ランドローバーの高級ブランドであるレンジローバーに、2005年、第2のモデル、レンジローバースポーツが登場している。ランドローバー・ディスカバリー3とメカニズムを共有しつつ、レンジローバーらしいプレミアムな仕立てになっているのが特徴だった。このモデルの成功が現在のレンジローバーブランドシリーズの確立につながっている。ではその当時、レンジローバーの「スポーツツアラー」はどうのように受け入れられたのか。当時の試乗記を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年2月号より)

レンジローバーから登場したもうひとつ価値

レンジローバーから漂ってくる「気品」は別格ではないだろうか。初代が登場したのは1970年。デビュー当初は「こんなクルマに誰が乗るのだ」と冷ややかな声もあったが、どっこい英国王室、地方の名士、医師、弁護士などのリッチ層など「本当のセレブ」たちがレンジローバーにまず飛びついた。乗馬、狩猟あるいは別荘に出かける時の絶好のトランスポーターとなったからだ。

そんな顧客の要求に応えるべく、初代レンジローバーはどんどん高級化されることになる。この出自がいまなおレンジローバー=「高級(の上の)SUV」である、というブランドイメージに繋がっているのだ。

時は流れ、ランドローバー社はBMWの傘下に入り、そして現在はフォードグループのPAG(プレミアム・オートモーティブ・グループ)の一員となったが、レンジローバーの血統、伝統性はいささかも揺らいではいない。親会社が変わり、フルモデルチェンジされてもレンジローバーにはひと目でそれとわかる存在感、威圧感がある。

そのレンジローバーに新しいバリエーションが加わった。スポーツツアラーを謳う、レンジローバースポーツがそれである。2004年のデトロイトショーでお披露目されたコンセプトカー(レンジストーマー)を市販化したモデルで、エアロダイナミクスに優れたボディを纏う。レンジローバーの伝統的デザイン(フォーマル感)が各所に散りばめられているが、グンとアグレッシブな佇まいとなった。

フロントウインドーが寝かされ、Dピラーも傾けられたのでグラスエリアはやや小さくなっている。ルーフ後端にはスポイラーを装備し、空力性能を大幅に向上させ、SUVとしては世界でトップレベルのCd値0.37を達成した。タイトル写真のリチャード・ウーリー氏(デザイン部門のスタジオディレクターは「新開発したサイドスポイラーは背の高いSUVの難点だった横風安定性向上に大きく寄与しました」と語ってくれた。

さて、レンジローバーの美点に「コマンドポジション」という独自の運転ポジションがある。これはクルマ全周囲がよく見えるポジションのことだ。レンジローバースポーツは前述したとおり上屋部分がオリジナルとは異なるから、閉塞感があるかなと思いつつ乗り込んでみると、それほど変わらない感じなので安心した。寝かせたというフロントウインドーもそれほど気になる角度ではないし、サイドウインドー越しの視界も良好だ。ただしボンネット両端のキャストレーション(城郭風のエッジ)はない。

画像: テールゲートは2分割式ではなく、ワンピースでガラス部分が独立開閉式のラウンドした形状。コンパクトな感じがするのはそのため。

テールゲートは2分割式ではなく、ワンピースでガラス部分が独立開閉式のラウンドした形状。コンパクトな感じがするのはそのため。

V8スーパーチャージャーはパワフル&ジェントル

レンジローバースポーツに搭載されるエンジンはジャガー製のV8で2種類ある。ひとつは4.4Lの自然吸気、もうひとつは4.2Lスーパーチャージドで、前者は220kW(299ps)、後者は287kW(390ps)のスペックだ。これまではBMW製ユニットを搭載していたが、同社とのエンジン供給の契約期限が切れたため、現在は身内のエンジンに換装されている。

スーパーチャージドは自然吸気に比べ出力、トルクが約30%アップされているが、燃費はほぼ同等という。試乗車はもちろんこちらを選択した。シートに腰を下ろすとまるで豪華スポーツカーの雰囲気。大きなセンターコンソール、ドライバー側に寄せられたシフトノブ、アルミのべゼルで囲まれたメーター類など昂揚感をあおる巧みな演出だ。

スタートしてすぐにスーパーチャージドの恩恵が伝わってくる。最大トルクは550Nm(56kgm)もあるから、その走りは余裕綽々。スーパーチャージャー(イートン製)はインテーク側に設置され、常に一定のブースト圧を保つのでパワー、トルクの出方がごく自然なのだ。

排気量が5L以上あるようなパワーフィーリングといえばわかりやすいだろう。従来型に搭載されていたBMW製4.4Lエンジンは確かに回り方が官能的で好ましいパワーユニットだったが、力強さの面ではこちらが断然リードする。といってもハイパワー指向に振ったチューニングではなく、ジェントルかつスムーズな出力特性になっているのが「大人」っぽく奥の深さを感じる。

乗り心地、ハンドリングもまた、ただならぬものがある。シャシは軽く、かつ耐久力のあるラダーフレームと高剛性モノコックの長所を合体させたインテグレーテッドボディフレーム(新型ディスカバリー3で初採用)をベースにホイールベースを152mm短縮したもの。そしてフレームとボディの間にはミニダンパーを装備している。このダンパーはボディをマウントしているブッシュと隣接しているためランドローバーでは両方をまとめて「ミニサスペンション」と呼ぶ。つまり「二重構造」の足まわりということになる。

速度を上げていくと、その走りはもはやSUVのカテゴリーではない。大柄の車体がまるでギュッと凝縮されたかのような走行感覚だ。それは大パワー、トルクのエンジンによるものだけでなく、緻密な制御を行う電子制御式エアサスペンションやダイナミックレスポンスと呼ぶ電子制御式アンチロールコントロールシステムが「いい仕事」をしているからに他ならない。

ZF製の6速AT、同じくZF製の速度感応式パワーステアリングも上質感に溢れる。さらにスーパーチャージドのブレーキには高級スポーツカー御用達のブレンボ製4ポッドピストンを採用しているから、鬼に金棒のストッピングパワーを持つ。

レンジローバースポーツはニュルブルクリンクをはじめ、イタリアのナルドで高速テスト、オーストラリアの未開拓地帯、灼熱のデスバレー、酷寒のスウェーデンでのべ400万マイル(6400万km)におよぶテストプログラムをこなしたという。日本で使うには「超オーバークオリティ」なクルマであるところが素晴らしい。(文:御田昌輝/Motor Magazine 2006年2月号より)

画像: イートン製スーパーチャージャーを装着したジャガー製V8エンジン。

イートン製スーパーチャージャーを装着したジャガー製V8エンジン。

ヒットの法則

レンジローバースポーツ スーパーチャージド(2006年) 主要諸元

●全長×全幅×全高:4975×1930×1810mm
●ホイールベース:2745mm
●車両重量:2170kg
●エンジン:V8DOHCスーパーチャージャー
●排気量:4196cc
●最高出力:390ps/5750rpm
●最大トルク:550Nm/3500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:1090万円(2006年当時)

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