「特注」したという。
これが1993年に登場した市販モデル、ハマーH1のルーツと言われている。現在はカリフォルニア州知事、元ハリウッドのスーパースター、シュワちゃんのオファーからハマーが誕生したという話は興味深い。
ハマーほど彼にピッタリのクルマは他にない。このH1は民間に市販開始後、たちまちアメリカのいわゆるセレブリティに大人気となる。ステータスシンボルになったわけだ。なにしろでっかくて、強そうなのが素晴らしい、ということだろう。
そして2002年には快適性、プレミアム性をより向上させたH2をリリースしたがこれもヒット。現在は原油高騰のあおりで大型SUV大ピンチの状況ではあるが、半年前訪れたロサンゼルス市内でH2が驚くほどたくさん走っていたのを目撃した。そう、究極のオフロードカーをタウンカーとして使っているのだ。H2でショッピングに出かける方がフェラーリで行くよりも見晴らしがよく気分がいいのだろう。
さて、そのハマーに新しい仲間が加わった。それがH3だ。ひとことでいえば小さいH2なのだが、それでも全幅は2mに近く、車重は約2.2トン。2004年のデトロイトショーに出展し、反響を呼んだH3T(ピックアップトラック)をクローズドボディにしたもので、GMのミドルトラックのプラットフォーム(ラダーフレーム)、エンジンを転用している。
エクステリアデザインは7スロットのルーバードグリル、直立したフロントウインドウ、小ぶりのサイドウインドウ、大径タイヤなどハマーのDNAを継承している。エンジンはH2に使われているV8ではなく、なんと直5 DOHCの3.5L。「この形式はボルボにあるくらい」と思っていたらGMのトラック系には直5、直6が存在する。
H3に乗り込む。アシストグリップが付いていないのでステアリングに手をかけ、よっこらしょとシートに座ると、そこは普通の乗用車の景色。もうすこしハマーらしい演出が欲しいところだ。アイポイントが高いから視界は良好。車体四隅も見切りがよくストレスは感じないが、ウインドウの天地寸法が一般のSUVより少ないので広々感はない。
エンジンをスタートさせ走り出す。ちょっと不思議な感じだ。2.2トンのSUVの車体を懸命に走らせようとする直5エンジン。V8大排気量でドロドロッと車体を押し出す感じではなく、ギンギン回転を上げて車速を稼ごうとする健気なフィーリング。
この直5DOHCエンジンは4バルブ、可変バルブタイミング、電制スロットル付きとハイスペックだ。静かとはいえないが6200rpmあたりまでスムーズに回るので、どこかスポーツセダンに乗っているようでもある。そこが面白いといえば面白いが、ドカーンという加速感はない。なお、トランスミッションはタイプGの4速ATの他にタイプS(廉価グレード)に5速MT仕様も用意されている。いまどき貴重な存在だ。
今回の試乗は一般道に限られていたので、オフロード走破性については語れないが、ハンドリングそのものはクセもなくごく素直である。サスペンションはフロントがダブルウイッシュボーン、リアがリーフリジッドとオーソドックスな構成だが、乗り心地はトラックのそれではなく、近代SUVにふさわしいセッティング。リーフスプリングは決して旧式ではなく、これはこれで長所も多い。
また大柄な車体にしては小回りが効く。最小回転半径は5.5mなので市街地の取りまわしもさほど苦にならない。とにかくハマーH3は存在感があって目立つ。隣りに並ばれてイヤなのは、もっと巨大なH2くらいかな。(文:御田昌輝/Motor Magazine 2006年2月号より)
ハマーH3 タイプG 主要諸元
●全長×全幅×全高:4720×1980×1910mm
●ホイールベース:2842mm
●車両重量:2190kg
●エンジン:直5 DOHC
●排気量:3460cc
●最高出力:223ps/5600rpm
●最大トルク:304Nm/2800rpm
●トランスミッション:4速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:575万4000円